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日本の半導体製造装置はなぜ強いのか|工程別に見る寡占の構造
2026.08.01 更新 / PROVE通信編集部
監修:森英朗(グループ代表)
日本の半導体製造装置はなぜ強いのか|工程別に見る寡占の構造

日本の半導体製造装置はなぜ強いのか|工程別に見る寡占の構造

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東京エレクトロン・アドバンテスト・SCREEN・ディスコ——日本の半導体製造装置4社の2026年3月期決算は、同じ業界とは思えないほど明暗が分かれました。東京エレクトロンは売上高が過去最高を更新しながら営業利益は10.4%減、アドバンテストは営業利益が1年で2.2倍という異例の伸びを見せています。「日本は半導体製造装置で世界シェア90%」という言葉が独り歩きしがちですが、その中身は工程ごとにまったく違います。2023年7月の対中輸出規制から3年、中国売上比率はどうなったのか。決算資料と一次情報だけを使って、この産業の構造を分解します。

まず数字を並べる——4社の売上と営業利益はここまで違う

2026年3月期(2025年4月〜2026年3月)の連結決算を並べると、装置4社の温度差がはっきりします。東京エレクトロンは売上高2兆4,435億円(前期比+0.5%、過去最高)、営業利益6,249億円(同△10.4%)。アドバンテストは売上高1兆1,286億円(同+44.7%)、営業利益4,991億円(同+118.8%)。SCREENホールディングスは売上高6,057億円(同△3.1%)、営業利益1,225億円(同△9.7%)。ディスコは売上高4,368億円(同+11.1%、初の4,000億円台)、営業利益1,849億円(同+10.9%、6期連続の最高益)です。同じ「半導体製造装置」という括りでも、増収減益・倍増・減収減益・最高益更新という4通りの結果が同じ年度に同居しています。この違いの理由を、各社の事業内容に踏み込んで見ていきます。

東京エレクトロンの「増収減益」——過去最高売上でも営業利益が10.4%減った理由

東京エレクトロンの決算説明会資料によれば、売上高2兆4,435億円は過去最高を更新した一方、営業利益は6,249億円で前期比10.4%の減益でした。主因は研究開発費を前期比11.1%増の2,778億円まで積み増したことと、宮城・熊本の新拠点整備に伴う固定費増です。落ち込みではなく先行投資という位置づけで、同社は2027年3月期上半期の業績予想を売上高1兆5,700億円(前年同期比+33.1%)、営業利益4,310億円(同+42.2%)という半期ベース過去最高の水準に置いています。背景にあるのは生成AIサーバー向けの旺盛な設備投資で、同社が世界シェア90%以上を持つとする塗布・現像装置(レジストを均一に塗り、現像する工程用の装置)が、微細化技術の採用拡大で来期は前年度比50%以上の増収を見込むとしています。

アドバンテストが1年で営業利益を2.2倍にした——AIテスタ需要という一発

アドバンテストの2026年3月期(IFRS)は、売上高1兆1,286億円(前期比+44.7%)、営業利益4,991億円(同+118.8%)、当期利益3,754億円(同+132.9%)と、いずれも過去最高を更新しました。自己資本利益率(ROE)は約57.6%まで上昇しています。同社は半導体を作る装置ではなく、作った半導体が正しく動くかを検査する「テストシステム」の専業メーカーです。AI向けの高性能SoC(半導体チップに複数機能を集積したもの)や広帯域メモリー(HBM)は検査の難度と単価が高く、収益性の高いハイエンド向けテストシステムの販売比率が上がったことが、売上の伸び(44.7%)以上に営業利益が伸びた(118.8%)理由です。ROEの急上昇は、稼ぐ効率が構造的に変わったというより、半導体サイクルの好況局面を色濃く反映した数字である点には注意が要ります。

SCREENとディスコ——同じ装置業界でも明暗が分かれた

SCREENホールディングスは洗浄・成膜・現像などの前工程装置が主力で、2026年3月期は売上高6,057億円(前期比△3.1%)、営業利益1,225億円(同△9.7%)と減収減益でした。2025年5月の期初以来据え置いてきた会社発表の通期売上高予想(6,210億円)に対する達成率は97.5%でした。一方のディスコは、シリコンウエハーを個々のチップに切り分ける「ダイシング」や研削・研磨といった後工程装置の専業メーカーで、売上高4,368億円(同+11.1%)、営業利益1,849億円(同+10.9%)、営業利益率42.3%と6期連続の最高益を更新しました。同じ半導体製造装置でも、GPUや広帯域メモリーなど先端品向けの精密加工需要を強く取り込めた企業と、前工程の中でも汎用性の高い装置で顧客の設備投資サイクルの波を受けやすい企業とで、明暗がくっきり分かれています。「半導体装置は一つの業界」という見方では、この差は説明できません。

