2026年7月29〜30日、コマツ・日立建機・コニカミノルタが同じ週に「米関税・円安が増益要因」と発表しました。3社とも決算資料に「関税」「円安」という同じ2つの単語が並びますが、増益になった経路は会社ごとに違います。関税や為替のニュースの見出しだけを見て「向かい風か追い風か」を判断すると、自社にとっての実際の経路を取り違えます。ここでは3社の決算から4つの経路を整理し、自社の事業計画にどれが当たっているかを確認する視点を提示します。
同じ週に3社が「関税・円安は増益要因」と発表した
2026年7月29日、コマツは2027年3月期通期の連結純利益予想を3,180億円から3,490億円へ上方修正しました。理由は「米関税の影響が想定を下回ったため」です。第1四半期(2026年4〜6月)の純利益は961億円(前年同期比5.4%増)で、円安の為替効果と北米・中南米・アフリカでの売上増が寄与しました(ロイター・2026年7月29日)。
7月30日には日立建機が2027年3月期通期の純利益予想を前期比15%増の840億円へ上方修正(従来予想を40億円上回る)。円安の進行と、米国の鉄鋼・アルミ関税引き下げによるコスト負担軽減が理由です。同日、コニカミノルタは2026年4〜6月期の純利益が前年同期比7%増の77億円だったと発表しました。米関税の還付金74億円と、円安による48億円の増益効果が押し上げました(いずれも日本経済新聞・2026年7月30日)。
3社の決算・要点数値(2026年7月29〜30日発表)
3,490億円 コマツ・2027年3月期通期純利益予想(従来3,180億円から上方修正)|840億円 日立建機・同通期純利益予想(前期比+15%)|77億円 コニカミノルタ・4〜6月期純利益(前年同期比+7%)
増益になった経路は会社ごとに違う——4つの経路
3社の決算を分解すると、「関税」「円安」という同じ言葉の裏に、性質の異なる4つの経路があることが分かります。
①関税還付——すでに払った関税が戻ってくる
コニカミノルタは米関税の還付金74億円を受け取りました。これは将来のコストが減るのではなく、過去に払った関税の一部が戻ってくるという経路です。対象品目・手続きの条件を満たしているかどうかで発生の有無が決まります。
②関税率の引き下げ——将来のコストそのものが軽くなる
日立建機は米国の鉄鋼・アルミ関税が引き下げられ、今後のコスト負担が軽くなりました。一方で2026年7月24日、米国は強制労働への対策が不十分だとして、通商法301条に基づく関税を日本を含む60の国・地域へ発動しています。
ここで注意が必要なのは、対日措置は「一律12.5%の上乗せ」ではないという点です。日本・韓国・スイスには、通常税率(MFN税率)と301条関税の合計が12.5%になるよう調整する合算方式が適用されます。MFN税率が12.5%未満の品目は差額分だけが課され、すでに12.5%以上の品目には追加課税がありません。さらに自動車・鉄鋼・アルミなど通商拡大法232条の対象品目は除外されています。同日失効した従来の一律10%措置(通商法122条・MFN+10%)との損益分岐点はMFN2.5%で、同じ日本企業でも品目によって負担が増えるもの・変わらないもの・むしろ減るものが併存します(USTR最終措置・2026年7月23日公表/時事通信ほか同24日報道)。
つまり「対日◯%」という国単位の数字では、自社への影響は判定できません。自社製品のHTSコード単位でMFN税率を確認しないと、負担が増えたのか減ったのかすら分からないということです。
③為替換算益——海外の現地通貨の売上高を円に換算した時点で増える
コマツ・コニカミノルタとも円安が増益要因として明記されています。これは海外子会社の現地通貨での売上高そのものが増えたわけではなく、円に換算する段階で金額が増えるという経路です。参考として、ドル円は2026年7月30日夜のニューヨーク市場で163円台から157円台まで数時間で下落し、31日午前には160円前後で推移しました(当局による市場介入との観測・日本経済新聞ほか2026年7月31日報道)。円はユーロに対しても同時に上昇しており、この2日間だけで為替換算益・換算損の前提は数円単位で動いています。
④現地売上・現地生産の増加——関税・為替とは別に、現地の事業そのものが伸びている
コマツの増益は為替効果だけでなく、北米・中南米・アフリカでの建設機械・車両部門の売上増によるものでもあります。現地生産・現地販売の比率が高い事業ほど、対米輸出にかかる関税の影響そのものが小さくなります。これは関税・為替のニュースとは独立に、事業構造そのものが持つ耐性です。
補足:関税の「根拠法」がこの半年で2回入れ替わっている
もう一点、社内資料を見直す際に見落としやすい点があります。対米輸出にかかる関税は、この半年で根拠となる法律が2回替わっています。
2025年8月から2026年2月まで適用されていたのは、IEEPA(国際緊急経済権限法)に基づく相互関税で、日米合意により「MFN税率か15%の高い方」という枠組みでした。ところが2026年2月20日、連邦最高裁がIEEPA関税を無効と判断。同日から通商法122条による「MFN+10%」(150日の時限措置)に切り替わり、その122条が7月24日に期限を迎えると同時に、今回の301条関税へ移行しています。
つまり「相互関税24%」「日米合意で15%」といった2025年時点の数字は、いずれも現在の計算根拠ではありません。昨年つくった損益シミュレーションをそのまま使っていると、前提から違っていることになります。
いま織り込むべき前提 「関税・円安が増益(または減益)要因」という見出しだけでは、自社のどの経路が動いているかは分かりません。関税還付・関税率引き下げ・為替換算益・現地売上増のうち、自社にとって意味のある経路とそうでない経路を切り分けて見る必要があります。加えて、関税は国単位の税率ではなく品目単位(HTSコード)で確認する——この2点が出発点になります。
