国内家庭用コーヒー市場は、2020年の春以降は新型コロナウイルス感染拡大により、人との接触を避ける新たな日常の影響でカフェなどの業務用市場は影響を受けています。このような新しい環境の中、家庭内需要が拡大しています。
特にスティックコーヒー、レギュラーコーヒー、インスタントコーヒーが伸長しています。在宅勤務の時間を豊かにしようとしてコーヒー豆からの飲用も増加し、コーヒーメーカーの売上も上がっているようです。
ここではコロナ渦において目まぐるしく変わる飲料市場、特に、世界と日本のコーヒー、紅茶、デカフェ市場の動向をご紹介します。
世界のコーヒー市場の動向と市場シェア
調査会社のStatistaによると、2020年のコーヒー業界の市場規模は、3626億ドルとされています。
各国の消費量を見てみるとEUが1位、2位がアメリカ、3位がブラジルとなっています。日本は4%のシェアを占めているようです。
https://www.nocs.cc//study/geo/coffee.htm
「2019年度版コーヒー会社の世界売上高ランキング」では、世界で主力なコーヒー業界企業の市場シェアが明らかになっています。
1位ネスレ、2位はJABホールディングス、3位はチボーという企業で、7位まで見てみても、日本人にとってはネスレぐらいしか親近感がわかないかもしれません。
1位 ネスレ 6.1%
2位 JABホールディングス 2.2%
3位 チボー 1.0%
4位 JMスマッカー 0.7%
5位 ルイージ・ラバッツァ 0.6%
6位 ストロース・グループ 0.3%
それでは1位から見てみましょう。
1位 Nestle(スイス) 6.1%
ネスレは、1866年に薬剤師のネスレ氏によって設立されたスイス本社の世界最大級の総合食品・飲料メーカー。食品では有名ブランドを数多く持ち、パスタのブイトーニや、コンソメのマギーなど、飲料ではネスカフェやミロ、菓子類ではKitKatやCrunchなどが挙げられます。
2位 JABホールディングス(ドイツ) 2.2%
本拠をドイツに置く消費財メーカーBenckiser創業一族が運営する投資ファンドです。2017年にマレーシアのコーヒー大手のオールドタウンも買収し、多くのコーヒーブランドを持ちます。
2020年12月、米国でスターバックスの脅威となっている「ピーツコーヒー」と、オランダのコーヒー大手「ヤコブ・ダウ・エグバーツ」が合併すると発表した。もともとヤコブ・ダウ・エグバーツはJABが運営していたこともあり、統合によって生まれる新会社「JDEピーツ」はこのJABの傘下となります。
3位 Tchibo(チボー ドイツ) 1.0%
https://www.enjoybettercoffee.com/Tchibo-Exclusive-Ground-Coffee-p/tc011.htm
ドイツに本拠を置くコーヒー会社で、Herz一族による同族会社。チボーブランドの名でコーヒーを展開しています。
4位 JMスマッカー(米国) 0.7%
米国に本拠を置く菓子メーカーで、アイスクリームやピーナツバターを製造販売しています。コーヒーはフォルジャーズ (Folgers) で展開しています。
5位 ルイージ・ラバッツァ(イタリア) 0.6%
https://www.lavazza.jp/ja/%E3%83%96%E3%83%AC%E3%83%B3%E3%83%89.html
イタリアのコーヒー製品メーカーで、 Luigi Lavazzaによって1895年にトリノで設立されました。設立当初は10の小さな食料品店から経営されていましたが、今やコーヒーの焙煎・独自技術で、スカラ座やホテルリッツをはじめとする世界90ヶ国以上の一流レストランやカフェやホテルで使用されており、イタリアで圧倒的なシェアを誇示しています。
6位 ストロース・グループ(イスラエル) 0.3%
https://en.globes.co.il/en/article-tpg-again-mulls-selling-strauss-coffee-stake-1001167125
イスラエルに本拠を置く食品メーカーで、チョコレート、菓子類、塩味系スナック、パン製品、コーヒーを製造・販売しています。イスラエルと欧州に生産工場 を所有しており、世界各国の自社小売店やコーヒーショップで製品を販売しています。中東欧では圧倒的な存在感を示しています。
近年急成長している中国のコーヒー市場
近年、中国のコーヒー市場は勢いを増していることで業界を賑わしています。世界のカフェ市場ではスタ―バックスは圧倒的な人気とシェアを誇りますが、中国企業では新興コーヒーチェーンが頭角を現しています。それは、瑞幸珈琲(ラッキンコーヒー)です。
