コロナウイルス感染拡大の政府による緊急事態宣言後、急速に企業が取り入れた在宅勤務。
完全にリモートワークに切り替えるのが難しくても、本当に必要な仕事以外はなるべく出社しないように徹底している企業も多いようです。
この勤務スタイルが定着し電車を使って通勤する人が減り、自粛により地方出張も制限されているためJR各社の株価は、緊急事態宣言後大幅に下落しました。
在宅勤務が推奨されたことで、このJR各社の株価下落に比例し、オフィス、コワーキングスペースの需要も急激な落ち込みとなっています。
新型コロナウイルスのワクチンが開発されてもウィズコロナは最低1年、長くて5年かかると言われている中、企業も在宅勤務のメリットを活用しながら業績を出すことが求められています。
ウィズコロナ時代において在宅勤務が推奨されるのであれば、それに伴ってオフィスやコワーキングスペースの需要はなくなるのではないかという意見が多数あります。
しかし一方で、ウィズコロナ時代にもコワーキングスペースやレンタルオフィスのニーズはあるとの考えもあります。
この記事ではウィズコロナ時代のコワーキングスペースやレンタルオフィスの可能性や、郊外や地方分散への動きについてご紹介します。
西村経済再生相によるテレワーク70%・時差出勤要請
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO61928870W0A720C2PE8000/
西村康稔経済再生担当大臣は7月26日の記者会見で、下記5つの項目を経済界に改めて要請しました。
- 感染防止策をまとめた業種別ガイドラインの徹底
- テレワーク70%・時差出勤
- 体調不良者は出勤させずPCR検査を推奨
- 大人数での会食を控える
- 接触確認アプリの導入促進
厚生労働省とLINEは4月中旬全国調査をしたところ、緊急事態宣言発令の中「テレワークを行った人」の割合は27%にとどまり、都道府県でも東京都は52%、神奈川が44%にとどまったことを明らかにしました。
どの都道府県も7割に満たなかったということを受け、緊急事態宣言時に比べて在宅勤務者が減ったため、「テレワークの7割実施を後戻りすることなく、維持してほしい」と伝えました。
この実施結果は、大手企業やIT企業などITインフラが整っている企業と中小企業とでは大きく異なりました。それぞれどのような導入状況であったか見てみましょう。
大企業の取組み、方針
富士通
国内の社員約8万人は原則テレワークでの勤務として、新型コロナの感染が収束しても恒常的に続ける予定です。通勤定期代の支給の代わりに在宅勤務で負担が増える電気代を支給。
GMOインターネットグループ、日立製作所
テレワーク7割をすでに達成済みで、全面的なテレワークを導入する予定。両社はITが主力事業のため、設備などの面で制約があまりない。
伊藤忠商事
伊藤忠商事は7月末、国内全社員約3,000任を原則在宅勤務とすると発表。7月には感染拡大を受けて出社を半数に減らすなどの対策を取っている。
中小企業の取組み、方針
緊急事態宣言発令中の4~5月において、中小企業の実施率は大企業に比べると低い数値でした。
日本商工会議所で感染症対策の責任者である山内清行氏は、「中小企業は1人の社員が営業や経理を担い、業務の切り分けが難しく在宅勤務がしにくい」と指摘しています。
営業担当者などの出勤を減らすと業績悪化に直結するケースも多いため、在宅勤務へのシステム投資をする余裕やノウハウがないのが課題のようです。
オフィス不要論とコワーキングスペースの需要増
オフィス不要論を唱える有識者
コロナウイルス感染拡大と、しばらくは収束する見通しがないことから都内の企業はオフィスの契約を解約しているケースも少しずつ増えています。
解約を進めている業界として、テレワークと親和性のあるIT企業やスタートアップ企業が目立っているようです。空室率が上昇するとの見解にはどのような意見があるか見てみましょう。
スタートアップのオフィス移転を仲介するヒトカラメディアの代表田久保取締役
「常時扱う100件程度の案件のうちオフィス縮小依頼が半数近くになり、収束後も従業員の人数分のオフィスを確保企業は減るのではないか」
日本総合研究所の室元研究員
「全従業員の1割がテレワークを続けた場合、都心の空室率は15%まで上昇し、賃料も2割ほど下がるのではないか」
経営コンサルティングA.T.カーニー・不動産業界担当向山勇一プリンシパル
「都心のAクラスビルなどを除外してグレードの低いオフィスビルでは解約の動きが徐々に顕在化している。投資余力が少ない中堅以下の企業においては今後もオフィスを解約して固定費を下げる方向に向かうのではないか」
