世界規模の新型コロナウイルス(Covid-19)の感染拡大によって、現在これまで経験したことのない緊急事態になっています。
日常生活における不要不急の外出、面会は避けるよう日本は対策が進められています。
世界の状況を見ると、テレビやインターネットのニュースではヨーロッパ諸国やアメリカ、南米が深刻になっているという情報が目立ちますが、経済成長が著しく人口も多いASEAN諸国のことは日本ではあまりニュースに取り上げられていません。
ASEAN大国インドネシアでは、感染者の増加がASEAN諸国の中でもより顕著であり、6月に入ってからは約4万人、死者は2000人を突破しました。
日本の感染者約1万7千人、死者約900人と比較すると、その多さが歴然とわかります。
世界単位で見ると、インドネシアよりも感染者が多い国は沢山ありますが、2億6000万人という世界第4位の人口の多さとなり、都市では人々が密集しているといった国内の状況から感染拡大に対する強い懸念が伺えます。
日本企業も多く進出しているため、この状態が長引くと、ビジネスや現地の生活にもより大きな影響が出ることは間違い無いでしょう。
こうした状況から、これからインドネシアを含む世界ではwithコロナに適応し、Afterコロナでも成立・展開できるビジネスが求められる時代になってきております。
今回はそうしたインドネシアのコロナの現状を宗教的、人口的側面からみていき、withコロナ、Afterコロナにおけるインドネシアの働き方や購買動向をお伝えしていきます。
COVID-19に関する現地メディア
Covid-19対策下でのインドネシアの人々の移動状況
宗教的背景(レバラン大祭)
過去のレバラン休暇で移動する人々混雑・密集している様子
インドネシアは国民の約90%の人々がイスラム教徒です。
イスラム教には、毎日5回礼拝施設のモスクやその他清潔な場所でお祈りをするという義務があります。
施設内には、一度に大勢の人々が密集するため、こうしたところからインドネシア国内でコロナの感染が広がっています。
また、宗教上の原因によるコロナ感染は他の行事でもあります。
それはレバランという断食明けの大祭です。
今年は4月24日から5月23日までの1か月間がラマダン月でした。
ラマダンとは約1か月間、日の出から日の入りまでの飲食、喫煙など欲を一切断つというムスリム(イスラム教徒)の義務の一つです。
ムスリムにとって、この断食期間は信仰をより深めたり、貧しくご飯が食べられない人の気持ちを理解するために行うもので、非常に重要な意味を持ちます。
そうした1か月間の長い断食生活を終えると、10日前後の大型連休であるレバラン休暇があります。
これは日本で言う正月のようなイメージであり、国全体でこの連休が取られるため、イスラム教徒でなくてもこの期間は休みになります。
人々は家族に会いにそれぞれの出身地や田舎に帰省する習慣があるため、毎年レバラン休暇には2000万人以上が大移動しています。
今年は5月21日から6月1日までの12日間がレバラン休暇でした。
しかし今年はこの大移動によるクラスター感染を懸念して、大統領ジョコ・ウィドド氏はレバラン休暇での移動を禁止する発令を出しました。
年に一度の大切な祝日イベントなので、国政府は初め「帰省自粛」という少し規制の緩い形で対策をとっていました。
しかし、運輸省などが実施した今年の帰省に関する国民調査の結果により、自粛ではなく「帰省禁止」措置を全面的に実施することなってしまいました。
なぜなら、その調査の結果で68%の人々がコロナの感染の影響から帰省しないと答えましたが、残りのうち24%は帰省する、そして7%はすでに帰省したと回答していたためです。
全体のうち、たった3割しか帰省を考えていないのだから、帰省を全面禁止にするのは厳しすぎるのではないかと一見捉えてしまいがちです。
しかし帰省していた全体の人口が約2000万人もいるインドネシアではたった3割においても、依然として、コロナの状況下でも多くの人が帰省を考えていると分かったことから、大移動による帰省全面禁止に踏み切りました。
このように、5月では宗教上の移動規制が行われていましたが、Covid-19対策による日常生活での移動規制も実施されています。
