海外の販路契約で先に分けるのは、「代理店(Agent)」と「販売店(Distributor)」です。日本語の「販売代理店」だけでは、どちらなのか分かりません。在庫と売掛を誰が持つか、値段を誰が決めるかが違います。契約の名前より、権利と義務の中身です。本記事では、ジェトロの定義、EUとUAEの保護ルール、契約前に決める3つをわかりやすく解説します。
当コラムで注目する用語
- 代理店(Agent):本人(メーカー)の仲立ち。売買の当事者にならない。手数料を受け取る。
- 販売店(Distributor):商品を買い取り、自分の名前で再販売する。在庫と売掛のリスクを持つ。
- 独占(Exclusive / Sole):その地域・商品で他の販路を置かない約束。
- 最低引取:期間内に買い取る(または売る)数量・金額の下限。
- 解除通知期間:契約を終わるときに、何日前に書面で知らせるか。
- 商業代理人指令:EUが1986年に出した、独立の商業代理人の最低ルール(指令86/653/EEC)。
代理店と販売店は何が違うか
ジェトロの貿易・投資相談Q&A(最終更新2025年8月)は、次のように分けています。代理店は客先との売買契約の当事者にならず、損益と危険は本人(売り主)に帰属します。客先が払えなくなったときの回収リスクも、本人側です。報酬は手数料です。
販売店は、客先との売買契約の当事者になります。本人から買い、第三者へ売ります。価格は販売店が設定できます。代金回収も販売店の責任です。在庫を持つ特約が付くことも多いです。
| 項目 | 代理店(Agent) | 販売店(Distributor) |
|---|---|---|
| 客先との契約 | 本人が当事者 | 販売店が当事者 |
| 在庫・売掛 | 原則として本人 | 販売店 |
| 売価の決定 | 本人側が決めることが多い | 販売店が決める(買い切り) |
| 報酬 | 手数料 | 仕入と再販の差益 |
| 独占の呼び方 | Exclusive / Sole Agent | Exclusive / Sole Distributor |
例えば機械部品を東南アジアに出すとき、代理店なら現地の見積は本人名義、販売店なら現地法人(販売店)名義になります。請求書の宛名が違う、と覚えると現場で混ざりにくいです。
「販売代理店」という呼び方が危ない理由
ジェトロは、日本の「販売代理店」「系列店」「特約店」「輸入総代理店」だけでは、AgentかDistributorか分からない、と書いています。DistributorのつもりでAgencyにサインすると、売掛の回収が本人に残ります。
ご担当者様が英語契約を見るときは、表題より Definitions(定義)を先に開いてください。Parties の後に、誰が買い、誰が客先と契約するかが書いてあります。
企業様の社内資料で「現地代理店」と一括りにしている場合、まずこの表に当てはめてください。当てはめられない条項は、まだ契約になっていません。
後から揉める3点——独占、最低引取、解除
実務で後から揉めやすいのは、次の3つです。法律の国差より先に、この3つが契約に書いてあるかを見てください。
1つ目は独占か非独占かです。独占にすると、本人は同じ地域に別の販路を置けません。販売店が動かないと、市場が止まります。非独占なら複数置けますが、相手の投資意欲は落ちやすいです。
2つ目は最低引取です。独占の見返りに、年間の最低購入数量を置くことが多いです。未達のときの扱い(独占解除、契約終了、ペナルティ)を書かないと、翌年の交渉が感情論になります。
3つ目は解除の通知期間です。口頭の「来月から終わり」は、国によっては通りません。EUの商業代理人では、期間の下限が指令で決まっています。UAEの登録代理店では、通知と補償の条文が別途あります。
例えば初年度は非独占・最低引取なし、2年目から独占と最低引取、と段階を分ける方法があります。一度に全部を独占にしない方が、撤退の選択肢が残ります。
EU:商業代理人指令は今も効く
EU理事会指令86/653/EEC(1986年12月18日)は、加盟国の独立商業代理人のルールを揃えるための指令です。2026年時点も、EUR-Lex上の現行文書として参照できます。対象は「商業代理人」です。買い切りの販売店(distributor)そのものには、この指令は原則として当たりません。契約の中身が代理なら、表題がDistributionでも代理の保護が問題になります。
第15条は、期間の定めのない契約の解除予告です。1年目は1カ月、2年目は2カ月、3年目以降は3カ月が下限で、これより短い予告は合意できません。加盟国は4年目以降を4〜6カ月に延ばすことができます。本人側の予告は、代理人側より短くできません。
第17条は、契約終了後の補償(indemnity)または損害賠償(compensation)です。indemnityの上限の目安は、直近最長5年の年平均報酬の1年分、と指令が書いています。終了から1年以内に請求の意思を通知しないと失う、という期限もあります。
準拠法を日本法にしても、代理人がEU域内で活動する場合は、この最低ルールを外しきれないことがあります。欧州司法裁判所のIngmar判決(域外の本人が域内代理人に対し、選択法で補償を外そうとした事案)が、その論点の代表例として引用されます。
中東:UAEの商業代理店法は2023年に変わった
アラブ首長国連邦は、Federal Law No. 3 of 2022(商業代理店の規制)を2022年12月13日に制定し、2023年6月15日に施行しました。公式立法サイト(uaelegislation.gov.ae)は現行法として掲載しています。旧法(1981年連邦法18号)を置き換える大きな改正です。