https://www.afpbb.com/articles/-/3318652
2017年の創業とまだ創業から間もないですが、瞬く間に急成長し、中国におけるスターバックスの店舗数を上回りました。スタバより低価格で、「2杯注文すると1杯の無料クーポン」を渡すサービスが話題を呼び、「仲間3人で注文すると1杯が無料」と人気に。
スマホアプリを活用したサービスも受け入れられました。不正会計問題が発覚したことから米ナスダックから上場廃止の通告を受けました。一時は経営危機まで噂されていましたが、それでも業績を持ち直すことができました。
米ファストフード大手のケンタッキーフライドチキンは2019年に中国で1億3000万杯のコーヒーを販売し、マクドナルドは、傘下のコーヒー専門ブランド「マックカフェ」に3年間で日本円にして約395億円を投資しています。
このように中国ではコーヒーの市場が急激に拡大しています。
約2.9兆円の日本の巨大コーヒー市場
それでは日本のコーヒー市場はどのような動向なのでしょうか。実は、日本も中国の勢いに負けずコーヒーの消費量は年々増加しています。
上記のグラフを見ると、日本国内におけるコーヒー消費量は増加傾向を続けており、特に20年前と比べると現在では1.5倍近くまで飲まれています。全日本コーヒー協会の調査によると、コーヒー業界の市場規模 は約2兆9000億円と言われています。
日本でコーヒーの需要が増加している背景は下記の2点が主な要因です。
コンビニコーヒーが大きく普及
コーヒーの製造販売を行わない、他の業界からコンビニコーヒーが参入し、瞬く間に強豪入りしたのは2013年にセブン-イレブンです。
2013年に仕掛けた「セブンカフェ」が爆発的な人気となり、1杯100円のコンビニコーヒーが一大勢力となりました。2018年度で11億杯を見込み、全体の市場は推計で2000億円を超え喫茶市場の2割を占めたほどです。
「コーヒーが好き」という女性も増えた
東京都内のおしゃれで個性的な店を、マガジンハウス系の雑誌が積極的に取り上げるようになり、2000年頃から「カフェブーム」が起きました。この頃から「喫茶店」に代わって「カフェ」という言葉がメジャーになり、一般的になりました。
昭和時代後期から平成の初期、女性は一般的にはコーヒーよりも紅茶を好み「ティーサロン」も多かったのですが、現在そのような店舗はあまり見なくなりました。女性の社会進出も加速し、好みが「紅茶」→「ミルク系コーヒー」→「ブラックコーヒー」に変わっていったと分析されています。
世界の紅茶市場の動向と市場シェア
調査会社のアライドマーケットリサーチによると、2019年の紅茶業界の世界市場規模は、551億ドルとされています。2027年むけて年平均6.6%の成長が見込まれる市場です。
紅茶の有名な種類には、北インドのダージリン、スリランカのセイロン紅茶、北インドのアッサム(北インド)、南インドのニルギリ、中国のキーマンなどがあります。
2019年の紅茶飲料市場は、前年比+8.6%の2,038憶円で拡大を見込んでおり、最近では健康志向の消費者向けに「甘さ控えめの紅茶」や「無糖タイプ」も多く販売されるようになりました。
近年はタピオカミルクティーなどのブームによって消費者が紅茶を口にする機会も増えており、紅茶市場は活気づいています。紅茶の消費量の1位は意外にもトルコです。その次にアイルランド、イギリス、ロシアと続きます。
https://www.lifehacker.jp/2014/02/140210gizumodo_tea.html
それでは、2020年の世界の紅茶業界でのシェアはどのようになっているのでしょうか。個々では売上が公開されている3社をご紹介します。(他にも有名なブランドや企業は数多くありますが、売上が公開されていないため含みません)
1位 ABF(アソシエイテッド・ブリティッシュ・フーズ 英国) 8.0%
イギリス・ロンドンに本拠を置き、世界48か国で食品販売や衣料品販売を展開する多国籍企業グループです。紅茶ブランドではトワイニングなどを持っています。
2位 Unilever(ユニリーバ 英国) 6.2%
https://ratetea.com/topic/unilever-tea-brands/31/
ロンドンに本拠を置く世界有数の一般消費財メーカーで、戦後から世界進出に積極的であり、現在世界180ヵ国以上に支店を持っています。食品・洗剤・ヘアケア・トイレタリーなどの家庭用品を製造・販売しています。
3位 Tata Global Beverages(タタ・グローバル・ベバレッジ インド) 1.3%
ビルラ、リライアンスに並んで、インド3大財閥の一つで、単一の財閥としてはインド最大です。インドにおける産業や商業に幅広く関係しており、ほとんどの領域で上位の勢力となっています。