~交通事情からの背景~
最も人口が密集し、感染状況が深刻な首都ジャカルタでは、大統領による外出禁止令が出され、5月20日時点では、4月10日から6月4日までロックダウン(都市封鎖)していました。
初めは4月10日からの2週間と定めていましたが、感染拡大が深刻化しているため、数回もロックダウンの延長がされました。
このロックダウンにおける具体的な内容は、以下の通りとなっています。
- 職場・事務所での就労を原則的に禁止、自宅勤務への移行
- 学校休校、自宅学習への切り替え
- 飲食店においてイートインは禁止でテイクアウトや配達での販売のみ(営業規制)
- 電車やバスなど公共交通機関の運行時間制限(利用者を通常の半分に削減、運行時間を午前6時から午後6時まで)
- 児童館、体育館、博物館、集会所、公園などの娯楽公共施設閉鎖
- 宗教施設の閉鎖
- 5人以上の屋外集会禁止
- 車内ではソーシャルディスタンスを考慮して乗員数を決める
- 自宅外でのマスク着用、定期的手洗いの実施
上記の規制のうち、ここでは上から4番目の交通規制による移動の制限についてみていきましょう。
国内の人々の足となっているのは、飛行機や船、地下鉄、バスそして自動車です。
特に公共交通機関の地下鉄やバスの通勤時間帯は常に混雑しています。
通常より本数を減らし、定員の半分を乗車させる、席は間隔を空けるといった対策が取られています。
一方、個人自動車でも定員の半分し、バイクでは2人乗りを禁止するといった、密集をできるだけ避けるようにしています。
次に首都のジャカルタに焦点を当ててみましょう。
ジャカルタの公共交通機関と言えば、バスか地下鉄です。
2017年に開通したターミナル間を結ぶモノレールのスカルノハッタ空港スカイライン、昨年2019年の3月に開業したばかりのジャカルタ都市高速鉄道やMRTJ南北線があります。
6月5日、ロックダウンが明けてから、徐々に通勤する人々が増え始め、地下鉄やバスの多くの人々が乗るようになってきています。
缶詰状態が続いて約3か月がたった今、自宅待機の生活にうんざりしている人々が多くいる中、こうした外出が急激に増えていることから第2波の懸念がされています。
缶詰状態もストレスがたまりますが、外出しようとするとバスや電車に乗ると、コロナにかかってしまう危険性があるといった状況から、最近では自動車ブームに火がついてきているようです。
コロナの感染拡大を受けて、3密状態になる公共交通機関に代わる移動手段として注目を集めているのです。
コロナウイルスの感染拡大でロックダウンしたこともあり、自動車の販売は減っていましたが、実際にスズキ自動車株式会社の1月から4月のマーケットシェアは前年比で2.2%も上がりました。
こうしたコロナによる新生活になる状況に加え、2月にゆとりのある内装、燃費性能にこだわったSUV(Sport Utility Vehicle)の新型「XL7」を発売したこともこのマーケット拡大の好機に繋がっていると言えます。
日本企業の自動車業界では、スズキが5月26日から、三菱自動車やホンダは6月下旬から生産を徐々に再開しています。
スズキがいち早く生産活動をスタートさせたのは、現地法人スズキ・インドモービル・モーター(SIM)によると輸出に力をいれているからだそうです。
しばらくは生産台数も少なめに抑えつつ、コロナの状況をよく判断しながら、次第に生産拡大を狙っていく見込みです。
インドネシア社会のデジタル化
働き方 (テレワーク)
コロナウイルスによる対策が進められている中、テレワークによる働き方の推進が行われています。
ロックダウン中や不要不急の仕事以外ではテレワークを行うよう大統領からも支持が出ているのです。
上に記載されているロックダウンにおける規制のうち、自宅勤務に推奨されていない職種は生活必需性の高い分野の職種です。
具体的には、食料品、医療保健、水・ガス・電気・ガソリンスタンドなどのエネルギー、財政・金融、物流、戦略的産業などです。
ロックダウン中でも営業継続を認められている上記の職種以外では、基本的にテレワークです。
現在では、ロックダウンが解除され、少しずつ仕事で外出する人々が増えておりますが、インドネシアのテレワークでは多くの課題点があります。その中でもよく言われているものを2つ取り上げます。
