2025年韓国大統領選:注目候補の政策と日本経済への影響

2025年6月3日、韓国大統領選挙が実施されます。前大統領の罷免という異例の事態を受けて行われる今回の選挙は、国内外から注目を集めています。
特に日本経済への影響が懸念されることから、ビジネスパーソンにとって注目すべき重要なイベントです。本記事では、韓国大統領選の基本情報や注目候補、日本経済への影響をわかりやすく解説します。 

韓国大統領制度の基礎知識 

韓国は大統領制を採用しており、大統領は国民による直接選挙で選出されます。任期は5年の一度限りで、再選は認められていません。
大統領は国家元首であると同時に、行政の最高責任者として非常に強い権限を持ちます。
主な権限は以下のとおりです。 

  • 国務総理(首相)や国務委員(大臣)の任命権 
  • 法案に対する拒否権 
  • 大統領令の制定権 
  • 大法院長(最高裁判所長官)の任命権 
  • 国軍の統帥権 
  • 国家非常事態時の緊急命令の発令権 
  • 戒厳令の宣布権 

このように強力な権限を持つため、大統領の選出は国内外の政策に大きく影響します。また、韓国大統領選挙では、得票数が最も多い候補者が当選となります。たとえ過半数に達していなくても決選投票は行われません。 

  • 韓国大統領選挙の概要 
選挙方式 直接選挙 
大統領の任期 5年(再選は禁止) 
選挙権 満18歳以上の韓国国民 
被選挙権 満40歳以上の韓国国民 
立候補の条件 ・政党から立候補する場合:政党からの推薦 
・無所属で立候補する場合:
5つ以上の広域自治体で各700人以上の推薦 

参考:自治体国際化フォーラム「韓国における大統領選挙」 

2025年韓国大統領選挙に至るまでの経緯 

2025年韓国大統領選挙は、通常の任期満了によるものではなく、異例の事態によって前倒しで実施されることとなりました。ここでは、2024年末から2025年にかけての政治的混乱と一連の流れを振り返ります。 

尹錫悦(ユン・ソンニョル)前大統領の罷免 

2024年12月3日、尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領は、午後10時20分過ぎに生放送の緊急テレビ演説で「非常戒厳を宣布する」と発表し、戒厳令を発令しました。 

戒厳令は、戦争やテロ、自然災害などの非常事態が発生したときに、立法・司法・行政といった国の権限を軍に一時的に委ね、市民の自由や権利を制限する制度です。本来は深刻な危機に対処するための非常措置であり、発令には厳格な条件が求められます。
しかし、当時の韓国では戦争や災害といった重大な緊急事態は確認されておらず、突如として戒厳令が発表されたことで、国内外に大きな衝撃が広がりました。韓国社会は大混乱に陥り、国会議員も緊急招集され、深夜に国会が対応に追われました。 

翌日の4日未明、国会は戒厳令の解除を求める決議案を可決し、発令から約6時間後に戒厳令を解除しました。この異例の事態に対して、韓国の憲法裁判所は2025年4月4日に違憲と認定し、尹錫悦大統領を罷免しました。次期大統領選挙は60日以内に実施する必要があることから、6月3日に韓国大統領選挙が実施されることになりました。 

候補者選びで与党が内部分裂 

尹錫悦大統領の罷免後、与党「国民の力」は急いで大統領候補の選出に取り組みましたが、結果として党内の内部分裂が表面化しました。 
同党は、2025年5月3日に金文洙(キム・ムンス)氏を公認候補として発表。しかし、世論調査で優勢とされた最大野党「共に民主党」に対抗するため、無所属で立候補を表明していた韓悳洙(ハン・ドクス)前首相を公認候補に一本化すべきという声が党内で強まります。 

その結果、5月10日に金文洙氏の公認を取り消し、韓悳洙氏を入党させた上で新たな候補にする方針が示され、党員投票が実施されました。しかし、この変更案は党員投票で反対多数により否決。金文洙氏が再び公認候補に復帰するという異例の展開となりました。 

2025年韓国大統領選挙の候補者と政策 

今回の選挙には、3つの主要勢力が候補者を擁立しました。ここでは、それぞれの候補者の人物像と政策を紹介します。 

与党「国民の力」:金文洙(キム・ムンス)氏 

金文洙氏は元京畿道知事で、保守派でありながら若い頃に労働運動をしていた過去を持つ異色の人物です。掲げている主な政策は以下のとおりです。 

  • AIインフラ拡充による投資の活性化 
  • 少子化対策の強化 
  • 国民年金制度の再改革 
  • 失業給付金の拡大 
  • 創業支援のための補助金拡大 
  • 北朝鮮の脅威に備えた核推進潜水艦の開発 

さらに、トランプ米政権とは防衛費分担や核燃料再処理などの重要課題について包括的な交渉を行い、韓米同盟の強化を目指す姿勢を示しています。 

最大野党「共に民主党」:李在明(イ・ジェミョン)氏 

李在明(イ・ジェミョン)氏は、これまで日本やアメリカに対して批判的な発言をしてきたことで知られている人物です。しかし、大統領選への出馬を表明してからは現実的な姿勢を見せており、日米韓の3カ国の関係を尊重しつつ、ロシアや中国との関係性も考慮すると発言しています。掲げている主な政策は以下のとおりです。 

