トランプ政権の“相互関税”がもたらす世界再編~日本企業が備えるべき変化とは~

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相互関税について

2025年4月2日に、トランプ大統領による「相互関税」の政策が発表されました。
2025年4月9日から世界各国を対象に発動されましたが、同日、相互関税の一部について、90日間一時停止することを発表しました。
改めて相互関税発動時に、各国に対して何%の税率が課されていたのかを整理します。

国/一部製品税率
日本24%
欧州連合(EU)20%
中国34%(既存措置と合計で54%)
※4/10時点:125%に引き上げ
韓国25%
インド26%
ベトナム46%
タイ36%
インドネシア32%
マレーシア24%
その他の国最低10%(基本となる関税)
自動車(完成品・部品)一律追加25%
※日本の場合、自動車は27.5%、トラックは最大で50%

(参考:https://www3.nhk.or.jp/news/html/20250403/k10014768241000.html
※2025年4月10日時点の内容のため、変動する可能性がございます。

上記の数値からも分かるように、中国や東南アジアを中心とした地域に対して高い関税率が課されていることが読み取れます。
特に東南アジア諸国は、中国への依存度を減らすための「チャイナプラスワン戦略」の受け皿となっており、多くの企業が生産拠点やサプライチェーンを分散してきました。そのため、これらの地域から米国への輸出には大きな影響が及ぶことになります。

日本企業も例外ではなく、東南アジアから米国向けに製品を輸出する際、高関税によってコストの優位性が損なわれる可能性があります。
製造コストの増加は、輸出後の販売価格に反映されることが想定され、米国内でのシェア縮小や価格競争力の低下といった影響が懸念されます。

しかし、「相互関税」政策については、4月9日に中国を除く国への相互関税措置の90日間の一時停止が発表されました。こうした一時停止の背景には、金融市場の動揺への懸念や、世界各国との交渉余地を残す意図、貿易摩擦の激化回避への配慮があると見られます。

中国は報復関税を発表し104%から125%への更なる追加税率の上乗せが発表されましたが、それを受けて各国の関税に対する交渉の動きはさらに慎重さを増していくと考えられます。

今回の相互関税政策の発表と一時停止を受け、日本企業は今後の海外事業戦略について、早期に検討と対策を講じる必要があると考えられます。

今後予想されるグローバリゼーションの可能性について

海外事業を推進するにあたっては、進出国の経済状況だけでなく、政治体制や文化、地域の特性を十分に考慮する必要があります。
また、近年では、国や地域の枠を超えた「グローバリゼーション」の考え方が主流となっており、国境を越えた対応が求められるようになっています。
このグローバリゼーションの流れは、大きく3つの段階に分類されます。

グローバリゼーション1.0(1980年代頃):
 固定相場制による円安を武器に、国内で製造した製品を、低価格で海外に輸出することが中心でした。
グローバリゼーション2.0(1990年~2010年代前半):
 海外に製造拠点を持ち、コストを抑えて製造した製品を自国を含む既存市場に展開することで、コスト削減による利益拡大を実現してきました。
グローバリゼーション3.0(2010年代後半以降):
 各企業がそれぞれの強みを生かし、新たな事業創出を通じて海外展開をさらに拡大する段階へと進化しています。
 国ごとに異なる情勢を正確に把握し、適切なタイミングで投資を行うことが、重要となっています。

上記のようなグローバリゼーションの考え方は今も日々変わり続けています。
特に、2020年以降にグローバリゼーションの流れに変化が見られるようになってきました。

新型コロナウイルスの世界的な流行や、2022年以降のウクライナ危機、米中対立の深刻化などにより、これまで拡大傾向にあったグローバリゼーションにブレーキがかかりました。

これらの地政学的リスクやサプライチェーンの寸断は、各国に「経済安全保障」や「自国回帰」の必要性を再認識させ、新たなグローバリゼーションの段階、いわばグローバリゼーション4.0とも言える時代への過渡期にあると捉えられます。

「相互関税」政策に対する当社の見解

そうした背景のもと、「国内回帰」を掲げるトランプ大統領が今回発令した「相互関税」政策について、当社ではいくつかの狙いがあると推測しています。
米国はGDPの約7割を国内消費が占める消費大国として知られていますが、その裏側では、個人の借金や過剰な消費が経済を支えているという構造があります。
実際、2024年12月時点のデータによると、米国の家計債務総額は18兆360億ドル(日本円で約2,800兆円)にのぼっています。
(出典:CEIC DATA 米国 家計債務

この家計債務は増加傾向にある一方、経済成長率は上昇と下降を繰り返しており安定しているとは言えない状況です。

(参考:https://ecodb.net/country/US/imf_growth.html

こうした状況から、米国では近い将来「リセッション(景気後退)」が発生する懸念があると当社では見ています。
関税が引き上げられることで、物価高が誘発されることから、個人消費の収支バランスが崩れ、それが限界を超えたタイミングでリセッションの引き金となるおそれがあります。
トランプ大統領は、あえてこのリセッションの時期を早めることで、その責任の一部を前政権に帰す狙いがあり、かつ、リセッション後に自らの経済・金融政策で回復を図ることで、再び「成果」として自らの実績を強調する狙いがあるのではないかと考えられます。

以上はあくまで当社としての見解であり、推測を含む内容ではございますが、グローバリゼーションの構造が大きな転換点を迎えていることは明らかです。
この機会に改めて、自社の事業ポートフォリオやサプライチェーン・マネジメント(SCM)、さらにはバリューチェーン(VC)へのリスクを見直し、環境変化に柔軟に対応できる事業体制の構築が、今後ますます重要になると考えております。

※本見解は、2025年4月2日に発表された「相互関税」に関する報道をもとに当社として整理したものです。一部に推測を含み、事実と異なる可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

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