
2025年4月21日、スーパーの米平均価格が5週連続で値上がりしたことが報道されました。政府は備蓄米を放出して価格を抑えようとしているものの、国産米の高騰が止まりません。
そのため、比較的安い輸入米に注目が集まっています。このような背景から輸入米にビジネスチャンスを見出している方もいらっしゃるでしょう。本記事ではそのような方に向けて、輸入米の基礎知識や注目される背景、活用事例を紹介します。
参考:NHK「スーパーの米平均価格 5キロ4217円 15週連続で値上がり」
輸入米の基本知識
輸入米をビジネスで活用するために、ここでは制度などの基本知識を紹介します。
ミニマム・アクセス(MA)とは
まず押さえておくべき輸入米の基本知識は、ミニマム・アクセスです。
ミニマム・アクセスとは、1986年~1988年にかけて輸入量がほとんどない農作物について、最低輸入量を設定し、低関税で輸入できる機会を提供することです。日本は輸入米に対して高い関税をかけているので、米がミニマム・アクセスの対象となり、現在では年77万玄米トンのミニマム・アクセス米を国が輸入しています。
この制度は1993年のWTO(世界貿易機構)ウルグアイ・ラウンドにおいて、高関税による事実上の輸入禁止政策を撤廃する目的で作られました。
またミニマム・アクセスは、必ずしも設定した全ての量を輸入する必要はありません。しかし、日本は国が輸入を行っていることから、毎年全量を世界から輸入しています。なお、ミニマム・アクセス米は非課税ですが、その枠を超える分については1kgあたり341円の関税を課しています。

出典:農林水産省「国家貿易による米の輸入の仕組み」
輸入米の国別の内訳
これまでの輸入米といえば、ミニマム・アクセス米がほとんどの割合を占めていました。そのミニマム・アクセス米の輸入数量の内訳は以下のとおりです。

参考:農林水産省「国家貿易による米の輸入の仕組み」
グラフから、ミニマム・アクセス米の主な輸入先はアメリカ、タイ、中国、オーストラリアです。中でも中核を担うのがアメリカとタイで、全体に占める割合は85.9%に達しています。
輸入米の主な用途
ミニマム・アクセス米は、1995年から2021年までの累計で1,888万トンが輸入されました。これらの米は様々な用途に分けて販売されており、内訳は以下のとおりです。

