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韓国バッテリー素材の供給網はどこが詰まっているのか
2026.08.06 更新 / PROVE通信編集部
監修:森英朗(グループ代表)
韓国バッテリー素材の供給網はどこが詰まっているのか

韓国バッテリー素材の供給網はどこが詰まっているのか

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詰まりの正体は「セルが作れない」ことではありません。作れても、米国の税額控除と欧州のトレーサビリティを満たす素材の組み合わせが足りない——そこに詰まっています。LG Energy Solution、SK On、Samsung SDIというセル大手の背後で、正極・負極・電解液・セパレータの中国依存が残り、IRAのForeign Entity of Concern(FEOC)ルールとEU電池規則が調達地図を書き換えつつあります。日本企業が触るべきは完成セルではなく、どの工程が非中国化しきれず、どこに日系素材・装置の余地があるかです。結論から逆算します。シェアの勝敗表より、適格BOMの充足表のほうが経営判断に使えます。

まず結論——詰まっているのは「正極前駆体」と「適格な原産地」の二層

実務上のボトルネックは二層です。第一層は物理供給。正極活物質とその前駆体(プレカーサ)、合成黒鉛負極、電解液・セパレータの一部で中国依存が高く、業界整理(SNE Research系の発表値を複数の海運・電池専門媒体が引用した二次情報)では正極で約8割、セパレータ・電解液でも6〜7割前後、負極でも約半数が中国由来とされる水準が繰り返し示されています(工程単位の比率は韓国関税庁のHSコード原表と粒度が異なり、一次統計での直接突合は未了のため参考値として付す)。第二層は制度適格。米国ではFEOCに該当する主体からの重要鉱物・電池部品比率が税額控除の可否を左右し、北米で稼ぐセルメーカーは「安い中国素材」をそのまま使えません。欧州では電池規則(Regulation (EU) 2023/1542)がカーボンフットプリント開示や将来のバッテリーパスポート、デューデリジェンスを求めます。物理と制度の両方が同時に詰まると、セルは動いても利益と受注が歪みます。

セル側の数字——LGESは売上があっても、北米立ち上げコストが利益を削る

LG Energy Solutionの2026年1〜3月期は、連結売上約6.6兆ウォン、営業損失約2,078億ウォンでした。北米の生産インセンティブ約1,898億ウォンを含んでも、ESS拠点の立ち上げ費用や製品ミックス悪化が利益を押し下げた、と公式説明は整理しています。円筒形やESSの出荷は動き、受注残も厚い一方で、「作る場所を北米に移すコスト」が先に来る構図です。セル大手の地域別売上は北米・欧州の比重が政策感応度を決め、素材調達の適格性がそのまま営業利益の感応度になります。つまり詰まりは素材部門だけの話ではなく、セルIRの損益計算書にすでに現れている、という読み方が必要です。素材の遅れは、セルの値引きや顧客補償、稼働率の低さとして四半期ごとに再計測されます。

IRA(インフレ抑制法)が変えた調達——FEOCと材料コスト比率がBOMを監査する

米国インフレ抑制法(IRA)系の電池クレジットでは、Foreign Entity of Concern(中国など特定国の実効支配を受ける主体)からの調達比率が閾値を超えると、税優遇が取れません。ガイダンスと法改正の細部は更新が続くため、企業実務では「特定外国事業体(中国等)が単独で議決権の25%以上を持つと対象になる」などの所有構造要件と、材料コストに占める非FEOC比率(Material Assistance Cost Ratioなどの考え方)を同時に見ます。結果として、韓国セルメーカー向けの正極工場でも、中国パートナーの持ち分を下げ、日本・欧米の商社や投資家を入れる再編が進みました。LG Chemの亀尾正極拠点では、豊田通商が25%を取得し、LG Chem 51%、旧中国側持ち分が低下したと公式・報道で整理されています。詰まっていたのは「正極の量」ではなく「適格な正極の量」です。閾値は年を追って厳しくなる設計が多く、2026年時点のクリアが2030年まで自動で続く保証はありません。