今後紅茶業界の大きな動きとして、ユニリーバが経営戦略の中で、リプトンの売却を検討しており、これが実現すれば業界構造が大きく変化する可能性があるでしょう。
日本の紅茶飲料市場
日本では2019年から急激に紅茶飲料市場が拡大しており、2019年1~12月の販売実績は前年比15%増と過去最高になりました。好調な要因として、各社から「無糖」や「甘さ控えめタイプ」、また「果汁を贅沢に使ったフルーツティー」の商品がPET容器で市場に投入されたことで注目が集まった事が挙げられます。
特に、健康意識が高まり、無糖や甘さ控えめでも嗜好性の高い紅茶飲料が増え、デスクワーク中の人々の選択肢に入ったことが拡大を後押ししました。
https://www.kirin.co.jp/company/news/2018/0524_02.html
2019年の人気商品を見てみると、キリンビバレッジの「午後の紅茶」と「ザ・マイスターズ ミルクティー」がヒット商品となった。「午後の紅茶」は、前年比9%増で過去最高となる5540万箱を達成し、「ザ・マイスターズ ミルクティー」は2019年3月発売後のヒットで新規獲得を獲得しました。
コロナ渦で追い風を受けたのはコーヒーよりも紅茶だったかもしれません。2020年11月27日の読売新聞で、奈良県立医科大学の研究によって「新型コロナウイルスが1分間紅茶に触れる事で最大99%が不活化し無害化する」という報道がされました。
奈良県立医科大学微生物感染症学の矢野教授の研究チームが実験を行い、様々な茶葉やペットボトル飲料を検証したところ、最も効果が高かったのはきちんと茶葉から淹れた紅茶であるということが分かりました。
世界トップの高級紅茶であるロンネフェルトの紅茶を販売する名古屋のロンネフェルト・ティ・サロンによると、この報道の影響もあって、「通販部門が昨対比3000%超えの伸びを見せている」と答えています。
デカフェ市場
MDB Digital Search 有望市場予測レポートシリーズでは、デカフェ飲料市場は、2025年に130億円規模になると予測されています。
カフェインは覚醒作用や利尿作用などがあるため、人によっては体質や摂取量によって頭痛。胃痛、不眠などの症状に悩まされることがあります。世界保健機関(WHO)は妊婦に対して、一日の飲用を3~4カップににとどめるよう定めています。高濃度のカフェインを摂取すると胎児の成長が阻害される懸念があるからです。
健康志向の高い欧米ではデカフェは広く普及していますが、日本では1980年代からカフェインを取り除いたコーヒー豆が輸入開始していますが、まだそれほど定着していません。
2016年のデータで見てみると、アメリカではコーヒー市場の約13%カフェインレスが占めていますが、日本はやっと0.5%にまで伸びた程度のため、まだまだ開拓の余地のある分野です。
今までは業務用としてのニーズが高かったのですが、今後は老人ホームや妊婦や、カフェインレスコーヒーを飲む習慣のある海外客の宿泊するホテルなどで需要が伸びるとされています。
日本のカフェインレスコーヒーのシェアはUCCが圧倒的となっており、独走しています。
最後に
コロナ渦でコーヒーの需要が躍進しているだけでなく、「コロナウイルスに効果がある紅茶」の報道によって紅茶需要も予期せぬ需要が起こりました。今後もコロナ渦で在宅勤務が続くことから、飲料市場や飲料関連市場はまだまだ予期せぬニーズが発生するのではないでしょうか。
<参考>
https://www.asahi.com/and_M/pressrelease/pre_22217527/
https://www.ssnp.co.jp/news/beverage/2020/02/2020-0130-1630-14.html
https://news.yahoo.co.jp/articles/f32f954bf3955da290b0c260030f68aa9bddbae1
https://www.yano.co.jp/press-release/show/press_id/2466
https://toyokeizai.net/articles/-/272628?page=3
https://hackcoffeebeans.com/data/
http://search01.jmar.co.jp/mdbds/
https://coffee.ism.fun/article/0bfd4ded-e793-4f42-9392-7b264b0859f3
https://news.livedoor.com/article/detail/17164481/
https://www.kataoka.com/lavazza/about/