
HSBCホールディングスはイギリスに本社を置く、世界有数の金融機関です。58の国と地域で事業を展開しており、日本でも資産運用、銀行業務、証券関連サービスなどの金融サービスを提供しています。
本記事ではHSBCホールディングスの会社概要や経営状況、成長戦略を紹介します。
HSBCホールディングスとはどんな会社?

出典:HSBCホールディングス「Who we are」
HSBCホールディングスは、世界58の国と地域で約4,100万人の顧客に対し、金融サービスを提供している金融機関です。FXSSIが発表した「2025年度の総資産別世界最大の銀行トップ20」によると、同社は2023年時点で総資産において世界第8位にランクインしました。このように、HSBCは世界有数の大手銀行の一つとして知られています。ここでは、同社の会社概要や歴史、企業理念について紹介します。
会社概要
HSBCホールディングスの会社概要は以下のとおりです。
会社名 | HSBC Holdings plc |
本社 | イギリス |
創業 | 1865年 |
設立 | 1991年 |
進出地域 | 世界58の国と地域 |
顧客数 | 約4,100万人 |
従業員 | 211,304人(2024年12月31日時点) |
売上高 | 659億ドル(2024年度) |
歴史
HSBCホールディングスの歴史は、1865年にスコットランド人トーマス・サザーランド氏が、国際貿易を支援する目的で香港に銀行を開設したことに始まります。設立直後からアジアを中心に展開し、翌月には上海にも支店を開設。1875年までにはアジア、欧州、北米の7カ国に拠点を広げ、茶、絹、綿、砂糖といった主要な輸出品に対する金融支援を行いました。
1923年には上海の外灘に新支店を開設。同社は、1920年代を通じて中国における主要な外資系銀行としての地位を確立しました。第二次世界大戦中には多くの拠点が閉鎖されましたが、本社をロンドンへ移して事業を維持。戦後は再び本社を香港に戻し、地域経済の再建に大きく貢献しました。
1950年代以降は、買収を通じて中東、インド、アメリカ市場へ進出。1967年にはコンピュータを導入し、銀行業務の近代化を図りました。イギリスのミッドランド銀行買収にあたり、イギリス政府から登記簿上の本部をイギリス国内にするように要請され、1991年にロンドンでHSBCホールディングスを設立しました。
2007年には中国本土に「中国HSBC銀行」を設立し、再び中国市場での存在感を強化。2010年には中国国内で100番目の支店を開設し、中国事業のさらなる拡大に注力しました。
企業理念
HSBCホールディングスは、国際的な金融機関としての責任と役割を果たすために、次の目標・目的・価値観を企業理念として掲げています。
■目標(ambition)
「お客様にとって選ばれる国際的な金融パートナーとなる」
■目的(Purpose)
「チャンスの世界を切り開く」
■価値観(Values)
同社では、次の4つの項目を価値観の柱としています。
1. 違いを大切にする:異なる視点を模索する。
2. 共に成功する:境界を超えたコラボレーションをする。
3. 責任を負う:責任を持ち、長期的な視点を持つ。
4. それを成し遂げる:スピードを上げて物事を実現する。
同社はこれらの企業理念を通じて、より良い世界の創造に貢献することを目指しています。
HSBCホールディングスの経営状況
HSBCホールディングスの経営状況として、直近6年間の売上高と営業利益の推移を紹介します。

参考:HSBCホールディングス「All reporting」
2024年度の売上高は659億ドル(9兆8,850億円)で、2023年度の661億ドル(9兆9,150億円)と比較して、2億ドル(300億円)減少しました。また、2024年度の営業利益は294億ドル(4兆4,100億円)で、2023年度の305億ドル(4兆5,750億円)と比較して、11億ドル(1,650億円)減少しました。
※1ドル=150円換算
売上高が減少した要因は、証券の早期償還による損失やカナダの銀行事業の売却が挙げられます。営業利益が減少した要因は、為替変動と証券の早期償還の影響が挙げられます。
同社の地域別売上高の構成割合は以下のとおりです。

参考:HSBCホールディングス「All reporting」
グラフから、HSBCホールディングスの売上高で最も大きな割合を占めているのは香港です。次に多いのがイギリスで、この2つの地域だけで全体の50.3%を占めています。
HSBCホールディングスの事業別売上高の推移
HSBCホールディングスの経営状況について、事業別売上高に焦点を当てて解説します。
同社の事業別売上高の構成割合は以下のとおりです。