EU電池規則——トレーサビリティが第二の壁になる

EU電池規則は、電池のライフサイクル全体にカーボンフットプリント開示、リサイクル含有、サプライチェーン上のデューデリジェンス、将来のデジタル・バッテリーパスポートなどを段階導入します。米国が「誰の資本か・どこで作ったか」を問うのに対し、欧州は「どれだけ追跡できるか・どれだけ低炭素か」を問います。韓国勢にとっては、中国素材を混ぜたBOMほど開示と監査の負荷が上がり、顧客OEMの調達方針とも衝突しやすい。セルメーカーが欧州工場を持つほど、素材側にも原産地証明と排出データの提出能力が求められます。詰まっているのは港のコンテナではなく、データと証明のパイプラインです。商社・素材メーカーにとっては、スペックシートに加えて「追跡可能なデータパッケージ」が納品物になります。

正極——中国依存が最も高く、脱中国投資が最も厚い工程

正極は電池コストの最大項目の一つであり、依存度の数字も最も厳しい層です。韓国勢は、前駆体の国内・非中国化と、LFP(リン酸鉄リチウム)の量産立ち上げを並行しています。POSCO Future Mは光陽で前駆体工場を稼働させ、中国を迂回する正極チェーンを強調。グループはアルゼンチン塩湖や豪州リチウム、フィリピンなどからのニッケル調達と組み合わせ、カナダではGMとの合弁Ultium CAMも持ちます。公式発表では、浦項でLFP正極の専用工場を2026年5月起工・2027年量産(最大年産5万トン規模)とし、既存三元系ラインの一部をLFPへ転換して2026年後半から供給を始める計画です。L&Fは非中国勢としてLFP正極の量産を先行させる動きが報じられ、EcoPro BMはプレカーサレスLFPのパイロットを進めています。詰まっていた前駆体工程に、設備と資本が流れ込んでいるのが2025〜2027年の実態です。ここが動けばセルの適格BOMが厚くなり、動かなければ北米の税額控除計画が四半期ごとに書き換わります。

負極・電解液・セパレータ——工程ごとに詰まり方が違う

負極(とくに合成黒鉛)は中国依存が高く、黒鉛関連の輸出管理とも連動してリスクが語られます。電解液は溶剤・塩・添加剤の組み合わせで、中国・日韓の分業が残ります。セパレータは韓国のSK IE Technologyなどが強い一方、中国勢の価格攻勢で日系の収益が圧迫されてきました。東レはハンガリーのセパレータ合弁持ち分をLG Chem側へ売却し、欧州製造から退きつつ日本・韓国での製造は継続すると発表しました。旭化成は北米で豊田通商向けにハイポア™のキャパシティライト契約を結び、2027年中ごろからシャーロット塗工設備などから供給する計画を公式に示しています。宇部マクセルは堺で原膜能力を段階的に約5割増やす方針を公表しています。同じ「4大材料」でも、正極は制度適格、セパレータは価格と立地再編、負極は原料地政学——詰まりの質が違います。一枚の「脱中国」スライドで四材料をまとめると、投資の優先順位を誤ります。

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脱中国は一直線ではない——JVの遅延と「中国内拡大」が同居する

現場では、脱中国投資と中国内拠点の維持・拡大が同時に起きます。北米・韓国でのFEOC対応が進む一方、中国内の大型セル・素材拠点は需要とコストで残る。合弁の遅延や計画見直し(需要減・IRA不確実性を理由とするケース)も報じられ、投資のタイミング自体が詰まっています。読み方を誤ると、「脱中国が進んだから依存は解消した」と早合点します。実際は、顧客向け(とくに北米適格)のラインと、中国内・価格競争向けのラインが二層化し、BOMが顧客ごとに分岐している段階です。詰まっているのは単一の工場ではなく、二層BOMを運用する組織能力です。経営会議では「中国比率」を一枚の平均で見ず、顧客別・工場別に割ってください。

日系素材・装置メーカーへの含意——どこに接点があるか

日本企業にとっての実務接点は四つです。①正極・前駆体の非中国ライン向けに、高純度ニッケル・リチウム化合物、添加剤、分析・品質装置を供給する。②セパレータでは、価格勝負の汎用品ではなく、耐熱塗工・高信頼性膜で北米・日系OEM向けにキャパシティを確保する(旭化成×豊田通商型)。③電解液・添加剤・バインダなど、トレーサビリティと低不純物が効くニッチで韓国セルの適格BOMに入り込む。④工程装置・検査・ドライ電極など、立ち上げコストに苦しむ北米工場の歩留まり改善に寄与する。逆に、中国依存のままの汎用正極・汎用セパレータで価格競争だけを挑むと、詰まりの外側で消耗します。豊田通商がLG Chem正極に資本参加したように、「素材×商社×適格性」のセットが競争単位になりつつあります。単品のカタログ営業より、顧客のFEOC監査表に自社品目を載せる営業のほうが通ります。

