ユニリーバ(Unilever)は、イギリスに本社を置き、190カ国で製品を販売している消費財メーカーです。同社製の食品や洗剤、ヘアケアなどの家庭用品を毎日34億人が使用しています。本記事ではユニリーバの会社概要や経営状況、成長戦略について紹介します。
ユニリーバとはどんな会社
出典:ユニリーバ
ユニリーバは、世界中に400以上のブランドを展開している世界最大級の消費財メーカーです。日本においても、「LUX(ラックス)」「Dove(ダヴ)」「AXE(アックス)」などのブランドで知られています。この章では、ユニリーバの会社概要や歴史、経営理念を紹介します。
会社概要
ユニリーバの会社概要は以下のとおりです。
会社名 | Unilever plc |
本社 | イギリス |
設立 | 1930年 |
進出地域 | 190カ国 |
製造拠点 | 280拠点 |
従業員数 | 128,000人 |
売上高 | 596億ユーロ(2023年度) |
歴史
ユニリーバは、1930年にイギリスの石鹸メーカー「リーバ・ブラザーズ」とオランダのマーガリンメーカー「マーガリン・ユニ」の合併によって誕生しました。
1930年代、大恐慌や世界大戦という厳しい環境の中でも、ユニリーバは企業を買収して冷凍食品やインスタント食品などの事業に参入しました。従来の石鹸事業も固形石鹸からフレーク状やパウダー状にすることで、市場拡大に成功します。
1950年代は、アジアやアフリカの事業を拡大します。1971年には、紅茶メーカーのリプトンを買収したことで、ユニリーバの紅茶事業は世界最大級になりました。1978年には、接着剤やでん粉、特殊有機化学品の大手メーカーのナショナル・スターチを買収し、アメリカでのプレゼンスを強化しました。
1986年には、香料を展開していたオランダのナールデンを買収し、香水と食品香料の事業を2倍に拡大します。同年、アメリカのポンズを買収し、ポンズクリームやワセリンなどのブランドを獲得しました。1992年には、チェコ共和国やハンガリー、ロシアに進出し、2001年には、87社の買収と売却によりブランドのポートフォリオを再編します。
このように、ユニリーバは企業の買収と事業の売却により、事業拡大・再編を繰り返すことで成長した企業です。
※ロシアの事業については、2024年10月にロシア企業のアルネスト・グループに売却しています。
経営理念
ユニリーバのパーパス(企業の存在意義)は、「サステナビリティを暮らしの“あたりまえ”に」です。具体的には、4つの社会課題に対して以下の目標を掲げています。
- 気候変動
2039年までに、バリューチェーン全体で温室効果ガスの排出量と吸収量を合算して、正味ゼロを達成すること。
- 自然破壊
森林破壊のないサプライチェーンの確保、再生農業の実践などにより、回復力と再生力のある自然を実現すること。
- プラスチック汚染
プラスチック包装の100%の再利用や堆肥化などを可能にすること。
- 所得格差
グローバルバリューチェーンを通じて不平等の所得格差の解消に取り組み、人々の生活を向上させること。
そして、パーパスを実現するために同社が重視している4つの価値観は以下のとおりです。
- 誠実さ
- 尊敬
- 責任
- 開拓精神
同社はこれらの4つの価値観を重視することで、持続可能な成長とユニリーバの戦略の実現に役立つとしています。
ユニリーバの経営状況
ユニリーバの経営状況として、直近6年間の売上高と営業利益の推移を紹介します。
参考:ユニリーバ「Archive of Unilever Annual Report and Accounts」
2023年度の売上高は596億ユーロ(8兆9,400億円)で、2022年度の601億ユーロ(9兆150億円)から5億ユーロ(750億円)減少しました。2023年度の営業利益は97億ユーロ(1兆4,550億円)で、2022年度の107億ユーロ(1兆6,050億円)から10億ユーロ(1,500億円)減少しました。売上高が減少した要因として、為替レートと企業買収の影響が挙げられます。※1ユーロ=150円換算
また、地域別売上高の構成割合は以下のとおりです。
参考:ユニリーバ「Archive of Unilever Annual Report and Accounts」
ユニリーバは世界各国で売上を確保しており、同社のCEO(最高経営責任者)によると、2023年の売上高の60%を新興市場が占めているとのことです。
ユニリーバの事業別売上高の推移
ユニリーバの経営状況を深掘りするために、この章では事業別の売上高に焦点を当てて解説します。事業別売上高の構成割合は以下のとおりです。
参考:ユニリーバ「Archive of Unilever Annual Report and Accounts」
グラフのように、ユニリーバの5つの事業はバランスよく売上高を確保しています。ここでは各事業の主要製品、売上高と営業利益の推移を紹介します。
パーソナルケア
パーソナルケア事業は、主にクレンジング・制汗剤・口腔ケア用品・カミソリなどを販売している事業です。同事業の売上高・営業利益は以下のとおりです。
参考:ユニリーバ「Archive of Unilever Annual Report and Accounts」
