英印の包括的経済貿易協定(CETA)は、2026年7月15日に発効しました。署名は2025年7月24日です。交渉妥結から約1年で、関税の特恵が使える状態になっています。インドから英国へ入る貨物の99%、英国からインドへ入る貨物の90%が、無税または関税引き下げの対象、と英国政府は発効時に書いています。本記事では、下がる品目と据え置き、第三国拠点の使い方、原産地の書類をわかりやすく解説します。
当コラムで注目する用語
- CETA:Comprehensive Economic and Trade Agreement。英印FTAの正式名称。
- 発効(entry into force):批准と国内手続が終わり、特恵関税が実際に使える日。
- 原産地規則:特恵を取るために、貨物が英または印の「原産」と認められる条件。
- 原産地申告(origin declaration):輸出者または生産者が、原産を英文で宣言する書類。
- 段階引き下げ(staging):発効日にゼロにせず、年をかけて関税を下げる方式。
- 累積(cumulation):英の材料を印で使う(逆も)と、相手側の原産材料として数えられる仕組み。
2026年7月15日、協定は発効した
GOV.UKの英印貿易ディール特集(2026年7月15日更新)は、協定を2025年7月24日に署名し、2026年7月15日に発効した、と書いています。交渉開始は2022年1月13日です。英国高等弁務官事務所(ニューデリー/ムンバイ、2026年7月17日)も、同日発効と、署名日を繰り返しています。署名は、インドのピユシュ・ゴヤル商務産業相と、当時の英国ビジネス・貿易相ジョナサン・レイノルズ氏、と英国政府の解説ページは書いています。
発効当日の英国政府発表では、2025年の英印貿易総額は480億ポンド、長期では二国間貿易が年255億ポンド押し上げ、インドGDP51億ポンド、英国GDP48億ポンド、という見通しも載っています。見通しは影響評価の推計です。通関の義務ではありません。妥結概要は、発効直後にインドが既存貿易だけで年最大4億ポンド相当の関税を削り、10年の段階後は年約9億ポンド、とも書いています。
ご担当者様が社内で「まだ批准待ち」と書くと、日付がずれます。2026年8月時点では、特恵の請求は発効済み、が公式の状態です。
署名から発効まで、何の手続があったか
英国商務省の妥結概要(conclusion summary)は、署名のあとに両国の政府手続と、英国では憲法改革・統治法(CRaG)に基づく議会審査が要る、と書いていました。必要な国内法も、批准の前に議会を通す、という順です。発効は「両国が批准を終えたあと」です。
2025年5月6日に首脳間で妥結し、7月24日に署名、2026年7月15日に発効、が公式の三つの日付です。妥結概要の本文は署名前に書かれているため、「これから署名する」という未来形が残っています。日付の正は、特集ページの2026年7月15日更新です。英国首相府の署名時発表は、インドの対英平均関税が15%から3%へ下がる、とも書いています。平均であり、品目の税率そのものではありません。
インド側の官報・関税率表の行ごとの実施は、英国の統合関税(UK Integrated Online Tariff)が2026年7月13日に「15日発効」と予告しています。品目の適用税率は、申告のたびに関税率表で確認してください。概要のパーセントだけを契約に書かない方が安全です。
関税が下がる側——ウイスキー、車、医療機器
発効時の英国発表は、インド産の99%(対英)、英国産の90%(対印)が無税または引き下げ、と整理しています。妥結概要は、インドが関税を下げる対象はタリフラインの90%、現行の対英輸入の92%をカバー、とも書いています。10年の段階後は、インド向けでタリフラインの85%、既存輸入の66%が無税対象、です。数字の分母が「品目数」と「貿易額」で違うので、社内資料では列を分けてください。
ウイスキーとジンは、インド関税150%が発効日に75%、10年目以降40%、です(妥結概要。2022年の対英ウイスキー輸入は年2億ポンド超)。乗用車は、最大110%程度から、数量割当(クォータ)付きで10%へ、です。まず内燃機関車、のちに電気・ハイブリッド・水素、という段階です。逆方向のインド車の対英も、割当と段階があります。
発効日にゼロになる例として、英国政府の解説はサーモンなど一部水産とラム(羊肉)をインド関税33%からゼロ、と書いています。妥結概要も、発効日に無税になる農食品としてサーモン・タラと並べてラムを挙げています。チョコレート、ビスケット、清涼飲料は、現行33〜55%帯から10年以内に撤廃、という段階です。医療技術(外科・歯科・獣医用器具を含む)と一部の自動車部品・機械は、10年の段階のあとに無税対象へ入る、と妥結概要は書いています。
化粧品も、発効時の英国発表が恩恵品目に挙げています。金額の品目別公式表は、関税率表側で引く必要があります。
据え置かれた品目
妥結概要は、国内センシティブとして砂糖、精米、豚肉、鶏肉、卵を自由化から外した、と明記しています。乳製品・りんご等の果物を外した、という法律事務所の解説もありますが、本稿は妥結概要に名前がある5品目を一次とします。それ以外の「除外」は、関税率表で行を見てください。
車は「下がる」でも、割当の枠を超えた台数は、特恵の10%が使えません。枠の残数は、通関のたびに確認する数字です。ウイスキーはゼロではなく、75%(のち40%)です。「FTAだから無税」と社内でまとめないでください。
サービスと人の移動、社会保障の二重拠出回避(Double Contributions Convention)も、英国政府はCETAと同時に2026年7月15日発効、と説明しています。駐在員とその雇用主が、最長5年、一方の国だけで社会保険料を払う、という趣旨です。貨物の関税とは別条約です。駐在の社会保険料と、貨物の特恵を同じ稟議に混ぜない方が事故が少ないです。