まず1つは、社員がきちんと働いているのか明確な確認ができないことです。
インドネシアに進出している日系企業の内情では、こうした問題が多々あり、テレワークの導入に頭をかかえているところが多いそうです。
また、Zoomを利用したテレワークでは、企業の機密情報の取り扱いがオンライン上だと厳しいという意見もあります。
紙の書類を利用した社内処理が多かったり、業務進行のための専用システムが社内にあるため、会社に行かなければ仕事ができないといった企業ではテレワークへの移行が難しい現実があります。
前者の勤怠状況が分からないということでテレワークが進まないと悩んでいた企業は、後者の業務専用システムが社内にある場合よりも、テレワークがしやすい傾向があります。その理由は、そうした問題のすべてを解決するクラウドツールがあるからです。
一つはLOGIQUE社が元々自社の生産性を上げるために開発されたDokodemo-Kerjaという管理ツールです。
テレワークにおいて、さぼり・非集中といった怠惰な勤務態度をとっていると、ランダムにラップトップのスクリーンショットが撮られ管理者に送信されるため、必ず管理者が把握できるようになっています。
管理者は従業員の勤務時間と作業内容をまとめて管理することができ、従業員の虚偽報告を防げます。
インドネシア現地の日本企業に向けてマーケティング拡大が浸透しており、現在導入されつつあるツールです。
二つ目は、状況確認プラットフォーム「VERINT SA7.6」です。
これは管理者が中央管理室で、社員の状況を一画面で認識できるシステムです。
それぞれの社員の状況を把握できるので、問題が発生した際に、管理者が神速かつ的確に対応できるメリットがあります。セキュリティ面も万全なため、注目されています。
フィリピン空港でも採用実績があり、空港で入国者の検疫検査後の感染者の対処や非感染者の経過観察支援で活用できたり、経過観察者の動態、健康状態の報告管理を一元化できるなどのメリットがあります。
こうした管理ツールとテレワークの導入により、生産性の向上につながり、また女性の出産・育児の面では在宅勤務の充実からワーク・ライフ・バランスの向上も期待できるようになります。
Withコロナ、そしてAfterコロナの時代にもインドネシアでのビジネスに重要なツールとなるでしょう。
オンラインショップ
以上のように企業の中でデジタル化によるテレワークの導入が行われ始めている中、消費者の購買の仕方もデジタル化が進んでいます。
Eコマース(Electronic Commerce)という電子商取引や、ソーシャルコマースがあります。
日本でいうAmazonや楽天、Yahoo ショッピングといったオンラインストアのようなものです。
インドネシアではコロナ以前からオンラインショッピングのビジネスチャンスが叫ばれていましたが、コロナ真っ只中の現在、さらにその需要が増してきています。
2018年にはインドネシアのEC市場成長率は78%となり、他のASEAN諸国を押さえて成長率がトップになりました。
日本の8.9%と比べると、伸び率の高さは一目瞭然です。
日本の楽天もインドネシアのEC市場に参入しています。
Rakuten Belanja Oblineという名前でオンラインストアを展開していますが、国民のシェア率はそこまで高くありません。
インドネシアで一番利用率が高いECサイトは、tokopediaです。
2009年に創業したユニコーン企業ですが、この市場では最大手になっています。
2018年の投資では、ソフトバンクグループのソフトバンク・ビジョン・ファンドと中国のEコマース市場最大手のアリババ・グループ・ホールディングスが主導していました。
インドネシアではTokopedia の他に、LAZADA、Shopeeがあります。
この3つは国内で3大ECサイトと呼ばれています。
また、これらに続いてBukalapakやBlibliといったサイトも有名です。
4月29日付のCNNインドネシアの情報によると、大規模社会制限(PSBB)以降、日用品分野でのEC取引額は400%増えています。
現在、インドネシアのECモールではやっている商品は、以下の物です。
