
高市政権が発足し、海外に事業を展開する日本企業には新たなグローバル戦略の構築が求められています。新政権の誕生はビジネス環境に変化をもたらし、新たなビジネスチャンスを生み出す一方で、これまでにないリスクが顕在化する可能性があるためです。
本記事では、高市氏が掲げる経済政策「サナエノミクス」の概要を整理し、新政権下で日本企業に求められるグローバル戦略の方向性について考察します。
日本企業の海外展開の現状
近年の日本企業の海外展開は、米国や中国の影響を強く受けるようになっています。特に、地政学的リスクや経済安全保障の観点が企業のグローバル戦略に影響しているのが現状です。その現状を示す特徴的な傾向として、次の3点が挙げられます。
チャイナプラスワン戦略の浸透
かつて、日本企業の主要な進出先は中国でした。地理的な近さ、豊富な労働力、「世界の工場」としての価格競争力が際立っていたためです。しかし、近年では米中対立の長期化や人件費の高騰、規制強化などのリスクが顕在化しています。
このような環境の変化を受けて、日本企業の間では、チャイナプラスワン戦略が浸透しつつあります。これは中国に加えて、他の国や地域に拠点を分散する戦略です。特に、ASEAN諸国は若年層が多く、経済成長も比較的堅調であることから、進出先として注目されています。
日本企業の進出先については、「日本企業の海外進出国ランキングTOP10|近年の傾向と各国の特徴」の記事をご参照ください。
米中対立の再燃
米中関係の緊張は、依然として日本企業にとって大きなリスク要因の一つです。
トランプ関税による米中対立はいったん沈静化したものの、トランプ米大統領が中国への関税の引き上げを示唆したことで、先行きは不透明な状態です。この動きは、米中間の経済摩擦を再び強め、サプライチェーンの安定性にも影響を及ぼす可能性があります。
こうした不確実な環境下で、日本企業はリスク管理の強化とサプライチェーンの安定化が求められています。
自由貿易から経済安全保障への転換
世界経済の潮流も大きく変化しています。かつては、自由貿易体制の拡大が経済成長の原動力とされてきました。しかし、現在は「経済安全保障」が各国の政策の中心になりつつあります。
自由貿易の時代には政治と経済が分かれていたのが、経済安全保障の時代では政治が市場に介入し、経済を安全保障の手段として活用するようになっています。
例えば、2025年10月、中国はレアアースの輸出規制を強化する方針を発表しました。これに対し、米国は関税の引き上げを示唆しています。こうした事例は、経済活動が安全保障の一部として扱われる時代になっていることを象徴しています。
高市政権が掲げる「サナエノミクス」とは

高市政権の誕生は日本企業に新たなビジネスチャンスをもたらす可能性があります。その機会を捉えるためには、まず政策内容を把握することが重要です。ここでは、高市政権が掲げる経済政策「サナエノミクス」の3本の矢について紹介します。
なお、この名称は、安倍政権が実施した「アベノミクス」に由来しています。
第1の矢:大胆な金融緩和
高市政権は、安倍政権と同様に大規模な金融緩和を実施する方針です。経済成長を促進するため、利上げには慎重な姿勢を示しており、今後は日本銀行と連携して低金利の環境を維持すると見られています。金融緩和は、企業の資金調達コストを低下させ、投資や設備拡張を後押しする効果があります。海外展開を進める日本企業にとっては、資金面で追い風となるでしょう。
第2の矢:機動的な財政出動
第2の矢もアベノミクスと同じ「機動的な財政出動」を掲げています。これは政府支出を増やし、景気の下支えや経済成長を支援する政策です。
財政出動は経済を活性化させる一方で、財政赤字の拡大が懸念されます。しかし高市氏は、経済を安定的な成長軌道に乗せるまで、プライマリー・バランスの制限を時限的に凍結する方針を明言しています。
アベノミクスと異なる点は、プライマリー・バランスではなく、純債務残高GDP比を重視していることです。簡単に言えば、「国の資産が赤字額を上回っているか」を重視する考え方です。そのような考え方から、高市氏は赤字国債の発行を恐れない姿勢を示しています。
また、この財政出動に伴う円安は、輸出企業にとって追い風となる可能性があります。
第3の矢:大胆な危機管理投資・成長投資
第3の矢は、「大胆な危機管理投資・成長投資」です。アベノミクスの「成長戦略」とは異なり、安全保障や災害対策、先端技術への支援などを含む政策です。この第3の矢により、日本企業の国際競争力を高めることで、経済成長の促進を狙っています。特に、海外展開を目指す企業にとっては、政府の支援が事業の成功を後押しする可能性があります。
高市政権下で求められる日本企業のグローバル戦略

高市政権の政策は、海外で事業を展開する日本企業にとって新たなビジネスチャンスを生み出す一方で、リスクもあります。ここでは、このような新政権下で求められるグローバル戦略について考察します。
円安を活かした海外展開の加速
サナエノミクスの「大胆な金融緩和」と「機動的な財政出動」は、円安を促進する効果があります。そのため、新政権下では、円安を活かした海外展開が重要です。
円安のメリットは、日本製品の価格競争力を高める点にあります。このメリットを活用し、以下のような戦略をとることで海外事業を強化できます。
- 販売価格の見直しによる価格競争力の向上
- 新興市場への積極的な進出
- 販売ネットワークの強化
地政学的リスクへの備え
危機管理投資としての防衛力の強化や高市氏の歴史認識に関する言動は、近隣諸国の反発を招き、地政学的リスクを高める恐れがあります。特に、中国や韓国との関係悪化は、日本製品の不買運動や貿易制限に発展する可能性があります。このようなリスクへの備えとして、企業に求められる戦略は以下のとおりです。
- チャイナプラスワン戦略の採用
- 新たな市場への進出
- リスク分析と対応策の検討
トランプ関税の再交渉への備え
総裁選挙期間中、高市氏はトランプ関税の日米合意について、国益を損なう可能性があれば再交渉も辞さない構えを示しています。実際に再交渉が行われれば、日米関係に亀裂が生じ、関係が悪化する可能性があります。安全保障や経済で強く結びついている日本にとって、日米関係の悪化は大きなリスクです。このようなリスクへの備えとして、企業に求められる戦略は以下のとおりです。
- 複数の地域への進出によるリスク分散
- リスク分析と対応策の検討
レジリエンス重視のサプライチェーン戦略
現在のグローバル環境は、米中関係の悪化が懸念されています。加えて、高市政権もまた中国や韓国、米国との関係悪化のリスクを抱えています。このような地政学的リスクの懸念があることから、企業はレジリエンス(回復力)を重視したサプライチェーンの構築が大切です。考えられる対策は次のとおりです。
- 生産拠点の分散
- 部品や原材料の調達先を複数確保
- 在庫戦略の見直し
政府の支援を活かした競争力の強化
高市政権は、サナエノミクスの方針として「大胆な危機管理投資・成長投資」を掲げ、成長分野やスタートアップ企業を支援する方針です。このような政策は、企業に新たなビジネスチャンスをもたらす可能性があります。海外展開においても、政府の支援を活かして競争力を強化することで、成功確率を高められるでしょう。
高市政権の動向に注目しよう
高市政権の発足は、国内外のビジネス環境に大きな変化をもたらす可能性があります。企業は政策の方向性を把握し、柔軟かつ迅速にグローバル戦略を見直すことが求められます。海外事業のご担当者様は、今後の高市政権の政権運営や経済政策に注目しましょう。