4つの経路が示していること——環境由来の利益と構造由来の利益
4つの経路を並べると、性質がはっきり2つに分かれます。
経路①〜③(関税還付・関税率の引き下げ・為替換算益)は、いずれも自社が何かをした結果ではなく、外部環境が動いた結果です。関税制度が変わった、円が安くなった——どれも自社の意思決定の外側で起きています。したがって再現性がなく、逆方向にも同じ幅で振れます。円安で48億円の換算益が出る構造は、円高になれば同じ規模の換算損が出る構造でもあります。今期の増益要因は、来期そのまま減益要因になりえるということです。
一方で経路④(現地売上・現地生産の増加)の利益は、環境が逆に振れても残ります。コマツの北米・中南米・アフリカでの売上増は、関税率がどう動いても、円がどちらに振れても、事業が生んだ利益です。
この違いを踏まえると、決算を読むときの問いは変わります。「いくら増えたか」ではなく、「その利益は来期も残るのか——構造由来か、環境由来か」。同じ「増益」という言葉でも、意味はまったく違います。自社の事業計画についても同じで、環境由来の追い風を計画の前提に織り込まないことが出発点になります。
予測の精度を上げるのではなく、影響の感度を下げる
ではどうするか。関税も為替も、当てにいかないほうが確実です。専門家でも当たらないものを前提に計画を組むより、どちらに振れても成立する構造を用意するほうが再現性があります。言い換えれば、予測の精度を上げる努力より、影響の感度を下げる努力です。
感度を下げる手立ては、大きく3つに整理できます。
- 現地生産・現地調達の比率を上げる——関税(越境しなければかからない)と為替(現地通貨で完結する)の両方に同時に効きます
- 価格転嫁力を持つ——コスト増を価格に反映できるかどうかで、関税・原材料高の影響は大きく変わります。ブランド・技術・代替困難性がここに効きます
- 売上と費用の通貨を揃える——同じ通貨で稼いで同じ通貨で払えば、為替は自然に相殺されます(自然ヘッジ)
いずれも税務や為替の専門知識ではなく、事業構造の設計の話です。だからこそ、経営として判断できる領域でもあります。
自社の事業計画にどう当てはめるか
4つの経路を自社に当てはめる作業は、税務・為替そのものの専門知識ではなく、事業構造をどう切り分けて見るかという整理です。次の8点は、決算の巧拙にかかわらず自社で確認できます。
確認ポイント(全8項目)
関税側 ①自社の主要輸出製品のHTSコードとMFN税率を把握しているか(国単位の「対日12.5%」では判定できない) ②自社製品が232条対象品目(自動車・鉄鋼・アルミ・銅・木材・半導体など)や除外措置に該当するか確認済みか。除外リストは随時改正されるため、時点を添えて確認する ③損益シミュレーションが2025年の「15%」「24%」前提のまま止まっていないか ④関税の減免・還付の対象になりうる取引がないか(対象品目と手続き要件の確認)
為替側 ⑤海外子会社の現地通貨売上高は、為替換算だけで前年比何%分の増減になっているか算出しているか ⑥為替が1円動いたときの営業利益への影響額を把握しているか
構造側 ⑦事業別・地域別に、現地生産・現地調達・現地販売の比率を把握しているか ⑧売上の通貨と費用の通貨がどれだけ一致しているか(自然ヘッジがどれだけ効いているか)
まとめ:関税・為替を事業計画に組み込む5条件
- 経路を分ける——関税還付/関税率引き下げ/為替換算益/現地売上増を混ぜて見ない
- 環境由来と構造由来を区別する——今期の増減益のうち、来期も残るのはどこまでかを切り分ける。環境由来の追い風は計画の前提に置かない
- 自社の対象品目を特定する——関税は国単位ではなく品目単位(HTSコード・MFN税率)で効くため、自社製品の該非と除外措置を確認する
- 為替感応度を数値化する——1円の変動が営業利益にどれだけ効くかを算出しておく
- 感度そのものを下げる——現地生産・現地調達の比率、価格転嫁力、売上と費用の通貨の一致。このいずれかを厚くすれば、前提が動いても計画は壊れない
関税率や為替レートを当てることはできません。しかし「どちらに振れても成立する構造か」は、いま自社で確認できます。それは制度の専門知識ではなく、事業構造の把握の問題です。
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主な出典
コマツ決算・通期純利益予想(ロイター「コマツ、通期予想を上方修正 米関税・中東情勢の影響が想定下回る」2026年7月29日)/日立建機決算(日本経済新聞「日立建機の純利益15%増に上振れ 27年3月期、円安と米関税負担減」2026年7月30日)/コニカミノルタ決算(日本経済新聞「決算:コニカミノルタ純利益7%増 4〜6月、米関税還付や円安で」2026年7月30日)/米国通商法301条関税(大統領覚書・USTR最終措置 2026年7月23日公表/2026年7月24日発効。対日はMFN税率と合計して12.5%となる合算方式・232条対象品目は除外。時事通信「米、最大12.5%関税発動=60カ国・地域、日本は軽減措置」2026年7月24日ほか各紙報道)/根拠法の変遷(2026年2月20日 連邦最高裁がIEEPA関税を無効と判断→通商法122条のMFN+10%(150日時限)→2026年7月24日に301条へ移行)/ドル円相場(日本経済新聞・ロイター、2026年7月30〜31日報道・市場介入観測)。数値は各社発表・報道時点のもので、その後の決算修正・関税措置の変更により変わる可能性があります。
※2026年7月29〜31日時点の各社発表・報道をもとに作成しています。監修:森英朗(グループ代表)。
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