サトウファシリティーズコンサルタンツ佐藤隆良社長
「2008年のリーマン・ショックでは市況が急激に冷え込みました。都心では1年で9万坪近い空室が発生、このこと受けて事務所の着工床面積も大きく落ち込んだ」と過去の事例から今回のコロナウイルス拡大でも同じような動きになるのではないかと述べました。
日本企業の事例
富士通はオフィス面積を3年以内に半減する計画を発表。花王がグループ販社の営業拠点をサテライトオフィスを設置。
海外企業の事例
カナダのITプロバイダーであるオープンテキストは、世界に120あるオフィスの半分超を削減。ニューヨークのメディア企業スキフトは7月に期限が切れるマンハッタン本社のリース更新を取り止めました。
不要論が高まっている事例を紹介しましたが、そうではないと考える経営者もいます。
Googleのエリック・シュミット元CEOは「社員が距離をとって働く必要性が高まるため、必要なオフィスの面積はむしろ広くなる」と全く逆の見方を示しました。当初は6月1日までだった在宅勤務の期間を2021年1月1日まで延長すると発表しましたが、この期間が終わった後は社員の安全を考えてオフィスを広くするのかもしれません。
Googleは世界の時価総額ランキングトップ10に入る優良企業のため資金的にも余裕がありますが、一般的にはコロナウイルス感染拡大によって売上が落ちている企業が多いため、自社オフィスを広くするという発想は取りにくいのではないでしょうか。
コワーキングスペースの新たなニーズ
コワーキング(Coworking)とは事務所スペース、会議室スペースなどを共有しながら独立した仕事を行うスタイルです。
一般的なオフィス環境とは異なります。自身のオフィスを持たない起業家、フリーランス、出張が多い職に就く者など、比較的孤立した環境で働くことになる人々が使用することが多いのが特徴です。
コロナウイルス感染拡大後は、フリーランスや起業家も自宅勤務が多くなったため、コワーキングスペースの需要や解約も増えています。
しかし、意外なニーズが生まれようとしています。それは企業に勤務する人々による個人的なコワーキングスペースの使用です。
このコロナ渦において、在宅勤務によってストレスを抱えている人も多いのではないでしょうか。
住んでいるマンションは当然在宅勤務を想定して購入した間取りではないケースが多く、夫婦共働きの場合どちらかがリビングで仕事をすることが多いと聞きます。
また、子供がいる家庭では子供の声がビデオ会議に入るのではないかと都度気にする人も多いようです。
半年も在宅勤務が続くと、同居する家族との間で様々なストレス生じ、ずっと家ではリフレッシュできない。このような悩みがウィズコロナ時代の新しいコワーキングスペースの需要となってきます。
企業のオフィスへの新しい需要
コワーキングスペースはどちらかと言うとスタートアップの起業家やフリーランス向けのため、企業に勤務する人々が利用する場合は「個人的に」という使い方になるでしょう。
それでは、企業が積極的に考え始めた企業オフィスとしての新しい需要とはどんなものでしょうか。その理由は、レンタルオフィスや貸会議室の需要が高まっていることから見えてきます。
企業がレンタルオフィスを利用したいと考える理由
- 感染リスク回避のためオフィスを分散させたい
- 財務的また従業員の安全を確保する観点から、オフィススペースを再構築したい
- オフィスビルが閉鎖された場合の臨時オフィスを探している
- 在宅勤務以外のテレワーク・リモートワークが可能な環境を探している
このような企業にニーズに応えるために、下記のようなサービスを提案するレンタルオフィス事業が出てきています。
トランクルームや貸会議室の加瀬トランクサービス(横浜市港北区)
貸会議室を一時的にオフィスとして利用できるプランを提供。
提供開始から2日間で約20件の問い合わせがあり、事例として行政関係によるコロナ関連で必要となった申請などの準備会場など。
一般企業からはウェブ会議室、テレワークとしての利用などがあるようです。
レンタルオフィス事業日本リージャスホールディングス
テレワークやオフィスの分散が必要となった個人や企業向けに、契約期間は1~3カ月と短期利用可能な特別プランをスタートさせました。一定条件のもと利用料金は通常の50%割引となります。
We Work日本独自のプランWe Passport
We Workは、コワーキングスペースの要素と賃貸オフィスの要素を備え、会員は大企業から中小零細企業まで幅広いのが特徴です。入居者が1つのコミュニティで繋がり、会員同士が協業できるような仕組みがアプリなどで作られおり人脈を築きたい人々に人気です。