第三国企業がインド・英国拠点で使える条件
特恵は「英印のどちらかで原産と認められた貨物」に付きます。日本企業がインド工場で作り、英国へ出す場合、貨物がインド原産の規則を満たせば、対英特恵の対象になり得ます。英国工場からインドへ出す場合も、英国原産なら対印特恵の対象になり得ます。
第三国で完成した貨物を英または印で積み替えるだけでは、原産とは認められません。第3章は、包装の変更、洗浄、ラベル貼り、特性を変えない希釈、単純な瓶詰め・選別・組み立て・混合・検査では原産にならない、と英国商務省の解説が要約しています。ハブ倉庫を英印に置いただけでは、特恵は取れません。
累積は、英印の材料を互いに原産として数えられる、という二国の仕組みです。日本から送った部品は、原則として非原産材料です。製品別規則(関税分類の変更、または適格価値含有率)を満たせば、非原産を混ぜても原産になれます。例えば解説は、電動機(HS 8501)で輸入材料の項変更、または価値の少なくとも40%(計算方法による)を原産から、という例を出しています。
北アイルランドのウイスキーがアイルランド産の大麦やニュートラルスピリットを使い、輸送中に瓶詰めしても特恵対象になり得る、と妥結概要は書いています。これは製品別規則が「十分な加工」を認めている例です。日本産原料をインドで軽く組み立てる、とは別の話です。自社品目の附属書3A(製品別規則)を、先に1行引いてください。第3章本文と附属書はGOV.UKの条約コレクションにPDFがあります。
原産地は3通り——全量取得、原産材料のみ、製品別規則
英国商務省の原産地解説は、原産の道を3つに分けます。①英または印で完全に得られたもの(鉱物、農産、一定の漁獲)。②原産材料だけで作ったもの。③非原産材料を使うが、附属書3Aの製品別規則を満たすもの。
適格価値含有率(QVC)は、ビルドダウン(非原産を差し引く)とビルドアップ(原産を足す)の2計算法があります。価格の土台は工場渡し(ex-works)か本船渡し(FOB)です。閾値が計算法で変わる、と解説は注意しています。
記録は第3.24条の保存義務です。税関が後から検証します。申告書の様式が他の英国FTAと違う、とGOV.UKは繰り返しています。社内のEUR.1や他協定の自己証明テンプレを流用しないでください。
実務の書類——英国出しと英国入れで違う
英国からインドへ出す場合、GOV.UK(2026年7月8日)は次の順です。輸出者または生産者がHMRCに登録する(EORI、原則1回)。英文の原産地申告テンプレ(WordまたはExcel)を埋め、PDFにする。インド側の認証に送る。認証は「登録された英国輸出者か」の確認であり、原産そのものの保証ではありません。申告は1船積み、完成日から12か月有効、日付は発効日(2026年7月15日)以降。
登録の反映に最大24時間、と解説は書いています。同じメールアドレスを複数のEORIに使うと、インド側が重複と見て認証が落ちます。メールは認証用に分けてください。
英国へ入れる場合、HMRCの関税停止報道(2026年7月13日)は、特恵の証拠として原産地申告(文書コード9001)、原産地証明書(N954)、輸入者の知識(U112)のいずれかを挙げています。インド工場から英国へ出す企業は、インド側の発行手続と、英国輸入者の請求方法を両方見る必要があります。英国出しのHMRC登録だけでは、インド出しは回りません。認証は「登録された輸出者か」の確認であり、原産そのものの保証ではない、と商務省解説も繰り返しています。
発効後に先に確認する3つ
1. 自社HSの行
90%や99%は全体の話です。契約と見積は、関税率表の行(発効日の税率、段階の年、割当の有無)を1枚にします。
2. 原産の道
全量取得か、英印累積か、製品別規則(項変更/QVC)か。日本産部品の比率がQVCを割っていないかを、円ではなく協定の計算方法で出します。
3. 書類の向き
英→印ならHMRC登録とインド認証付き申告。印→英ならHMRCが示す証拠コードとインド側の発行。向きを間違えると、税率が下がっていても特恵が落ちます。
注意点——ハブ経由と「無税」の言い過ぎ
英印の倉庫を経由させるだけでは原産になりません。単純作業の列(第3.7条)に、自社の工程が入っていないかを先に見てください。
ウイスキー75%、自動車10%(割当)は、ゼロではありません。乳製品や精米は、概要上の自由化対象外です。社内の「FTAで全部下がる」は、この協定では誤りです。
GDPや貿易押し上げの億ポンドは、長期のモデル推計です。今年の受注計画の根拠には使わない方が安全です。使えるのは、発効日、品目の税率、原産の3道、書類の向き、の4点です。
よくある質問
Q. 協定はもう使えますか。使えます。英国政府は2026年7月15日発効と更新しています。品目の税率は関税率表で確認してください。
Q. 日本の工場から英印へ出す貨物は特恵になりますか。英または印で原産と認められない限り、なりません。積み替えやラベル貼りだけでは足りません。
Q. 最初に用意する書類は何ですか。英から印へ出すなら、HMRC登録と英文の原産地申告(PDF)とインド側認証です。印から英へ入れるなら、HMRCが示す証拠(申告・証明書・輸入者の知識)です。
主な出典
PROVE通信では、海外事業と国内事業の判断に効く構造変化を、一次情報にあたって毎週お届けしています。プルーヴ通信の登録は無料です。個別のご相談はお問い合わせからどうぞ。
※2026年8月時点の情報をもとに作成しています。監修:森英朗(グループ代表)。
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