
トランプ米政権による相互関税政策は、世界経済に大きな影響を及ぼしています。保護主義的な動きが強まる中、相互関税はかつてのブロック経済と共通する側面があると指摘されています。
こうした背景から、「ブロック経済」というキーワードが注目を集めるようになりました。本記事では、ブロック経済の基本概念やそのメリット・デメリット、さらに企業が取るべき対応策について、わかりやすく紹介します。
相互関税については、「トランプ政権の“相互関税”がもたらす世界再編~日本企業が備えるべき変化とは~」の記事をご覧ください。
ブロック経済とは?
ブロック経済とは、特定の国や地域で同じ経済圏を築き、他の国の商品を締め出す政策です。1930年代の世界恐慌の際、各国が自国経済を守るために採用しました。その結果、世界全体の貿易が縮小し、最終的には第二次世界大戦が勃発しました。
ブロック経済の例
当時、ブロック経済は自国と植民地、関係の深い国同士でグループを形成することが一般的でした。代表例はイギリスとフランスです。ここでは両国のブロック経済について解説します。
イギリス
ブロック経済の代表例としてよく知られているのが、イギリスの「スターリング・ブロック」です。これは、イギリス連邦を中心に築かれた経済圏で、イギリスをはじめ、オーストラリア、ニュージーランド、南アフリカ、アイルランド、インドなど、イギリスの通貨「ポンド」を使用する国々によって構成されていました。
フランス
フランスがイギリスに対抗して形成したブロック経済が「フラン・ブロック」です。フラン・ブロックは、金本位制のフランス、オランダ、ベルギー、スイスによって形成されました。※金本位制とは、通貨と金をいつでも交換できる制度のことです。
植民地を持たない国は軍事的侵略へ
世界各国がブロック経済を展開した結果、植民地を持たない国々は深刻な経済的困難に直面しました。これを打開するため、これらの国々は植民地を拡大しようと帝国主義化しました。代表的な例がドイツ、イタリア、日本です。ドイツは東ヨーロッパへの進出を、イタリアは北アフリカや中東への拡大を目指し、日本はアジア地域への軍事的侵略によって経済の立て直しを図ろうとしました。
ブロック経済は世界大戦を引き起こした要因
イギリス、フランス、アメリカなど、植民地を持ちブロック経済を展開した国々と、ドイツ、イタリア、日本など、植民地を十分に持たない国々は強く対立するようになりました。やがてその対立は深刻化し、第二次世界大戦へと発展します。このことから、ブロック経済は世界大戦を引き起こした直接的な要因の一つと言えます。
今、ブロック経済が注目される背景

現代においてブロック経済が注目される理由は、アメリカが自国経済を守るための保護主義的な動きが、世界恐慌後の状態と似ているためです。ここでは、当時と現代の類似点を紹介します。
トランプ米政権による相互関税という関税障壁
トランプ米政権による相互関税政策は、1930年にフーバー米大統領が実施した農産物や工業製品への高関税政策とよく似ています。いずれも、国内産業を保護するために関税障壁を設けたためです。なお、フーバー大統領のこの政策は、世界恐慌を拡大させ世界経済のブロック化を引き起こした要因と考えられています。
報復関税の応酬と対立の激化
トランプ米政権が世界中の国々に相互関税を課した結果、中国との間で報復関税合戦が激化しています。アメリカは中国に対して145%の関税を課し、それに対抗して中国もアメリカに125%の関税を課しました。こうした貿易摩擦の激化は、ブロック経済当時に見られた植民地を持つ国と持たない国の対立構造とよく似ています。
トランプ米大統領の重商主義
トランプ米大統領による相互関税政策は、重商主義に基づいていると考えられています。重商主義とは、貿易を通じて外貨を獲得し、貿易黒字によって国の富を蓄積しようとする考え方です。ブロック経済も重商主義の一例とされており、相互関税とブロック経済の根本的な考え方は似ていると言えます。
ブロック経済のメリットは「自国産業の保護」
ブロック経済の最大のメリットは、自国の産業を保護できる点です。特定の国や地域が経済圏を形成し、内部での貿易を優遇することで、国外製品の競争力が低下するためです。また、新興産業や脆弱な産業にとっては、海外の安価な製品や強力な競争相手から守られることで、技術力や生産力を高める時間を確保できます。
ブロック経済のデメリット・問題点
ブロック経済は自国産業の保護というメリットがある一方で、長期的には多くのデメリットを伴うことが指摘されています。ここでは、ブロック経済がもたらす代表的な3つのデメリットについて解説します。
デメリット① 貿易の減少による経済成長の鈍化
ブロック経済は自国の経済圏外との貿易を制限するため、全体の貿易量が減少します。これにより国際分業の効率が低下し、経済成長のスピードが鈍化するのです。さらに、関税の影響で輸入製品の価格が上昇し、インフレ圧力が強まることで、経済全体に負担がかかります。
デメリット② 国際摩擦の増加
ブロック経済は、国際摩擦を増加させます。なぜなら、保護主義的な政策は相手国からの報復関税や貿易制裁を招きやすく、貿易戦争へと発展するリスクが高いからです。歴史から見ても、ブロック経済は国家間の対立が激化しやすいと言えます。
デメリット③ 企業のコスト増加と競争力の低下
ブロック経済の保護主義政策は、企業のコスト増加と競争力の低下を招きます。原材料や部品の調達コストが上昇し、競争環境が緩くなることで企業のイノベーションや業務改善の動機が低下するためです。結果、長期的には国際市場での競争力が弱まり、経済全体の活力が低下する恐れがあります。
企業ができる保護主義への対策

ブロック経済や相互関税といった保護主義的な環境下で企業が持続的に成長し、リスクを最小限に抑えるためには戦略的な対策が不可欠です。ここでは、企業が取るべき主な3つの対策を紹介します。
原材料や資源の調達先の多様化
保護主義への対策として、企業は原材料や資源の調達先を多様化することが大切です。複数の国や地域から調達することで、一国の政策変更や貿易摩擦の影響を緩和できるためです。
輸出先の分散
特定の国や地域に輸出を集中させると、関税の影響を受けやすくなります。そのため、企業は新興市場の開拓などにより、輸出先を分散することが大切です。これにより、一部の国の保護主義的な政策による業績への影響を緩和できます。
競争力の向上
保護主義によって競争環境が変化しても生き残るには、高い競争力が必要です。技術革新や製品開発の強化、効率的な生産体制の構築などを継続的に取り組みましょう。
歴史に学び、新たな保護主義に備えよう
トランプ米政権の相互関税政策は、1930年代のブロック経済時代の政策と多くの共通点があります。歴史は繰り返すと言われるように、過去の教訓から学ぶことが大切です。そのため、ブロック経済の歴史から学び、相互関税という新たな時代の保護主義に備えましょう。