報道によると、フォルクスワーゲン・グループはドイツ国内の2工場の閉鎖と最大3万人の人員削減を検討しているとのことで、注目が集まっています。そこで、今回はフォルクスワーゲン・グループの会社概要や経営状況などについて詳しく解説します。
参考:AUTOCAR JAPAN「フォルクスワーゲン・グループ、ドイツ国内で最大3万人の雇用削減を検討か 2工場閉鎖も」
フォルクスワーゲン・グループとはどんな会社
フォルクスワーゲン・グループは、フォルクスワーゲンやアウディ、ポルシェなどのブランドで乗用車・商用車・オートバイを開発・販売している自動車メーカーです。世界27カ国に114の生産拠点を持ち、年間900万台以上を販売しています。この章では会社概要や歴史、経営理念を紹介します。
会社概要
フォルクスワーゲン・グループの会社概要は以下のとおりです。
会社名 | Volkswagen AG |
本社 | ドイツ |
設立 | 1937年 |
生産拠点 | 27カ国に114拠点 |
従業員数 | 684,000人 |
売上高 | 3,223億ユーロ(2023年) |
歴史
フォルクスワーゲン・グループの歴史の始まりは、1937年のフォルクスワーゲンの設立です。同社は1938年に「ビートル」と呼ばれる自動車を製造開始しました。1950年代からは世界進出が本格化し、南北アメリカ・アフリカ・オセアニアなどの世界各国に現地法人や製造拠点を設立しました。日本においても、同時期の1953年に輸入・販売を開始しています。
1965年にはアウディの前身であるアウトウニオンを買収し、マルチブランド化を果たします。1980年代にはスペインのセアト、チェコのシュコダ、1990年代にはベントレーやブガッティ、ランボルギーニなどの高級ブランドを傘下に加えました。このような経営戦略により、現在は合計12ブランドを超えるグループに成長しています。
経営理念
フォルクスワーゲン・グループは経営理念として、以下の7つの基本的価値観を重要視しています。
1. 責任
社会の一員として、環境と社会に対して責任を負うこと。
2. 誠実さ
お互いに耳を傾け、共に最善の解決策を見つけること。
3. 勇気
革新的な発想で、明日のモビリティを開拓すること。
4. 多様性
お互いに敬意を持って平等に接すること。
5. プライド
自分たちの仕事とやり方に誇りを持つこと。
6. 連帯
世界中で協力し合うこと。
7. 信頼性
約束を守ること。
フォルクスワーゲン・グループの経営状況
フォルクスワーゲン・グループの経営状況として、直近6年間の売上高と営業利益を紹介します。
参考:フォルクスワーゲン「Financial Reports」
2023年の売上高は3,223億ユーロ(48兆3,450億円)で、2022年の2,792億ユーロ(41兆8,800億円)から431億ユーロ(6兆4,650億円)増加しました。ただし、2023年の営業利益は226億ユーロ(3兆3,900億円)で、2022年の221億ユーロ(3兆3,150億円)から5億ユーロ(750億円)の微増でした。※1ユーロ=150円換算
また、地域別売上高の構成割合は以下のとおりです。
参考:フォルクスワーゲン「Financial Reports」
このように、同社は欧州とその他(南北アメリカ・アジア太平洋を除く地域)の売上高が全体の58.2%を占めています。
売上高と営業利益は増加傾向にあるため、同社は好調を維持しているように見えます。
しかし、産経新聞によるとオリバー・ブルーメ最高経営責任者は、「欧州の自動車産業は非常に厳しく、深刻な状況だ。製造拠点としてのドイツは競争力で後れを取っており、断固として行動しなければならない」と説明し、ドイツ国内の工場閉鎖や人員削減を行う姿勢です。このようなニュースがあったことで、ドイツ国内の売上高の推移が気になる方もいるでしょう。そこで、ドイツにおける売上高の推移を紹介します。
参考:フォルクスワーゲン「Financial Reports」