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若手が誤解しやすい一点——「韓国バッテリー=完成品の勝ち負け」ではない

グローバルシェアの増減は重要ですが、詰まりの診断には足りません。シェアが落ちても、北米適格セルの利益は残る。シェアが維持できても、中国素材比率が高ければ税額控除を失い、営業損失が続く。もう一つの誤解は、「LFPに切り替えれば中国依存が消える」です。LFPも前駆体・リン酸鉄・リチウムの原産と資本構造が適格でなければ、同じ壁にぶつかります。三つ目は、「日系セパレータはもう終わった」です。欧州撤退と北米確保が同時に起きており、地理を選別した再編です。見るべきは完成車の販売台数ではなく、適格BOMの充足率です。ここを誤ると投資先を間違えます。数字は工程別に取りましょう。

この先の分岐——適格素材を先に固めるか、価格で持つか

分岐の一つは、非中国正極・前駆体・負極の量産が2026〜2027年に計画通り立ち上がるかです。もう一つは、EU側のパスポート・開示要件が調達コストをどこまで押し上げるか。日本企業が今取るべきは、(1) 顧客セルメーカーの北米/欧州向けBOMで自社材料がFEOC・原産のどちら側にいるかを明示する、(2) 正極前駆体・LFP立ち上り・セパレータ再編の三つの投資カレンダーを四半期更新する、(3) 商社・OEMとのキャパシティライトや出資で「枠」を先に取る、(4) 中国向け汎用と適格向け高付加価値を別P/Lで管理する——の四点です。詰まっている場所が分かれば、押すべき工程も決まります。次の経営会議では、シェア表の隣に適格材料の充足率を置いてください。

読み解きのポイント ①詰まりは物理依存+制度適格の二層 ②LGES 2026年1Qは売上6.6兆ウォン・営業損失 ③IRAのFEOC/材料比率が正極の資本再編を強制 ④POSCO Future Mは前駆体とLFPで脱中国を具体化 ⑤日系はセパレータの地理選別と適格BOMへの食い込みが鍵

韓国バッテリー素材の供給網は、セルの生産能力ではなく、適格な正極前駆体と証明可能な原産地で詰まっています。追うべきはシェアの見出しではなく、FEOC対応の資本構造、LFP/前駆体の稼働時期、日系が入れる工程の三点です。そこまで分解できれば、次の四半期で更新すべき顧客と投資案件も見えてきます。詰まりを工程名で呼べるようになったとき、初めて投資判断が速くなります。

よくある質問

Q. どこが一番詰まっていますか?

正極とその前駆体の中国依存、および米国FEOC・EUトレーサビリティを同時に満たす適格素材の不足です。

Q. IRAは何を変えますか?

中国などFEOC由来の材料比率が高いと税額控除が取れなくなり、正極工場の出資比率や調達先の再編を強制します。

Q. 韓国企業は脱中国できていますか?

前駆体・LFP・北米拠点で進んでいますが、依存の解消は未完で、顧客向け適格ラインと中国内ラインの二層化が進んでいます。

Q. 日本企業の機会はどこですか?

適格正極チェーン向けの材料・装置、北米向けセパレータの枠確保、トレーサビリティ対応の添加剤・検査です。

主な出典

LG Energy Solution「2026 First-Quarter Financial Results」(2026年4月30日)/LG Chem・豊田通商の正極出資関連発表・報道/POSCO Future M公式(LFP正極工場・前駆体/光陽)/旭化成×豊田通商 セパレータ・キャパシティライト契約(2025年7月31日)/東レ ハンガリーセパレータ持ち分売却発表/宇部マクセル セパレータ増強発表/EU Battery Regulation (EU) 2023/1542/米国IRA/FEOC関連ガイダンス/韓国電池素材の中国依存に関する業界整理(二次は⚠️)。

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※2026年8月時点の情報をもとに作成しています。監修:森英朗(グループ代表)。

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