
2024年、日本では医師の働き方改革により医療業界が転換期を迎えています。そのような中、医療従事者向けのトレーニング施設を開設し、注目を集めている企業がメドトロニックです。
今回は「メドトロニックはどんな会社なの?」という疑問をお持ちの方に向けて、会社概要や事業内容、業績などを徹底解説します。
メドトロニックとはどんな会社

出典:メドトロニック「メドトロニックについて」
メドトロニックは、アイルランドのダブリンに本社を置いてペースメーカーなどの医療機器の開発・販売を行う企業です。ここではメドトロニックの会社概要・歴史・事業内容について紹介します。
会社概要
メドトロニックの会社概要は以下のとおりです。
会社名 | Medtronic plc |
本社 | ダブリン(アイルランド) |
設立 | 1949年 |
従業員数 | 95,000人 |
拠点数 | 製造拠点:78 研究開発拠点:40 |
事業を展開している国 | 150カ国 |
売上高 | 約312億ドル(2023年) |
有効特許数 | 46,000以上 |
メドトロニックはペースメーカーの開発・製造などにより、1年間に約7,400万人の患者の治療に貢献しています。
歴史
メドトロニックは、1949年にアール・バッケン氏と義兄のパーマー・ハーマンズリー氏により設立されました。企業名の由来は、Medical(医療)とElectronic(電子工学)の単語を組み合わせた造語です。
名前の由来のとおり、当初は医療用電子機器を中心とした修理事業を展開していました。
1957年、世界初の電池式ペースメーカーの開発に成功します。当時のペースメーカーはコンセントに差し込んで使用するタイプで、停電が発生した際に患者の命が危険にさらされていました。このような時代背景の中、メドトロニックの画期的なペースメーカーは世界中の医師に出荷されました。さらに1958年には、体内植込み型ペースメーカーの開発に成功します。
1977年には人工心臓膜、1996年には植込み型除細動器の開発に成功します。2002年には、心臓植込み型電子デバイスとして業界で初めて遠隔モニタリングシステムを導入しました。
このように、ペースメーカーの開発を中心に成長してきた企業がメドトロニックです。
主要事業
メドトロニックは治療領域ごとに4つの事業を展開し、それぞれの治療で役立つ製品を開発・製造しています。主要事業と主力製品は以下のとおりです。
- カーディオバスキュラー
循環器領域の治療に役立つ製品の開発・販売を行っている事業で、主力製品はペースメーカーやステントなどです。
- ニューロサイエンス
神経科学領域における製品の開発・販売を行っている事業です。各種脊椎インプラントや画像誘導手術及び術中画像システムなど、脳や脊髄の治療法に役立つソリューションを提供しています。
- メディカルサージカル
外科領域と低侵襲治療・診断領域における製品の開発・販売を行っています。主力製品には、人工呼吸器やパルス酸素測定、電気手術器などがあります。※低侵襲治療とは、出来る限り体に傷をつけずに行われる治療のことです。例えば、内視鏡手術や血管に関する疾病で用いられるカテーテル治療などが挙げられます。
- ダイアビーティス
糖尿病領域における製品の開発・販売を行っている事業です。基礎インスリン注入量を自動調整するインスリンポンプや、血糖変動マネジメントを提供しています。
メドトロニックの経営状況
メドトロニックの経営状況を売上高・営業利益の推移から考察します。直近6年間の売上高・営業利益の推移は以下のとおりです。

出典:メドトロニック「Annual Meeting & Reports」
2023年の売上高は約312億ドル(約4兆6,800億円)で、営業利益は約55億ドル(約8,250億円)でした。前年と比較すると売上高は約5億ドル減(約750億円)、営業利益は約3億ドル減(約450億円)でした。※1ドル=150円換算
また、地域別の売上高は以下のとおりです。