2023年のドイツ国内における売上高は596億ユーロ(8兆9,400億円)で、2022年の491億ユーロ(7兆3,650億円)から105億ユーロ(1兆5,750億円)増加しました。
各売上高の推移から、2023年の同社の業績は好調を維持したと言えます。そのため、報道にあるような景況感の悪化は、2024年以降の業績によるものです。実際に、日刊自動車新聞 電子版によると、フォルクスワーゲン・グループは中国でのシェア低下や欧州の電気自動車市場の減速により、2024年の通期業績見通しを営業利益が180億ユーロ(2兆7,000億円)に下方修正しています。
フォルクスワーゲン・グループの事業別売上高の推移
フォルクスワーゲン・グループの経営状況を深掘りするために、この章では事業別売上高に焦点を当てて解説します。まず、事業別売上高の構成割合は以下のとおりです。
参考:フォルクスワーゲン「Financial Reports」
さらに、各事業の事業内容と売上高の推移を紹介します。
乗用車・小型商用車
乗用車・小型商用車事業は、その名のとおり乗用車と小型商用車の製造・販売を担う事業です。売上高の推移は以下のとおりです。
参考:フォルクスワーゲン「Financial Reports」
2023年の売上高は2,457億ユーロ(36兆8,550億円)で、2022年の2,104億ユーロ(31兆5,600億円)から353億ユーロ(5兆2,950億円)増加しました。増加した要因として、販売台数の増加が挙げられます。具体的に同事業の2023年の販売台数は490万台でした。
金融サービス
金融サービス事業は、顧客向けの金融サービスやリース、保険業務などを担う事業です。金融サービス事業の売上高の推移は以下のとおりです。
参考:フォルクスワーゲン「Financial Reports」
2023年の売上高は541億ユーロ(8兆1,150億円)で、2022年の468億ユーロ(7兆200億円)から73億ユーロ(1兆950億円)増加しました。増加した要因として、支払利息の増加とリース車両の減価償却の増加が挙げられます。
商用車
商用車事業は、その名のとおり商用車の開発・販売を担う事業です。売上高の推移は以下のとおりです。
参考:フォルクスワーゲン「Financial Reports」
2023年の売上高は457億ユーロ(6兆8,550億円)で、2022年の395億ユーロ(5兆9,250億円)から62億ユーロ(9,300億円)増加しました。増加した要因として、販売台数の拡大と販売価格の上昇が挙げられます。
フォルクスワーゲン・グループの成長戦略
出典:フォルクスワーゲン・グループ「Strategy」
フォルクスワーゲン・グループの成長戦略は、「The New Auto Strategy」です。同社は電気自動車の普及やデジタル化が進む中、今後数年間で電気自動車市場が大きく成長すると予測しています。そこで、成長戦略として、競争力を高めるために以下の分野において革新的技術の開発や生産力の向上を目指しています。
メカロトニクス:全電動で完全デジタル、拡張性の高い次世代のシステムプラットフォーム(SSP)の開発
ソフトウェア:自動運転アプリケーションの開発
バッテリーと充電:欧州だけで合計240GWhの生産能力を持つ6つのバッテリー工場を建設予定
モビリティソリューション:未来のためのモビリティソリューションの開発
フォルクスワーゲン・グループの動向に注目しよう
フォルクスワーゲン・グループは、ドイツを拠点とする世界有数の自動車メーカーです。ドイツ国内では最大3万人規模の人員削減を検討しており、収益性の改善が課題です。
一方、中国においては電気自動車の新拠点の設立に向けて、約4,000億円の投資計画を発表しています。この拠点は中国市場での生産力を高め、研究開発を加速させることで、競争力を一層高める狙いがあります。このような背景から、今後は同社のドイツと中国における事業展開の仕方に注目してみましょう。
参考:Forbes JAPAN「フォルクスワーゲン、約4000億円で中国にEV新拠点」