日本でも話題になった中国の食品スーパー「盒馬鮮生(フーマー)」。中国の最大手アリババグループが出資する”次世代型スーパー”と呼ばれており、食品のEC倉庫兼リアル店舗を増やして対応エリアを広げ、トレーサビリティが確保された食品を注文から30分以内で無料で届けることを実現しています。
出典:産経デジタル
『【中国観察】キャッシュレスの「次」…アリババが参入した新形態スーパーとは』
https://www.sankei.com/premium/news/181128/prm1811280007-n1.html
プルーヴ社でも2019年に入り、上海でフーマーの店舗を視察してきました。今回は、そこで働く人や消費者を通して見えた実態をお伝えします。
注文から30分以内配達を支えるもの
ドローンや無人走行ロボット、スマートロッカーなど技術の進化が著しい中国。フーマーでも技術を活かし、注文だけでなく、産地や配送履歴、管理状況、調理動画が表示される有能なアプリを導入しています。顧客情報や購買履歴などのビッグデータを活用して売り切れる分だけを仕入れるので、一日で生鮮食品はほとんど売り切れるようです。
食品の安全が危ぶまれている中国では、鮮度や目に見えない工程を見えるようにした安全性の訴求も消費者ニーズに合い、フーマーは注目されました。
出荷から入荷までの管理状況画面
店舗の在庫と連動した注文画面
店内では、空中をピッキングバックが吊るされて移動し、バックヤードではロボットが運ぶなど、確かに自動化が進んでいました。
しかしピッキングや配達は、機械ではなく人が行っています。フーマーでもコスト削減のために自動化を進めていますが、自動化のために莫大なコストがかかってしまっては、元も子もありません。人件費が高くなったといっても、まだまだ低コストに抑えられる中国。中国の人件費と設備投資を比べると今は人件費の方が安いので、フーマーでもコスト的にすべてを自動化するメリットは、あまり無いのでしょう。ピッキングや配達はまだ、人の力に頼っています。
店舗の裏側で時間とノルマに追われながら、荷物をピッキングするを配達スタッフ
こういった仕事は、地方から出てきた人の働き口にもなっています。
配達スタッフは利用者に評価され、その評価によって給料が決まります。配達毎に行動を評価されますから、遅れることも盗むこともできません。このように評価制度がしっかりしているからこそ、スタッフはちゃんと働き、フーマーのビジネスが成り立つのです。
消費者が求めているのは最新技術ではない
フーマーは、日本では「次世代型スーパーマーケット」と言われ、最新技術を活用した未来的な店舗の印象があるのかもしれません。しかし現地の消費者にとっては、そのような未来感や最新技術自体には興味がなく、話を聞くと「便利なスーパーで助かっている」との一言が返ってくるだけです。むしろ最先端の印象でフーマーを捉えていることに驚かれます。
このように、ひとつの企業でも「次世代型スーパー」ともてはやされる一面と、大きなインパクトは与えなくとも「便利なスーパー」として顧客に親しまれる一面があります。ビジネスでは、つい技術の優劣を競ってしまいがちですが、あくまで消費者のための技術であることを忘れてはいけません。消費者は技術を求めているのではなく、便利になったり、役に立ったりする商品、サービスを求めています。
フーマーのすごさは、30分以内で届けてくれることです。技術のすごさより、店舗を増やし人を増やしたからからこそ、30分以内配達が可能となりました。
実際に毎日注文しているという利用者は、料理開始時に買い忘れたと気づいたバターが、料理が出来上がる前に届いたと喜んでいました。
消費者は、30分以内配達という今までにない早さに価値を見出しています。技術がもたらす恩恵にお金を払いますが、店舗の作りや技術そのものに価値を見出しているわけではないのです。
今回フーマーを通して、表に出ている情報と実際の利用者の印象にギャップを感じました。フーマーの技術がすごいと捉えるのではなく、消費者ニーズに応えたサービスこそが、成功の要因だと気付くべきなのではないでしょうか。
情報が溢れる今、真実が偏ってしまうことがあります。だからこそ、これからもプルーヴ社では世界各地の生の声や実態をお届けしていきます。