「世界シェア90%」の中身——工程別に寡占が生まれる理由

半導体の製造は、成膜・洗浄・熱処理・露光・エッチング(化学的除去)・検査といった数十の工程に分かれ、工程ごとに専業メーカーが分かれているのが日本勢の特徴です。東京エレクトロンが世界シェア90%以上を持つのは塗布・現像装置という特定工程であり、露光装置そのものはオランダのASMLがほぼ独占しています。ディスコはダイシング・グラインディング(後工程の精密加工)、アドバンテストはテストシステム、SCREENは洗浄・現像といった具合に、各社は「半導体製造装置」全体ではなく特定工程で圧倒的シェアを取りに行く戦略を取ってきました。この工程別の寡占構造は、装置に求められる精度・信頼性の水準が工程ごとに極めて高く、後発企業が容易に追いつけないために生まれています。「日本の装置産業は強い」という一言でくくると、どの工程がなぜ強いのかという実務上重要な違いが見えなくなります。

2023年7月23日、輸出管理の対象に23品目が加わった日

経済産業省は2023年5月23日に外国為替及び外国貿易法(外為法)に基づく貨物等省令の改正を公布し、同年7月23日に施行しました。対象に加わったのは、洗浄(3品目)、成膜(11品目)、熱処理(1品目)、露光(4品目)、エッチング(3品目)、検査(1品目)の計23品目です。この省令改正は特定の国・地域を名指ししていませんが、米国や台湾など友好関係にある42カ国・地域向けを除く全地域への輸出について、経済産業大臣の個別許可が必要になる内容で、実質的には中国向け輸出を対象にしたものです。米国が2022年10月に導入した対中輸出規制に日本が足並みをそろえる形の措置で、極端紫外線(EUV)関連の製造装置や、記憶素子を立体的に積み上げるためのエッチング装置などが対象に含まれています。

規制後も中国売上比率34.1%という現実——「デカップリング」の実態

輸出規制から3年が経った2026年3月期、東京エレクトロンの地域別売上高構成比は、中国34.1%、韓国22.3%、台湾20.4%、日本9.8%、北米6.8%、欧州2.8%、東南アジア他3.8%でした(同社投資家向け公式資料)。規制が中国向け売上をゼロに近づけたわけではなく、依然として最大の売上地域であり続けています。同社が決算説明会で示した資料では、中国の世界の半導体製造装置需要(WFE)に占める構成比は、暦年2025年の30%台後半から2026年は30%台半ばへと緩やかに低下する見通しとされています。規制対象になった先端品向け装置の輸出は難しくなった一方、中国の地場半導体メーカーがレガシー(成熟世代)半導体の自給体制を進める過程で、対象外の装置に対する需要は残っている、というのが実態に近い読み方です。「規制で中国需要が消えた」と「規制前と変わらない」のどちらも実態を単純化しすぎています。

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若手が誤解しやすい一点——装置メーカーは半導体メーカーではない

「日本は半導体が強い」という言い方をすると、日本にインテルやTSMCのような最先端の半導体そのものを作る企業があるかのように聞こえますが、実際には違います。東京エレクトロンやアドバンテストが売っているのは、半導体そのものではなく、半導体を作るための装置や検査機です。顧客は台湾のTSMCや韓国のサムスン電子、米国のインテルといった、実際にチップを製造するファウンドリー(半導体受託製造企業)やIDM(設計から製造まで一貫して行う企業)です。日本は最先端ロジック半導体の量産拠点という意味では台湾・韓国に大きく後れを取っていますが、その量産に使う装置や部材の供給網では強い立場を保っている——この「作る国」と「作る道具を供給する国」の違いを混同すると、日本の半導体産業の強みと弱みの両方を見誤ります。