出典:メドトロニック「Annual Meeting & Reports」
※米国以外先進国市場:日本・オーストラリア・ニュージーランド・韓国・カナダ・西ヨーロッパ諸国
※新興市場:米国や先進国市場に含まれない中東・アフリカ・ラテンアメリカ・東ヨーロッパ・及びアジアの国々
メドトロニックの主要な市場は先進国で、その中でも米国は突出して割合が高くなっています。
メドトロニックの事業別売上高の推移
メドトロニックの業績にどの事業が貢献しているかを確認するために、この章では事業別の売上高に焦点を当てます。まずは、事業別売上高の構成割合は以下のとおりです。

出典:メドトロニック「Annual Meeting & Reports」
メドトロニックはペースメーカーとして有名な企業ですが、ペースメーカーを開発・販売しているカーディオバスキュラー事業以外でも大きく売上を作っていることから、様々な医療分野で活躍していることが分かります。
カーディオバスキュラー:循環器領域
カーディオバスキュラー事業の売上高の推移は以下のとおりです。

出典:メドトロニック「Annual Meeting & Reports」
2023年の売上高は約115億ドル(約1兆7,250億円)で、前年と比較すると約1億ドル(約150億円)の増加となりました。直近6年間で最も売上高が多く、好調を維持しています。Micra(リードレスペースメーカー)、経カテーテル的大動脈弁置換術(TAVR)用デバイスの業績の好調が要因として挙げられます。
ニューロサイエンス:神経科学領域
ニューロサイエンス事業の売上高の推移は以下のとおりです。

出典:メドトロニック「Annual Meeting & Reports」
2023年の売上高は約89億ドル(約1兆3,350億円)で、前年と比較して約1億ドルの増加となりました。また、売上高が3年連続で増加しており、好調を維持している事業の1つです。2023年の好調の要因として、脊髄・神経血管・耳鼻咽頭に関連する製品の業績の好調が挙げられます。
メディカルサージカル:外科領域と低侵襲治療・診断領域
メディカルサージカル事業の売上高の推移は以下のとおりです。

出典:メドトロニック「Annual Meeting & Reports」
2023年の売上高は約84億ドル(約1兆2,600億円)で、前年と比較すると約7億ドル(約1,050億円)の減少でした。メドトロニックの主要事業の中では、苦戦している事業と言えます。2023年に大きく売上が減少した要因は、コロナウイルス流行期に需要の多かった人工呼吸器が、アフターコロナとなり需要が大きく低下したためです。
ダイアビーティス:糖尿病領域
ダイアビーティス事業の売上高の推移は以下のとおりです。

出典:メドトロニック「Annual Meeting & Reports」
2023年の売上高は約22億ドル(約3,300億円)で、前年と比較して約1億ドルの減少となりました。売上高の減少の要因は為替変動の影響と、米国での売上が減少したためと同社では分析しています。
メドトロニックの新たな取り組み
メドトロニックは日本における新たな取り組みとして、2024年にメドトロニック サージカル エクスペリエンスセンターを開設しました。
メドトロニック サージカル エクスペリエンスセンターは、開腹手術や低侵襲な腹腔鏡下手術及びロボット支援下手術、外科手術のすべての術式を包括的に学べるトレーニング施設です。2017年に開設した「メドトロニック イノベーションセンター」、2021年の「モバイル トレーニング ラボ」に続き、3施設目となります。
同社はこのようなトレーニング環境を医療従事者に提供することで、医療技術の習得支援だけではなく、同社の製品を医療従事者に触れてもらえる機会を作ることを目的としています。
参考:インナビネット「メドトロニック,医師・医療従事者向け手術トレーニング施設を名古屋・藤田医科大学内に開設-世界初,開腹手術・腹腔鏡下手術・ロボット支援下手術まで包括的に対応する産学共同施設-」
まとめ
メドトロニックは、アイルランドに本社を置くペースメーカー大手の医療機器メーカーです。日本では医療従事者向けにトレーニングセンターを開設し、同社製品の普及や技術の発展に努めています。
2024年の医師の働き方改革により、医師の時間外労働の上限が原則年960時間となりました。このような医療業界の転換期において、メドトロニックの新たな取り組みは効率的に技術を学べ、製品を普及させる手法として注目されています。
先進的な取り組みをする同社は、医療業界の動向を把握するためにもチェックすべき企業と言えるでしょう。