2023年度の売上高は138億ユーロ(2兆700億円)で、2022年度の136億ユーロ(2兆400億円)から2億ユーロ(300億円)増加しました。2023年度の営業利益は29億5,000万ユーロ(4,425億円)で、2022年度の22億6,000万ユーロ(3,390億円)から6億9,000万ユーロ(1,035億円)増加しました。2023年度に売上高と営業利益が増加した要因として、中南米・中東・東南アジア・欧州市場の成長が挙げられます。
食品
食品事業は、主にヘルシースナック・機能性食品・植物性代替肉の販売をしている事業です。同事業の売上高・営業利益は以下のとおりです。
参考:ユニリーバ「Archive of Unilever Annual Report and Accounts」
2023年度の売上高は132億ユーロ(1兆9,800億円)で、2022年度の138億ユーロ(2兆700億円)から6億ユーロ(900億円)減少しました。2023年度の営業利益は24億1,000万ユーロ(3,615億円)で、2022年度の44億9,000万ユーロ(6,735億円)から20億8,000万ユーロ(3,120億円)減少しました。売上高と営業利益が減少した要因として、アルゼンチンやインド、アメリカの通貨安が挙げられます。また、2022年度に営業利益が増加した要因は事業の売却益によるもので、それがなくなったことも2023年度の営業利益が減少した要因です。
ビューティ&ウェルビーイング
ビューティ&ウェルビーイング事業は、主にヘアケア用品・スキンケア用品・サプリメントなどを販売している事業です。同事業の売上高と営業利益の推移は以下のとおりです。
参考:ユニリーバ「Archive of Unilever Annual Report and Accounts」
2023年度の売上高は124億ユーロ(1兆8,600億円)で、2022年度の122億ユーロ(1兆8,300億円)から2億ユーロ(300億円)増加しました。2023年度の営業利益は22億ユーロ(3,300億円)で、2022年度の21億5,000万ユーロ(3,225億円)から5,000万ユーロ(75億円)増加しました。売上高と営業利益が増加した要因として、製品価格の上昇と販売数の増加が挙げられます。
ホームケア
ホームケア事業は、主に布地のクリーニング用品や強化剤、ホームケア用品などを販売している事業です。同事業の売上高と営業利益は以下のとおりです。
参考:ユニリーバ「Archive of Unilever Annual Report and Accounts」
2023年度の売上高は121億ユーロ(1兆8,150億円)で、2022年度の124億ユーロ(1兆8,600億円)から3億ユーロ(450億円)減少しました。一方、2023年度の営業利益は14億1,000万ユーロ(2,115億円)で、2022年度の10億6,000万ユーロ(1,590億円)から3億5,000万ユーロ(525億円)増加しました。営業利益が増加した要因として、ブランディングやマーケティングの強化による粗利益の改善が挙げられます。
アイスクリーム
アイスクリーム事業は、その名のとおりアイスクリームを販売している事業です。同事業の売上高と営業利益の推移は以下のとおりです。
参考:ユニリーバ「Archive of Unilever Annual Report and Accounts」
2023年度の売上高は79億ユーロ(1兆1,850億円)で、2022年度の78億ユーロ(1兆1,700億円)から1億ユーロ(150億円)増加しました。一方、2023年度の営業利益は7億6,000万ユーロ(1,140億円)で、2022年度の7億7,000万ユーロ(1,155億円)から1,000万ユーロ(15億円)減少しました。これらの要因として、原材料の高騰に合わせて販売価格を高く設定したものの、販売数が減少したことが挙げられます。
ユニリーバの成長戦略
ユニリーバは成長戦略として、「戦略&成長アクションプラン」を掲げ、以下の3つの項目を成長の柱にしています。
- より迅速な成長
同社のトップ30のパワーブランドの売上高が全体に占める割合は約75%です。そのため、30のパワーブランドの成長に重点を置き、多くのリソースを投入するとしています。
- 生産性の向上と簡素化
より強力に成長を推進するために、生産性の向上と簡素化を組み合わせることを重要視しています。具体的には、設備投資や顧客開発の役割の強化、運用モデルの簡素化などです。
- パフォーマンス文化
パフォーマンスを重視したチームにリニューアルし、パフォーマンスに応じた報酬体系に変更します。そして、よりシンプルで目に見える年間目標を設定し、新しい報酬体系を価値創造に結びつけるとのことです。
ユニリーバはサステナビリティを重視
ユニリーバは100年以上の歴史を持つ消費財メーカーです。パーパスに「サステナビリティを暮らしの“あたりまえ”に」を掲げているように、20年以上にわたって持続可能性を実現するための取り組みを推進してきました。なぜなら、同社はバリューチェーン全体で自然に依存するだけではなく、自然界にも影響を与える立場であることから、環境破壊や生物多様性の喪失は事業のリスクと捉えているためです。
今後、重要となっていくであろう「サステナビリティ」を重視しながら事業拡大を実現したい経営者様は、ユニリーバの事業展開の仕方を参考にしてみてはいかがでしょうか。