
2025年6月3日に行われた韓国大統領選挙で、共に民主党の李在明(イ・ジェミョン)氏が当選しました。韓国では大統領の権限が非常に強く、政権交代に伴い政策の方向性が大きく変わることも珍しくありません。
李氏はこれまで、日本に対して批判的な発言や行動をしてきた人物です。そのため、今後の日韓関係の行方に不安を感じているビジネスパーソンも多いのではないでしょうか。
本記事では、新たに就任した李在明大統領の主な政策として、選挙時に掲げていた10大公約について解説します。
韓国新大統領の李在明氏とは
李在明氏は、韓国において「叩き上げ」の象徴とされる人物です。1964年、貧しい家庭に生まれ、経済的な事情から中学校には通えず、13歳で工場労働を始めました。厳しい生活環境の中でも、働きながら中央大学法学部に合格し、弁護士資格を取得します。
その後、1995年から市民運動に積極的に参加しました。2010年には京畿道の城南市長に当選し、本格的に政治の道へと進みました。なお、李氏が所属する「共に民主党」は、以下の特徴を持つ中道左派の政党です。
- 南北融和路線
- 厳しい対日姿勢
- 福祉重視
こうした異色の経歴を持つ李在明氏は、「庶民の代弁者」として幅広い層から支持を集めています。
2025年韓国大統領選の詳しい内容は、「2025年韓国大統領選:注目候補の政策と日本経済への影響」をご覧ください。
韓国新大統領の10大公約
韓国の新大統領・李在明氏の政策を理解するうえで鍵となるのが、選挙時に掲げた「10大公約」です。ここでは、公式発表で示された優先順位に沿って、それぞれの公約の内容を解説します。
AIとK-コンテンツで「世界をリードする経済強国」へ

李在明氏は「世界をリードする経済強国」の実現に向け、AI分野に今後100兆ウォン規模の投資を行う方針を打ち出しています。また、K-POPや韓国ドラマに代表されるK-コンテンツの輸出拡大に、国家として支援を強化する予定です。
これら2つの分野を次世代の成長エンジンとして戦略的に育成し、韓国経済を牽引する柱とする考えです。具体的な目標としては、AIで「世界3大AI強国」入り、K-コンテンツで「世界5大文化強国」入りを掲げています。
このような大規模投資は韓国経済の競争力の強化を図ると同時に、多くのビジネスチャンスを生み出すと期待されています。
政治的分断の克服を通した民主主義の回復
李在明氏は、政治・司法改革を通じて民主主義の回復に力を入れることを公約に掲げています。特に、前大統領の罷免の原因となった戒厳令の問題については、国会が戒厳令を解除する権限の行使を制度的に保障する方針です。また、国民の司法参加を広げるとともに、放送メディアの中立性を確保することで、より開かれた民主国家の実現を目指しています。
家計・小規模事業者の支援による「公正経済」の実現
経済政策の柱として、家計の安定と小規模事業者の再生を柱に掲げています。コロナ禍で増加した債務の整理・減免に加え、低金利融資の拡充や事業再建支援を通じて、経済的な再起を後押しします。また、地域通貨や商品券の発行を通じた消費活性化策、家賃の透明化の推進、住環境改善にも取り組む方針です。
世界秩序に対処する安全保障の構築
重要な外交課題として、経済安全保障の確立や持続可能な朝鮮半島の平和実現を掲げています。G7やG20といった国際枠組みに積極的に参加し、主要国との連携を通じて経済安全保障の強化を図る方針です。
対北朝鮮政策では、段階的な非核化を促すとともに、離散家族の再会など人道的支援にも力を入れるとしています。さらに、偶発的な軍事衝突のリスクを減らすため、南北間の緊張緩和や信頼醸成措置の推進にも取り組む予定です。ただし、安全保障の基軸はあくまで韓米同盟とし、抑止力の強化や自主防衛能力の向上にも力を注ぐ方針です。
国民の生命と安全を守る対策の推進
「国民の生命と安全を守る国」の実現に向け、防犯・防災・医療の分野で総合的な改革を進める予定です。凶悪犯罪や無差別犯罪への対策強化、被害者支援制度の整備などを通じ、安全な暮らしの基盤を整えます。自然災害や社会的危機への対応では、災害現場での指揮権強化と官庁間の協力体制を確立し、迅速かつ的確な対応を図ります。
医療分野では、必須医療に対する補償体制の整備、救急体制の拡充、在宅診療の普及、そして医療事故に対する国家責任の明確化を進めます。さらに、医薬品の安定供給や感染症対策インフラの構築にも取り組む方針です。
行政首都移転と地方分権の推進
ソウルへの一極集中を是正し、国土全体のバランスのとれた発展を目指しています。具体的には、世宗(セジョン)行政首都の完成を推進し、国会議事堂や大統領執務室の建設を進める方針です。
また、5大超広域圏(首都圏・東南圏・大慶圏・中部圏・湖南圏)と3つの特別自治道(済州・江原・全北)を中心に、地方分権の強化と財政支援を行います。さらに、自治体と企業の連携促進や観光資源の開発などを通じて、「人が戻り、持続可能な地域社会」の実現を目指しています。
※世宗は韓国の中部に位置する特別自治市です。
労働が尊重され、すべての人の権利が保障される社会の実現
正規・非正規・自営業を問わず、すべての働く人の権利を保障し、「働いた分だけ正当に報われる」公正な労働環境の実現を目指しています。あわせて、公務員の処遇改善や危険手当の引き上げなどにも取り組み、労働環境の抜本的な改革を進める方針です。
誰もが豊かに暮らせる国をつくる
子どもから高齢者まで、すべての世代が安心して暮らせる社会の実現を掲げています。具体的には、児童手当の拡充や育児休業を通じて子育て家庭を支援し、若者には奨学金や住宅・通信費用の削減、高齢者に対しては年金制度の改革を行う予定です。つまり、年齢や職業を問わず、すべての国民が安心して生活できるよう、社会全体の底上げを目指す政策です。
少子高齢化を乗り越える共助社会の構築
少子化と高齢化の同時解決を目指し、子育て支援を拡充する方針です。高齢者や障がい者には在宅医療や信託制度を整備し、世代を超えて支え合う共生社会の実現を掲げています。
脱炭素・再生可能エネルギーの推進による気候危機対応

未来世代のために脱炭素社会への転換を推進する方針です。2040年までに石炭火力発電を閉鎖することを掲げ、太陽光といった再生可能エネルギーの拡大、電気自動車やグリーン建築の普及を支援する予定です。
注目はAI投資とエネルギー政策
李在明大統領が掲げる10大公約の中でも、特に注目されるのがAI分野への100兆ウォン規模の投資と、脱炭素を柱としたエネルギー政策です。これにより、韓国は先端技術とグリーンエネルギーを両輪とする経済構造へと移行するため、日韓の産業連携が加速する可能性もあります。
一方で、同氏はこれまで日本に対して批判的な発言や行動をしてきた政治家でもあります。現在は実利を重視した外交姿勢を見せているものの、国内政治や外交環境の変化によっては、日韓関係が悪化するリスクも否定できません。
韓国の政策の方向性とともに、日韓関係が今後どのように変化するのか、政治とビジネスの両面から、その動向に引き続き注目しましょう。