東南アジアの国々では、家畜を飼育している家庭が多く見られます。
今回は、フィリピンの畜産農家と食肉流通の現状から、今後の食肉市場の展望についてお伝えします。
フィリピンでの家畜の流通
フィリピンでは現在でも多くの家庭で家畜が飼育されており、その種類は牛、鶏、豚、ヤギなど多岐に渡ります。彼らは専業農家ばかりではなく、一般家庭がお小遣いを得るために庭先で家畜を飼育しているケースも多いです。
家畜の種類にもよりますが、一般的にフィリピンの家畜農家のうち大半は小中規模の畜産農家であるといわれています。
彼らが育てた家畜は、自分たちの食事のために利用する場合もあれば、近隣の市場へ売りに出す場合もあります。


また、鶏の足に刀をつけて闘わせる「闘鶏」もフィリピンではとてもポピュラーで、闘鶏用の鶏を育てている個人や、大規模な農家も存在します。闘鶏用の鶏は食肉用に比べ、育てるのにお金はかかるものの、強い鶏に育て上げれば一攫千金も狙うことができることから、特に男性からはとても人気のある家畜であり、娯楽となっています。




フィリピンで飼育されている牛・豚・鶏・ヤギの様子
小中畜産農家と市場の密接な関係から生じる問題点
このようにフィリピンでは、個人の畜産農家が特に免許等もない状態で一般の市場へ食材を流通させている場合もあり、食肉の安全性が必ずしも保証されているとは限りません。
そのことから、「感染症の予防や衛生対策が不十分である」という問題点が挙げられます。
日本では、家畜を飼育するにあたっての法制度やガイドラインが存在しますが、フィリピンではいまだにこうした規制が明確に設けられていません。一方で、市場の販売店(○○○市場のような場所も含めて)を見ても、生肉を常温で何時間も陳列していたりするため、衛生面を気にする消費者がいることも事実です。
このような課題を解決するためには、規制を設ける、組合の組織化による対応など、全体のシステムを早急に構築することが必要だといえます。
フィリピン食肉市場拡大の可能性
フィリピンと同じ東南アジアの国、例えばタイではどのような食肉流通事情なのでしょうか。
タイでは、例えば牛は神聖な動物とされているために肉牛の飼育量は少なく、鶏肉の飼育量が特に多くなっています。タイで育てられている鶏肉は海外にも多く輸出されており、日本の某大手コンビニのチキンとしても取引されています。
また、フィリピンと大きく異なるのは、大手食肉企業が市場の大半を占めているということです。例えば鶏肉(ブロイラー)の生産量は、CP(チャルーン・ポーカパン)やベタグロなどの大手食肉企業上位5社で、タイで飼育されているブロイラーの半数を占めるほどです。
食肉企業がタイでここまで大きくなったのは、小中規模農家を吸収してきたことが一つの要因といえるでしょう。
現在は小中規模畜産農家の割合が多いフィリピンですが、今後はタイと同じように財閥企業のような大手企業に統合されていく可能性もあるのではないでしょうか。
そのような中でフィリピンの小中規模畜産農家が生き残っていくためのアイデアの一つとして、食肉のブランド化を考えてもよいかもしれません。
日本でも最近は、◯◯牛や◯◯認証などのブランド食品が増えてきたことで、品質も価格も安定化しました。しかし、フィリピンではおいしい食品(食肉だけでなく、例えばチョコレートやコーヒー、フルーツなど)は多く流通していますが、これまでそれらをブランド化することはあまり行われていません。
今後、食品のブランド化を実現していくためには、国などの機関と協力し、技術面でも資金面でもバックアップがあると取り組みやすいかもしれません。
これらの商品がブランド化されれば付加価値がつき、小中規模畜産農家の商品市場が拡大していくことも見込めるでしょう。
また、フィリピン国内にもスーパーマーケットはありますが、高価格帯の商品が多いため、日本のように一般市民が利用するのではなく高所得者が利用するイメージです。しかし、ブランド化された商品が販売されることで、自国の食品が国内の高所得者層に向けても流通するきっかけとなっていくのではないでしょうか。
フィリピンの畜産農家市場がどのように変化していくのか、今後も注目していきたい点です。