新法は、契約に沿った終了や不更新の道を広げました。ただし通知は、原則として1年前、または契約期間の半分の到来前のいずれか短い方、と英訳条文にあります(当事者の別段の合意がない場合)。終了や満了で代理人が補償を請求できる場合もあります。代理人が商品の成功に寄与し、終了で逸失利益が生じたことを証明する、という建て付けです。
登録済みの古い代理店には、経過措置が残ると法律事務所解説が指摘しています。2026年時点の実務では、「新法だからすぐ切れる」と決めない方が安全です。登録の有無と、登録日が2023年6月15日より前かを、現地弁護士に確認する項目にしてください。
ASEAN:インドネシアとベトナムで契約に書くこと
インドネシアは、商業大臣規則2021年第24号(Permendag 24/2021)が、販売店または代理店による商品流通の契約を定めています。公式法令サイト(peraturan.go.id)では2021年4月1日制定・公布、状態は現行です。規則は販売店、独占販売店、代理店、独占代理店を区別します。独占(sole)は、インドネシア全体または特定地域で唯一の地位を契約で与える、という整理です。書面の任命契約が前提になります。
ベトナムの代理店契約は、商法(Luật Thương mại)2005第166条〜第177条が根拠です。契約は書面(またはこれと同等の法的効力を持つ形式)が必要ですが、登録は不要です。解除は、一方が書面で通知した日から60日を下回る期間では終了できず(第177条)、本人側からの解除では代理店が活動期間に応じた補償を求められる規定があります。登録がない分、契約書の終了条項が本体です。
ASEANを「代理店保護が弱い」と一括りにしない方がよいです。インドネシアは流通の類型と書面が行政規則に載ります。ベトナムは登録なしでも、民法・商法の一般ルールと契約文言が効きます。国ごとに、登録の要否を1行メモしてください。
契約前に決める3つのこと
タイトルどおり、契約前に決めるのは次の3つです。領域、チャネル、終了条件です。
① 領域(国・州・顧客層)
国名だけだと、越境ECや隣国からの受動的な注文で揉めます。国、州、オンラインを含むか、既存のグローバル顧客を除外するかを書いてください。独占なら、本人が展示会で直接受注したときの扱いも決めます。
② チャネル(誰が客先と契約するか)
代理店なら客先契約は本人、販売店なら販売店、が基本です。在庫拠点、保証修理、値引き権限もチャネルの一部です。ここが空欄だと、現場の営業が口頭で値引きし、代金が回収不能になります。
③ 終了条件(予告・未達・補償)
予告期間、最低引取未達のときの独占解除、在庫の買い戻し、顧客リストの帰属を書いてください。EU代理人なら指令の下限より短くできません。UAE登録代理店なら、通知の長さと補償の可能性を先に見積もります。
メリットは、3点が揃うと「とりあえず独占」を避けられることです。注意点は、3点を口頭の信頼で先送りすると、相手の国内法の保護だけが残ることです。
注意点——価格拘束と準拠法
販売店に再販売価格の下限を守らせると、日本では独占禁止法の再販売価格の拘束が問題になり得ます。公正取引委員会の「流通・取引慣行に関する独占禁止法上の指針」が、参考価格と拘束の差を説明しています。海外でも競争法は別途あります。希望小売価格を「参考」と明記し、守らせる仕組みを置かないことが出発点です。
準拠法と紛争解決(裁判所か仲裁か)は、保護法の強い国では契約どおりにならないことがあります。EU代理人の補償、UAEの登録代理店が典型です。ICC(国際商業会議所)のモデル代理店契約・モデル販売店契約は、条項の抜け漏れチェックに使えます。モデルをそのまま貼るのではなく、現地の強行規定を足してください。社内法務が初稿を作るときの出発点として使う、という位置づけで足ります。
書面に残す最小セット
最小セットは4行です。(1) AgentかDistributorか。(2) 独占か非独占か、領域とオンラインの範囲。(3) 最低引取と未達時の扱い。(4) 予告期間と補償・在庫の行方。
この4行が契約の定義条項と終了条項に落ちていれば、社内の「販売代理店」という曖昧語を外しても、相手と会話できます。国の保護法は、この4行の上に乗せる、という順番にしてください。弁護士確認の前に、この4行を日本語1枚に書いて持っていくと、確認時間が短くなります。英語契約の定義条項に、同じ4行をそのまま対応させるのが次の作業です。日本語と英語でズレが出たら、英語側を正とします。
よくある質問
Q. 代理店と販売店、どちらが安全ですか。一概には言えません。売掛と在庫を本人が持ちたくないなら販売店、価格と顧客を本人が握りたいなら代理店、が起点です。国の保護法は代理店の方が厚いことが多いです。
Q. EU指令は販売店にも適用されますか。指令の対象は商業代理人です。買い切りの販売店には原則当たりません。中身が代理なら、表題がDistributionでも確認が必要です。
Q. 契約前に決める3つは何ですか。領域、チャネル(誰が客先と契約するか)、終了条件(予告・未達・補償)です。
主な出典
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※2026年8月時点の情報をもとに作成しています。監修:森英朗(グループ代表)。
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