装置の裏方——材料・部品サプライヤーという見えにくい主役

半導体製造装置のさらに川上には、シリコンウエハーやフォトレジスト(感光材料)、特殊ガスといった材料・部品を供給する企業群があります。装置メーカー4社の決算が注目される一方で、この材料・部品レイヤーの企業も、装置の性能向上や微細化の進展に合わせて技術を磨いてきました。装置1台の性能は、装置メーカー単独の技術ではなく、精密部品や特殊材料を供給するサプライヤーとの共同開発によって初めて実現します。半導体産業への参入や取引拡大を考える企業にとっては、完成品としての「装置」だけでなく、その内部で使われる部品・材料・治具といった川上のレイヤーにこそ、規模の小さい専業企業でも入り込める余地が残っています。装置4社の決算だけを見ていると、この裏方の存在が見落とされがちです。

この先の分岐——AI投資は続くのか、供給過剰リスクをどう見るか

日本半導体製造装置協会(SEAJ)が2026年7月に公表した需要予測では、日本製の半導体・FPD製造装置の販売高は2026年度に前年度比24.0%増の6兆8,918億円、2027年度は同12.2%増の7兆7,331億円、2028年度は同5.9%増の8兆1,927億円になるとされています。強気な見通しの背景にあるのは、生成AI向けの旺盛な設備投資が続くという前提です。一方で、AIデータセンター投資が想定より鈍化した場合や、電力供給の制約が投資計画にブレーキをかけた場合には、この右肩上がりの予測が下方修正されるリスクも指摘されています。装置メーカー各社の決算が四半期ごとに大きく振れるのは、顧客である半導体メーカーの設備投資判断という、装置メーカー自身にはコントロールできない外部要因に業績が直結しているためです。自社の取引先が装置メーカーであっても部材サプライヤーであっても、「AI投資の持続性」という同じ変数を見ておく必要があります。

読み解きのポイント ①4社の決算は増収減益・倍増・減収減益・最高益更新とバラバラ ②「世界シェア90%」は塗布現像装置など特定工程の数字であり全体像ではない ③2023年7月23日の輸出規制後も中国売上比率は3割超で推移 ④装置メーカー=半導体メーカーではない ⑤材料・部品という川上レイヤーにも接点がある

装置4社の決算を並べて終わりにせず、「どの工程で」「なぜ強いのか」「規制はどこに効いているのか」を分けて見ると、半導体産業との取引や新規参入を検討する際の解像度が上がります。数字は毎四半期変わりますが、工程別寡占という構造と、規制の建てつけそのものは急には変わりません。まずは構造を押さえたうえで、直近の決算資料で数字を更新していく読み方をおすすめします。

よくある質問

Q. 日本は半導体製造装置で世界シェア90%というのは本当ですか?

東京エレクトロンの塗布・現像装置など、特定の工程では90%以上のシェアを持つ製品がありますが、半導体製造装置全体でのシェアではありません。工程ごとに強い企業・弱い企業が分かれています。

Q. なぜ東京エレクトロンは過去最高売上なのに減益なのですか?

研究開発費を前期比11.1%増の2,778億円まで積み増したことなどが主因で、将来の成長に向けた先行投資という位置づけです。

Q. 2023年の輸出規制で中国向け売上はなくなったのですか?

なくなっていません。東京エレクトロンの2026年3月期の地域別売上構成比は中国が34.1%で最大です。規制対象は先端品向けの一部装置に限られます。

Q. 半導体製造装置メーカーと半導体メーカーはどう違いますか?

装置メーカーは半導体を作るための機械を売る企業で、顧客はTSMCやサムスン電子などのファウンドリー・IDMです。装置メーカー自身は半導体チップそのものを製造・販売していません。

主な出典

東京エレクトロン「2026年3月期決算短信」「決算説明会資料」「投資家向け情報(地域別売上高構成比)」(tel.co.jp)/アドバンテスト「2026年3月期決算短信〔IFRS〕」「決算レビュー」(advantest.com)/SCREENホールディングス「2026年3月期決算短信」(screen.co.jp・EDINET)/ディスコ「2026年3月期決算短信」「87期事業のご報告」(disco.co.jp)/経済産業省・貿易経済協力局「外為法に基づく貨物等省令の改正」(2023年5月23日公布・7月23日施行、23品目の内訳)/日本半導体製造装置協会(SEAJ)「2026年7月発表 半導体・FPD製造装置需要予測」(seaj.or.jp)。数値は各社決算短信・IR資料に基づく2026年3月期(2025年4月〜2026年3月)実績。

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※2026年8月時点の情報をもとに作成しています。監修:森英朗(グループ代表)。

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