
九州では半導体関連メーカーの進出が相次いでいます。そのような中、半導体産業の後工程を担う台湾のASEテクノロジー・ホールディング(以降は、「ASE」と言います。)も、北九州市への進出を検討していると報道されました。本記事ではASEについて詳しく知りたいというビジネスパーソンに向けて、会社概要や経営状況、成長戦略について紹介します。
※半導体産業の後工程とは、ウエハから半導体を切り分けて半導体製品を完成させる工程のことです。
参考:くまもと県民テレビ「台湾の半導体「後工程」ASEが北九州進出へ 「前工程」のTSMCと連携で九州はどうなる?」
ASEとはどんな会社

出典:ASE
ASEは、OSAT市場において世界シェア1位を誇る企業です。OSATとは、「Outsourced Semiconductor Assembly and Test」の略で、後工程のパッケージングとテストを請け負う企業を指します。この章では、会社概要や歴史、同社の組織図を紹介します。
会社概要
ASEの会社概要は以下のとおりです。
会社名 | ASE Technology Holding Co., Ltd. |
本社 | 台湾 |
設立 | 1984年 |
進出地域 | 15カ国 |
従業員数 | 92,894人(2023年度) |
売上高 | 5,819億台湾ドル(2023年度) |
歴史
1984年に前身企業のASE(Advanced Semiconductor Engineering, Inc.)が設立されました。そして、2018年にASEとSPIL(Siliconware Precision Industries Co., Ltd.)が経営統合し、設立された持株会社がASEテクノロジー・ホールディングです。
2018年に同社は、トムソン・ロイターの「Top 100 グローバル・テクノロジー・リーダー」に選出されました。2020年には台湾の高雄市において、世界初の5G mmWaveスマート工場を開設しました。5G mmWaveスマート工場とは、ローカル5Gを導入した工場のことです。AR(拡張現実)グラスによる設備の遠隔修理や、AIを搭載した無人搬送車などのテクノロジーを導入しています。
2023年には、世界的なESG投資指標であるDow Jones Sustainability Indices(DJSI)において、「半導体及び半導体装置産業」のリーダーに8年連続で選定されました。
組織図
ASEは3つのブランドを展開しており、組織図は以下のとおりです。

出典:ASE 「Organization Chart」
各ブランドの事業内容を簡単に紹介します。
- ASE
ASEは半導体のOSAT事業を展開しているブランドです。
- USI
ブランドオーナー向けの電子機器やモジュールの設計に加えて、小型化・材料調達・製造・アフターサービスなどを展開しているブランドです。
- SPIL
パソコンや通信、消費者向け集積回路の半導体パッケージング及びテストに重点を置いています。
ASEの経営状況
ASEの経営状況として、直近6年間の売上高と営業利益の推移を紹介します。

参考:ASE「Annual Reports」
2023年度の売上高は5,819億台湾ドル(2兆5,603億円)で、2022年度の6,708億台湾ドル(2兆9,515億円)から889億台湾ドル(3,911億円)減少しました。また、2023年度の営業利益は917億台湾ドル(4,034億円)で、2022年度の1,349億台湾ドル(5,935億円)から432億台湾ドル(1,900億円)減少しました。2023年度に売上高・営業利益が減少した要因は、半導体市場の縮小といった世界的な経済情勢によるものです。※1台湾ドル=4.4円
また、同社の地域別売上高の構成割合は以下のとおりです。

参考:ASE「Annual Reports」
同社の売上高はアメリカが最も多く、次にアジア・その他、台湾が続きます。
ASEの事業別売上高の推移
ASEの経営状況を深掘りするために、この章では事業別売上高に焦点を当てて解説します。まず、事業別売上高の構成割合は以下のとおりです。

参考:ASE「Annual Reports」
グラフより同社の主要事業は、EMS事業とパッケージングサービス事業と言えます。2つの事業で売上高全体の90.2%を占めているためです。さらに、各事業の事業内容、売上高の推移を紹介します。
EMS事業
EMSは電子機器受託製造のことで、EMS事業は電子部品や通信機器の設計・組み立て・製造・販売を行っている事業です。売上高の推移は以下のとおりです。

参考:ASE「Annual Reports」
2023年度の売上高は2,682億台湾ドル(1兆1,800億円)で、2022年度の売上高の3,019億台湾ドル(1兆3,283億円)から337億台湾ドル(1,482億円)減少しました。
パッケージングサービス事業
パッケージングサービス事業は、半導体をパッケージングして完成品に仕上げる事業です。売上高の推移は以下のとおりです。

参考:ASE「Annual Reports」
2023年度の売上高は2,568億台湾ドル(1兆1,299億円)で、2022年度の3,039億台湾ドル(1兆3,371億円)から471億台湾ドル(2,072億円)減少しました。
テストサービス事業
テストサービス事業は、完成した半導体が良品かどうかをテストする事業です。売上高の推移は以下のとおりです。

参考:ASE「Annual Reports」
2023年度の売上高は498億台湾ドル(2,191億円)で、2022年度の559億台湾ドル(2,459億円)から61億台湾ドル(268億円)減少しました。
2023年度の各事業の売上高が減少しており、世界的な経済情勢の影響が全ての事業に及んでいると言えます。
ASEの成長戦略
ASEは成長戦略として、以下の4つの取り組みを強化することを掲げています。
- 価値の高いイノベーションをより多く提案する
- 持続可能性の問題に対して責任を果たす
- 柔軟性と俊敏性を高める
- 半導体産業の4分野における同社の競争優位性を維持する
① HPC(ハイパフォーマンスコンピューティング)とAI分野
② SiP(システムインパッケージ)
③ シリコンフォトニクスとコパッケージオプティクス
④ ソフトウェア開発やデータ収集
これらの戦略により、AI・ロボティクス・EV・エネルギー・IoTなどの領域で新たなチャンスを獲得し、今後10年間で1兆ドルの収益目標を達成できるとしています。
※シリコンフォトニクスとは、シリコン基板上にフォトニクス回路を構築するための技術のことです。
※コパッケージオプティクスとは、光通信部品と電子部品を同じパッケージに組み込むことです。
半導体業界の動向に注目しよう
ASEは、OSAT市場で世界シェア1位を誇る企業です。しかし、2023年度は全ての事業で売上高が減少しました。これは主に、世界情勢の影響が大きいとのことです。
一方、日本ではTSMCが熊本県菊陽町に日本第1工場を新設し、その地域は大きな盛り上がりを見せています。加えて、ASEも北九州市への進出を検討していると報道されました。このようなことから、今後の半導体業界の動向にも注目してみましょう。