参考:農林水産省「国家貿易による米の輸入の仕組み」
これまでに最も多く使用されたのは飼料用で、767万トンが販売されています。次に多いのが加工食品の原料用です。加工用の需要には限りがあるため、海外への食料援助にも充てられています。一方、主食用として販売されたのは全体のわずか8.8%(164万トン)にとどまっています。
輸入米が注目される背景
最近では、「韓国からの輸入米が過去最大となる見通し」など、輸入米に関するニュースが増えており、その注目度の高さがうかがえます。ここでは、このように輸入米が注目される背景について解説します。
参考:NHK「韓国から米輸入 過去最大の見通しも 価格高騰で」
国産米の価格高騰
輸入米が注目される背景の一つは、国産米の価格高騰です。冒頭でも述べたとおり、国産米は15週連続で値上がりしており、消費者や事業者に大きな影響を与えています。政府は価格抑制のために備蓄米の放出を進めていますが、依然として供給が追いつかず、国産米の品薄状態が続いているのが現状です。この供給不足と価格上昇を受けて、比較的安価で安定的に調達できる輸入米への関心が高まっているのです。
アメリカの相互関税政策
輸入米が注目されるもう一つの背景は、トランプ米大統領の相互関税政策です。トランプ米大統領は、日本の米に対する関税が不当に高いとし、「米国産の米に700%の関税を課している」と主張しました。トランプ米大統領の発言は事実誤認※が含まれますが、日本に対して24%の相互関税を導入する一因になったと考えられています。さらに、アメリカはこの主張をもとに、米国産米の輸入拡大を迫っています。一方、日本政府は国内の農業保護を目的に、米の輸入拡大に否定的です。※実際は、1kgあたり341円の従量税が適用されています。
このような背景から、輸入米に関する動向に注目が集まっています。
なお、相互関税について詳しく知りたい方は、「トランプ政権の“相互関税”がもたらす世界再編~日本企業が備えるべき変化とは~」をご覧ください。
輸入米を取り扱う動きが拡大:活用事例
輸入米への関心の高まりや需要が拡大する中、日本企業でも輸入米を活用する動きが広がっています。ここでは、そうした取り組みの一例として、4社の活用事例を紹介します。
イオン株式会社
イオン株式会社は、「イオングループ」を運営する大手小売企業です。同社は、米の安定供給を目的に、米国産と国産の米をブレンドした新商品を発売しました。このブレンド米は米国産を8割、国産を2割配合しており、全国のイオングループ約2,000店舗で販売されています。このように米国産米を多く使用することで、4kgあたり3,002円(税込)という低価格を実現しています。
参考:イオン株式会社「米国産と国産のブレンド米「二穂の匠」を発売」
株式会社コロワイド
株式会社コロワイドは、焼き肉やしゃぶしゃぶ、回転寿司、居酒屋など20余のブランドを展開している外食大手企業です。一部のチェーン店で、値上げ幅を抑えるために米国産の輸入米を使用しているとのことです。また、炊く際に水分を調整することで、国産米と変わらない味や食感を実現できたとしています。
参考:NHK「輸入米活用の動き広がる 国産の米価格が高騰する中で」
株式会社松屋フーズ
株式会社松屋フーズは、「松屋」をはじめとする飲食チェーンを展開している企業です。
同社は現在、松屋を含む9ブランドの約1,100店舗で、米国産米と国産米のブレンド米を使用しています。この対応は、国産米の価格高騰と供給不足により、必要な量を確保できなくなったことが背景にあります。
参考:日本農業新聞「輸入米じわり浸透 国産不足を「ブレンド」で代替」
オーケー株式会社
オーケー株式会社は、ディスカウントセンターやスーパーマーケットを運営する企業です。同社が運営する食品スーパー「オーケー」では、米国産米の「カルローズ」の販売を10店舗限定で始めました。売れ行き次第で販売を拡大する予定とのことです。
参考:読売新聞オンライン「米高騰で外国産米の民間輸入が急増、高い関税払っても「十分に採算取れる」」
需要が高まる輸入米!需要と供給のバランスに注意
輸入米は、高い関税が課せられているにもかかわらず、国産米より低価格で販売できるという利点から、近年その需要が急速に高まっています。とくに、大手小売企業や外食チェーンを中心に、輸入米を活用する動きが見られます。この傾向を受けて、ビジネスチャンスを感じている方もいらっしゃるでしょう。
しかし、輸入米は過去に社会問題に発展したことがあります。それは「平成の米騒動」と呼ばれる1993年のことです。その年は、記録的な冷夏と長雨の影響で米が凶作となり、日本政府は259万トンの輸入米を緊急輸入しました。ところが、日本人の嗜好に合わなかったことから約4割(98万トン)が売れ残り、その多くが廃棄される事態となりました。
このように、需要と供給のミスマッチは、想定外の損失を生む可能性があります。輸入米をビジネスで活用するには、市場ニーズの分析や品質を調整するブレンド技術、さらに戦略的な販売方法が必要です。
輸入米を取り巻く変化に注目しよう
輸入米は、コスト面での優位性や国産米の品不足という点から、ビジネスとして大きな可能性があります。一方、備蓄米の放出やアメリカによる輸入拡大の要求といった政治的な動きは、需要と供給のバランスに大きな影響を及ぼす可能性があります。輸入米でビジネスチャンスを捉えるには、こうした国内外の動向に注目しましょう。