新型コロナウイルスの感染拡大後のオフィスの需要の変化に対して、WeWork Japanは東京・大阪・福岡など6都市と地方33拠点において、今年7月に日本独自のWe Passportのプランを開始しました。(https://weworkjpn.com/lp/wepassport/01/)
We Passportの特徴
- 50~200名の企業が対象
- 国内で展開する全ての拠点の共用エリアを利用できる
- 在宅勤務の増加などから現在のオフィスを縮小したい企業をターゲットにしている
- 「既存の広いオフィスは必要ないため運用コストも下げたい」というニーズに対し、既存のオフィスよりも3割費用減で利用できる設定にしている
※We Passportの動画で詳しく説明されています
https://news-tv.jp/_ct/16960125
We Work Japan最高戦略責任者の高橋正巳氏は、We Passportについて下記のように述べています。
「コロナウイルス感染拡大の影響により働き方は、在宅勤務と、必要に応じて出社する2択にが変わりました。緊急事態宣言が解除後は、企業によってはオフィスに出社する元の形態に戻り始めているところではないでしょうか。しかし、今後のことを考えると、We Workのような場所を第三の場所。サードプレースとして使うことも一般的になると考えています。それは、働く場所がオフィスと、在宅、サードプレースの3択になっていくという予測です。」
コロナにより広まる地方分散
長年「東京一極集中」の問題が議論されてきましたが、今回のコロナウイルス感染拡大は一極集中から地方分散を促すとの声があります。
菅義偉官房長官はNHKの討論番組で、「この感染拡大によって地方分散すべきだという課題が浮き彫りになった」と強調し、新型コロナウイルス感染症の拡大を契機として、在宅勤務の活用などにより東京一極集中の是正に乗り出す考えを示しました。
下記のグラフはAI予測の結果ですが、地方分散した方が経済効果や幸福度が上がることが見て取れます。
感染拡大は首都圏のあらゆる産業だけでなく、観光業や娯楽業などを中心に地方圏にも深刻な打撃を与えています。
東京一極集中の是正と地方創生という長期的な視点に立つことが、これから来るであろう不景気を支える一助になるかもしれません。
最後に
リモートワークの広がりはオフィス、レンタルオフィス、コワーキングスペースなど仕事場に関連する全ての事業に影響を与えています。
しかし、コロナ渦における新しい需要も出てきている動きがお分かりいただけたでしょうか。
これらの事業者はいち早く新しいオフィスの需要に沿ったサービスを提供することで売上を回復させています。
これからは都市部のオフィス需要が減る一方で郊外でのオフィス需要が高まると言われています。人口の郊外への移行、産業構造、生活様式に変化が生じ、不動産関連に限らず様々な産業に地理的な変化や価格体系の変化をもたらすでしょう。
最後にクラウドワークス吉田浩一郎社長の動画をご紹介します。
一度リモートワークを経験した人は、リモートワークによって失われたオフィスの価値と再定義が必要と述べています。
リモートワークが続くと明確な目標がなければオフィスに集まらないウィズコロナ、アフターコロナ時代。あえてオフィスに集まることの価値は何かを問いただし、ビジネスに最大限活用していくことが求められるでしょう。
<参考>
https://www.nri.com/jp/knowledge/blog/lst/2020/fis/kiuchi/0522
https://www.yomiuri.co.jp/economy/20200802-OYT1T50242/
https://www.mri.co.jp/knowledge/mreview/202007.html
https://www.itmedia.co.jp/news/articles/2007/27/news084.html
https://www.itmedia.co.jp/news/articles/2003/16/news044.html
https://news.yahoo.co.jp/articles/f47bc945db7a950ea60b52cba9b410c946c24128
https://www.jiji.com/jc/article?k=2020080200144&g=pol
https://www.jutaku-s.com/newsp/id/0000043363