  • 国益最優先の外交政策 
  • K-イニシアチブの推進 
  • 先端産業を軸とした産業強国の実現 

※K-イニシアチブとは、「実用主義」と「量的・質的成長」を掲げ、政治・経済・社会・文化などあらゆる分野で韓国が世界をリードする国家を目指す構想です。 

第三極「改革新党」:李俊錫(イ・ジュンソク)氏 

李俊錫(イ・ジュンソク)氏は、元「国民の力」の代表で、尹錫悦大統領を公然と批判したことから党員資格を停止されました。その後、自ら中道右派の「改革新党」を結成。党内には「国民の力」や「共に民主党」など多様な派閥が合流しており、いわゆる「第三極」の政党として注目されています。
同氏が掲げる政策は以下のとおりです。 

  • 規制基準国家制の導入 
  • 法人税と最低賃金の最終決定権限を地方自治体に移譲 
  • 地方所得税の割合を10%から30%へ引き上げ、利率決定権も自治体に付与 
  • 韓国企業の国内回帰を促進 
  • 年金制度の抜本的な改革 

※「規制基準国家制」とは、申請者が特定産業分野で先進的とされる国の規制を提示すれば、その国の規制水準を韓国国内にも適用し、親和性が高い環境を目指す構想です。 

参考:毎日経済 

文在寅(ムン・ジェイン)大統領時代の振り返り 

現在、世論調査では「共に民主党」の李在明氏が優勢とされています。そこで、前々大統領の文在寅氏が同じ「共に民主党」であることから、文在寅大統領時代を振り返ります。 

日韓関係の悪化 

文在寅大統領は、慰安婦問題やいわゆる徴用工訴訟などをめぐって日本に対し強硬な姿勢を取りました。その結果、日韓関係は戦後最悪の水準にまで悪化。2019年には、日本が半導体材料の対韓輸出規制を強化したことを契機に、韓国国内で日本製品の不買運動「ノージャパン運動」へと発展しました。 

南北関係の重視 

文在寅(ムン・ジェイン)大統領は進歩派であり、「太陽政策」に基づく対北朝鮮融和策を推進。2045年の南北統一を目標に掲げ、南北首脳会談の開催や共同経済区域の構想など、関係改善に力を注ぎました。このような北朝鮮重視の外交姿勢は、結果的に日米韓の連携を弱める要因となりました。 

※太陽政策とは、人道援助、経済援助、文化交流、観光事業を深めることで南北朝鮮統一を図ろうとする対北朝鮮政策のことです。 

所得主導成長の推進 

文在寅大統領は政権発足当初から「所得主導成長」「公正経済」「革新成長」の3本柱を掲げ、経済政策を展開しました。その中でもとりわけ注目されたのが、文大統領独自の看板政策である「所得主導成長」です。 

この政策の中核は、最低賃金の大幅な引き上げでした。文政権は2018年の最低賃金の時給6,470ウォン(約630円)を、2022年までに10,000ウォン(約980円)に引き上げることを公約としました。
しかし、急激な賃上げは中小企業や自営業者にとって大きな負担となり、結果として雇用調整や格差拡大を招くこととなりました。 

参考:アジア経済研究所「文在寅政権の経済学――「所得主導成長」とは何か」 

日本経済への影響 

韓国大統領選挙の結果次第では、日本経済に様々な影響が及ぶと考えられます。特に、注目すべき2点について解説します。 

日韓関係の変化 

李在明氏が大統領に当選した場合、文在寅政権時と同様に、歴史認識や領土問題をめぐる対立が再燃する可能性があります。李在明氏は過去に反日的な発言を繰り返し、「反日の急先鋒」として知られているためです。 
ただし、大統領選を前に現実路線に転じ、対日姿勢もやや軟化させているとされています。それでも、文政権時代のような日韓関係の悪化を懸念する声は根強く、状況によっては日本製品の不買運動が再燃する可能性も否定できません。 

経済分野の協力関係 

日韓の企業間では半導体、バッテリー、再生可能エネルギーといった分野でサプライチェーンの連携が進んでいます。新政権がこれを維持・強化すれば、両国にとって大きな経済的利益が期待できます。このように、日韓の経済協力は両国の競争力を高めるのに役立つため、新政権の政策動向に注目が集まっています。
現在、有力視されている李在明氏は、日本との経済協力に前向きな姿勢を示しており、協力関係は維持される見込みです。 

韓国大統領選挙の結果に注目しよう 

2025年の韓国大統領選挙は、日韓関係や東アジアの安全保障、さらには日本経済にも大きな影響を与える可能性があります。企業によっては、ビジネス環境が大きく変わることも予想されます。選挙結果とともに、新大統領が打ち出す外交・経済政策にも注目してみましょう。 

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