参考:HSBCホールディングス「All reporting」
HSBCホールディングスは3つの事業が安定した売上を上げており、特定の事業に依存せずバランスの取れた事業運営をしています。ここではさらに、各事業の内容とともに、売上高と営業利益の推移について紹介します。
ウェルスアンドパーソナルバンキング(WPB)
ウェルスアンドパーソナルバンキング(WPB)は、個人顧客向けに幅広い金融商品とサービスを提供している事業です。具体的には、当座預金、クレジットカード、個人ローン、住宅ローン、保険、資産運用などが含まれます。売上高と営業利益の推移は以下のとおりです。

参考:HSBCホールディングス「All reporting」
2024年度の売上高は287億ドル(4兆3,050億円)で、2023年度の268億ドル(4兆200億円)と比較して、19億ドル(2,850億円)増加しました。また、2024年度の営業利益は121億ドル(1兆8,150億円)で、2023年度の116億ドル(1兆7,400億円)と比較して、5億ドル(750億円)増加しました。
売上高と営業利益が増加した要因は、個人向け投資商品の販売や生命保険、資産運用サービスなどの好調が挙げられます。
コマーシャルバンキング(CMB)
コマーシャルバンキング(CMB)は企業向けに金融サービスを提供している事業です。具体的には営業債権金融、グローバル決済ソリューション、多通貨口座、コマーシャルカード、当座貸越、運転資金ファイナンス、保険などが含まれます。売上高と営業利益の推移は以下のとおりです。

参考:HSBCホールディングス「All reporting」
2024年度の売上高は216億ドル(3兆2,400億円)で、2023年度の224億ドル(3兆3,600億円)と比較して、8億ドル(1,200億円)減少しました。また、2024年度の営業利益は119億ドル(1兆7,850億円)で、2023年度の132億ドル(1兆9,800億円)と比較して、13億ドル(1,950億円)減少しました。
売上高が減少した要因は、2023年に計上された「シリコンバレー銀行のイギリス法人の買収による一時的な収益」が、2024年には発生しなかったことが挙げられます。また、営業利益の減少要因は、世界的なインフレ圧力に伴うコスト増加が挙げられます。
グローバルバンキングアンドマーケッツ(GBM)
グローバルバンキングアンドマーケッツ(GBM)は、法人や機関投資家向けに金融サービスを提供する事業です。具体的には銀行ソリューション、ファンド管理、企業信託、ローン代理店などが含まれます。
売上高と営業利益の推移は以下のとおりです。

参考:HSBCホールディングス「All reporting」
2024年度の売上高は175億ドル(2兆6,250億円)で、2023年度の158億ドル(2兆3,700億円)と比較して、17億ドル(2,550億円)増加しました。2024年度の営業利益は71億ドル(1兆650億円)で、2023年度の56億ドル(8,400億円)と比較して、15億ドル(2,250億円)増加しました。
売上高が増加した要因は、将来の成長を見据えた技術投資の支援によって、好調を維持できたことが挙げられます。また、営業利益が増加した要因は、収益が11%増を記録する一方で、インフレによるコスト増を4%に抑えられたことが挙げられます。
HSBCホールディングスの成長戦略
HSBCホールディングスは、成長戦略の一環として、大胆な事業再編を進めています。具体的には、欧米の投資銀行事業を段階的に縮小する一方で、アジアや中東市場への投資と事業強化に注力しています。
この戦略の背景は、アジア地域で中長期的に高い経済成長が見込まれているためです。特に中国、インド、東南アジア諸国では、急速な経済発展に伴い金融サービスの需要が拡大しており、同社にとって重要な地域です。
また、HSBCホールディングスのグループ企業であるHSBCアセットマネジメント株式会社の報告書では、「新たなフロンティア」としてベトナムを紹介しています。ベトナムは2010年代以降、政府の政策支援や自由貿易協定の活用によって、貿易が急速に拡大しました。さらに、若年層が多い人口構成や積極的なインフラ投資を背景に、グローバルなサプライチェーンの多様化の恩恵を受けています。こうした理由から、ベトナムを多様な投資機会を持つ市場と位置づけています。
参考:HSBCアセットマネジメント株式会社「Asia Insights」
まとめ
HSBCホールディングスは、世界58カの国や地域で幅広い金融サービスを提供するグローバルな金融機関です。近年は欧米の一部事業を縮小し、急成長するアジアや中東市場への展開を強化しています。こうした組織再編を通じて、より効率的で持続可能な成長を目指しています。HSBCホールディングスは世界有数の金融機関であることから、世界経済の動きを把握する上でも同社の動向に注目しましょう。