
アメリカの相互関税政策により、関税に大きな関心が集まっています。しかし、「関税って結局、誰が払うの?」「そもそも、どんな仕組みなの?」といった疑問を抱えるビジネスパーソンもいらっしゃるでしょう。そこで今回は、注目が集まる関税の基礎知識や仕組みをわかりやすく解説します。
関税とは何か?
関税とは、輸入品に対して国が課す税金のことです。例えば、日本企業がアメリカ企業に製品を輸出した場合、アメリカはその日本製品に関税をかけます。この税金は輸入国、つまりアメリカの税収となります。そのため、関税は輸入国の貿易政策の重要な手段の一つです。
目的
関税がそもそもなぜ課されるのかと言えば、以下のような目的があるためです。
- 自国産業の保護
輸入品に関税を課すことは、国内産業の保護につながります。なぜなら、輸入製品に関税を上乗せできるため、海外製品の価格競争力を弱められるためです。代表例は米です。日本は輸入米に対して1kgあたり341円という高い関税を課しています。これにより、海外の安価な米が輸入されるのを抑制することで、国内の農業を保護しています。
- 国の税収アップ
関税は国の重要な税収の一つです。関税率を引き上げると税収の増加が期待できます。日本の関税収入は2020年度で約8,200億円にのぼり、国全体の税収の約1.3%でした。先進国において関税の重要性は比較的低いものの、発展途上国では関税収入が貴重な財源となっています。
- 公正な貿易環境の実現
相手国が不公平な貿易を行っている場合に、その状況を是正する目的で課されることがあります。例えば、ある国が自国の輸出産業を保護するために不当に高い補助金を支給するケースです。こうした政策によって輸出製品の価格競争力が高まると、輸入する国の産業が不当な価格競争を強いられることになります。このような不公平な状況を改善するため、特定の輸入品に対して通常よりも高い関税を課すことがあります。
種類
関税は、輸入品の価格や数量などに基づいて課税額が決まります。課税額の計算方法によって、次の3つの種類に分けられます。
- 従価税
従価税は、輸入品の価格に対して一定の割合で課される関税です。例えば、10,000円の価格の輸入品に10%の従価税を課した場合、課税額は1,000円です。製品価格と連動するため、価格の高い製品ほど課税額も高くなります。
- 従量税
従量税は輸入品の数量や容積、重量などを基準に関税を課す方法です。例えば、1kgあたり341円の課税を課している米が該当します。価格の変動に左右されないため、課税額が一定で計算しやすいのが特徴です。
- 混合税
混合税は従価税と従量税を組み合わせた方法です。混合税には、従価税+従量税の複合税と、どちらか一方を選択できる選択税という種類があります。複合税は一部の乳製品、選択税は一部の綿織物に適用されています。
どっちが払う?
関税に関するよくある疑問の一つが「輸入企業と輸出企業のどちらが関税を支払うのか?」という点です。結論から言うと、関税を負担するのは輸入企業です。日本では、関税の納税義務者を「貨物を輸入する者」と定めています。しかし、実際には関税コストが製品の小売価格に上乗せされることが多く、最終的に消費者が負担しています。
関税による保護貿易のメリット・デメリット

関税を活用して国内の産業や経済を保護することを「保護貿易」と呼びます。保護貿易は一定の効果が期待できる一方で、様々な不利益をもたらす可能性があります。具体的なメリット・デメリットは次のとおりです。
メリット① 国内産業の保護
関税を課すことで、安価な外国製品の流入を抑制できます。特に、海外との価格競争に弱い産業や、国にとって重要な産業を支援する際に有効な手段です。国内産業を保護することで、雇用の維持や地域経済の安定にもつながります。
メリット② 貿易赤字の縮小
関税によって輸入品の価格が上昇すると、輸入量が減少する傾向があります。その結果、輸出と輸入のバランスが改善され、貿易赤字の縮小が期待できます。そのため、貿易赤字が深刻な国にとって、保護貿易は有効な対策の一つです。
デメリット① 輸入品の価格上昇
保護貿易のデメリットは、関税コストが上乗せされるため、輸入品の価格が上昇することです。消費者の負担増に加えて、物価上昇を招くリスクがあります。
デメリット② 貿易摩擦の発生・激化
保護貿易は、相手国にとって不利益となる政策です。そのため、報復関税や貿易制裁といった対抗措置を取られる可能性があります。こうした対立が激化すると、貿易摩擦が深まり、最終的には双方の経済に深刻な影響を及ぼす恐れがあります。
デメリット③ 国際競争力の低下
関税によって国内産業が過度に保護されると、競争環境が緩み、コスト削減や技術革新への取り組みが鈍化する可能性があります。その結果、国際市場での競争力が低下する恐れがあります。
アメリカは相互関税で景気が良くなるのか

関税には多くのデメリットがあるとわかると、「なぜアメリカは相互関税政策を進めているのか?」と疑問を持つビジネスパーソンもいるでしょう。
実際に相互関税政策がアメリカ経済に与える影響については、「景気が良くなる」とする肯定的な見方と、「景気が悪くなる」とする否定的な見方があります。ここでは、政策を実施した狙いを探るヒントとして、それぞれの意見を紹介します。
相互関税について知りたい方は、「トランプ政権の“相互関税”がもたらす世界再編~日本企業が備えるべき変化とは~」の記事をご覧ください。
景気が良くなる
トランプ米大統領は、相互関税を導入することでアメリカ経済が良くなると考えています。その基本的なロジックは、次の流れです。
1. 相互関税を課す
2. アメリカ国内における海外製品の競争力が低下する
3. 関税によって国内企業が保護され、国内の購買力が高まる
アメリカ国内でアメリカ製品の消費が促進され、景気が良くなる
さらに、トランプ大統領はアメリカの巨額な貿易赤字と財政赤字を深刻な問題と捉えており、その対策として相互関税を課したと考えられています。
景気が悪くなる
相互関税は物価の上昇や国際貿易の縮小を招くため、アメリカの景気が悪くなると指摘する声もあります。さらに、関税の応酬によって貿易摩擦が深刻化すれば、「世界経済全体が冷え込むのではないか」という懸念も広がっています。
業ができる相互関税政策の対策例
アメリカの相互関税政策を受け、企業には関税のリスクを踏まえたビジネスモデルの構築が求められています。ここでは、企業の3つの対策例を紹介します。
サプライチェーンの再構築
まず有効な対策は、サプライチェーンの再構築です。関税コストが高くなる地域からの仕入れを減らし、より関税負担の少ない国や地域でサプライチェーンを構築することで、コストを減らせます。また、複数国からの調達体制を整えるなど、特定国に依存しない供給網を構築することも大切です。
製造拠点の移動
次に検討すべきなのが、製造拠点の見直しです。関税の影響を回避するために、関税の低い国や地域に工場や生産ラインを移設します。アメリカ国内に拠点を開設するといった方法も、関税コストを抑える点で有効です。
価格設定の見直し
価格設定の見直しは有効な対策の一つです。製品価格に関税分を適切に反映するとともに、コスト削減努力や付加価値の向上によって、価格上昇を消費者に納得してもらう工夫が求められます。
相互関税の動向に注目しよう
アメリカの相互関税政策は、企業経営に大きな影響を及ぼす可能性があります。適切な対策を実施するためにも、まずは関税について正しく理解することが大切です。その上で、トランプ米政権の動向に注目してみましょう。