まず一つは、昨今ブームとなっているインドネシア国産のコーヒー「Otten Coffee」です。
WARDAHのコスメ・スキンケアグッズです。
この化粧品はイスラム教徒に合わせてハラル商品に限定して販売をしている点が人気の理由です。
イスラム教は豚由来の成分など、使用を禁止されているものが沢山あるため、それ以外の原料で作られているかは非常に重要なのです。
2億人以上のムスリムの消費者がいるインドネシアでは化粧品や食品においてこうしたハラル商品の増加は確実です。
衣料品でも、イスラムの教義に合わせつつもおしゃれなファッションを楽しみたいと、ヒジャブに合わせた服装を販売しているサイトもあります。
そのほかにはイベントチケットも人気商品となっています。
アーテイストのライブツアー、子供向け教室、大人向けのセミナーなどあらゆるイベントのチケットがこのECで売られるようになっています。
ショッピングモールの状況
日系企業の進出イオン、西武
コロナ以前のインドネシアでは大型ショッピングモールでの買い物が賑わっていましたが、コロナウイルス感染拡大の影響によるPSBBで、そうした大型ショッピングモールは一時閉鎖していました。
ジャカルタなどでは6月15日から数々の商業施設が営業を再開しています。
進出しているこの業界の日本企業であるイオンモールは、平日では前年比に比べ4から5割の来客数が戻りつつあるとそうです。
イオンモールはコロナ以前から、新鮮で安心安全な食品をそろえるなど、衛生面・健康面ともに力をいれて営業を行っていたため、コロナ禍でそうした意識が客全体で高まったことでさらなる客数増加が見込まれています。
飲食品以外でも、自宅で料理をする時間が増えたことから、キッチン用品の需要が増し、平日の売り上げは規制前と同水準を維持しています。
イオンの他に進出しているこの業界の企業はそごうや西武です。
そごうは今年2020年3月でインドネシアでの創立30周年を迎えたため、3月3日に記念式典が行われました。
しかし、大型ショッピングセンターの中にそごうが入っているため、施設全体が一時休業体制をとっていたことから、そごうも同じ状況でした。
6月中旬に徐々に大型ショッピングモールの営業が再開し始めたとともにそごうも再開しました。
店の休業期間中はそごうのオンラインショップで販売を行っていました。
コロナ以前からあり、InstagramなどのSNSでおすすめ商品を上げ、「今なら何%OFF、今すぐオンラインショップのリンクをクリック」というような説明書きが書かれています。店舗が営業再開した現在もオンラインでの販売形態を続けています。
西武も専用のオンラインショッピングのサイトを運営しており、そごうと同じような形で客層を広げています。
先ほどのオンラインショッピングの需要が高まっている結果からも、こうした販売方法が今後も需要が伸びていくと考えられます。
まとめ
日本企業も多く進出しているインドネシアでは、新型コロナウイルスの感染拡大によって、上記のように日常生活における不要不急の外出、面会は避けるようになっています。
しかし、デジタルの進化で買い物も仕事も代行できるようになっているということも事実です。
人口が多く、日々の人々の移動が感染拡大に大きくつながることから、今後もさらに健康・衛生面の意識は高まり、オンラインショッピングの需要向上、テレワークの発展も進んでいくことでしょう。
そごうや西武のようなビジネス形態の変革も、今後さらに重要になっていきます。
コロナが終息して、早くAfterコロナ時代が来てほしいと考えている企業も多いでしょうが、しばらく続くWithコロナの時代に、このように購買行動に合わせて適応していくことがAfterコロナ時代でも生き残るカギとなります。
コロナ終息後は間違いなく、オンラインショッピングなどのコロナでも対応できるビジネス形態が定着していると予想ができるからです。
Withコロナの時代では、この状況に上手く対応してビジネスを展開させていく企業こそ生き残り、Afterコロナ時代にも成長していくことができる可能性が高いと世界的に言われています。
今回お伝えしたコロナにおける現時点でのインドネシアの購買動向を把握し、Afterコロナ時代を見据えて、新たなコロナ適応策を考えてみてはいかがでしょうか。