3M(スリーエム)とはどんな会社?会社概要や業績、経営戦略を解説

3M(スリーエム)はアメリカに本社を置く、化学製品や電気素材メーカーです。120年以上の歴史があり、粘着テープやフィルムのメーカーとしても知られています。

Reinforz Insightの「2023年最新版:世界の電池材料会社ランキング時価総額TOP55」によると、同社は電池材料会社の中で時価総額が世界1位でした。本記事では世界で活躍する3Mの会社概要や業績、経営戦略について解説します。

3M(スリーエム)とはどんな会社?

出典:3M

3Mはクリーニング用品・テープ・フィルム・医療用製品・電力製品・電子材料など、数多くの製品を展開している企業です。この章では3Mの会社概要や歴史、企業理念を紹介します。

会社概要

3Mの会社概要は以下のとおりです。

会社名3M Company
本社アメリカ
設立1902年
製造拠点200拠点以上
製品数60,000以上
従業員数85,000人(2023年12月31日時点)
売上高327億ドル(2023年)

3Mは世界60カ国以上に現地法人を持ち、60,000以上の製品を約200カ国で展開しています。

歴史

3Mは1902年にアメリカのミネソタ州で設立され、当初はサンドペーパーを生産していました。1921年に耐水ペーパーの特許を取得し、その後、次々と新たな製品の開発に成功します。同社の代表的な製品と開発した年は以下のとおりです。

1925年:マスキングテープ

1930年:セロハンテープ

1938年:反射テープ

1958年:ナイロンたわし

1963年:人工芝

1980年:糊付き付箋

2014年には、10万件目の特許を取得しました。このことから、3Mはイノベーションにより事業規模を拡大してきた企業と言えます。

企業理念

3Mの企業理念として、同社のグローバル行動規範とビジョンを紹介します。

●グローバル行動規範の6つの柱

  • 善良であること:法律および3Mの行動規範に従う。
  • 正直であること:正直に、誠実に行動する。
  • 公平であること:取引相手が政府であるか、顧客であるか、サプライヤーであるかに問わず、ルールに従って行動する。
  • 忠実であること:3Mの利益、資産、情報を守る。
  • 正確であること:完全かつ正確なビジネス情報の記録を維持する。
  • 敬意を持つこと:互いに尊敬し合い、3Mの社会的環境および世界中の物理的環境に敬意を払う。

引用:3M「グローバル行動規範

●3Mのビジョン

3Mのテクノロジーはお客様のビジネスをさらに前へ進め、3Mの製品は毎日の暮らしをより快適にし、そして3Mのもたらすイノベーションは明日をもっと豊かにします。

引用:3M「環境ソリューション製品カタログ

3Mの経営状況

3Mの経営状況として、直近6年間の売上高と営業利益の推移を紹介します。

参考:3M「Investor Relations

2023年の売上高は327億ドル(4兆9,050億円)で、2022年の342億ドル(5兆1,300億円)から15億ドル(2,250億円)減少しました。2023年の営業利益は91億ドル(1兆3,650億円)の赤字で、2022年の65億ドル(9,750億円)から156億ドル(2兆3,400億円)減少しました。※1ドル=150円換算

2023年に営業利益が大幅な赤字に転落した要因は、軍需用耳栓の訴訟とPFAS(ピーファス)訴訟の和解金のために、43億ドル(6,450億円)と105億ドル(1兆5,750億円)を税引前損失に計上したためです。

※軍需用耳栓の訴訟は、3M製の軍需用耳栓を使用した軍人が難聴や耳鳴りが発生したことに対する訴訟です。同製品は耳栓としての機能が弱く、十分な役割を果たせなかったとされています。

※PFASとは、有機フッ素化合物のことです。織物製品・医療機器・電子機器・半導体製造用品などの様々な製品に使われています。PFASには4,700種類以上があるとされており、その中には人体に有害な物質もあります。3Mは有害性のあるPFASで、飲料水を汚染させたとしてアメリカの多数の自治体から訴えられており、2023年6月に最大125億ドル(1兆8,750億円)を支払う和解案に暫定合意しました。

3Mの地域別売上高の構成割合は以下のとおりです。

参考:3M「Investor Relations

2023年の最も売上高の多い地域は、南北アメリカの56.2%でした。南北アメリカの中でも、アメリカ国内の売上高は151億ドル(2兆2,650億円)で全体の46.2%に相当します。

3Mの事業別売上高の推移

3Mの業績を深掘りするために、この章では事業別の売上高に焦点を当てて解説します。

3Mの事業区分と各事業の製品例を以下にまとめました。

  • 安全と産業:工業用研磨剤・テープ・電気製品・衛生用品
  • 輸送と電子機器:半導体製造材料・高速道路標識・データセンター向けソリューション
  • ヘルスケア:創傷ケア用品・感染予防製品・歯科矯正ソリューション
  • コンシューマ:家庭用呼吸器・家庭用クリーニング製品・小売用研磨剤・カー用品・文房具

事業別売上高の構成割合は以下のとおりです。

参考:3M「Investor Relations

さらに、各事業の売上高と営業利益の推移を紹介します。

安全と産業

安全と産業事業の売上高と営業利益の推移は以下のとおりです。

参考:3M「Investor Relations

2023年の売上高は110億ドル(1兆6,500億円)で、2022年の116億ドル(1兆7,400億円)から6億ドル(900億円)減少しました。一方、2023年の営業利益は23億2,000万ドル(3,480億円)で、2022年の11億4,000万ドル(1,710億円)から約2倍に増加しました。ただし、営業利益が拡大した要因は、2022年よりも訴訟に関する費用が減少したためです。

輸送と電子機器

輸送と電子機器事業の売上高と営業利益の推移は以下のとおりです。

参考:3M「Investor Relations

2023年の売上高は85億ドル(1兆2,750億円)で、2022年の89億ドル(1兆3,350億円)から4億ドル(600億円)減少しました。一方、2023年の営業利益は13億1,000万ドル(1,965億円)で、2022年の9億7,000万ドル(1,455億円)から3億4,000万ドル(510億円)増加しました。

2023年の営業利益は2022年より増加したものの、全体的に見ると売上高と営業利益が減少傾向にあるため、苦戦している事業と言えます。

ヘルスケア

ヘルスケア事業の売上高・営業利益の推移は以下のとおりです。

参考:3M「Investor Relations

2023年の売上高は82億ドル(1兆2,300億円)で、2022年の84億ドル(1兆2,600億円)から2億ドル(300億円)減少しました。2023年の営業利益は16億ドル(2,400億円)で、2022年の18億ドル(2,700億円)から2億ドル(300億円)減少しました。売上高が減少した要因は、コロナウイルスの感染が落ち着いたことでバイオ医薬品の需要が減少したためです。

コンシューマ

コンシューマ事業の売上高と営業利益の推移は以下のとおりです。

参考:3M「Investor Relations

2023年の売上高は50億ドル(7,500億円)で、2022年の53億ドル(7,950億円)から3億ドル(450億円)減少しました。2023年の営業利益は9億ドル(1,350億円)で、2022年の9億8,000万ドル(1,470億円)から8,000万ドル(120億円)減少しました。

売上高と営業利益が減少した要因は、インフレの影響により消費者の消費行動が変化し、文房具や事務用品などの販売数が減少したためです。

3Mの経営戦略

3Mは、ニッチ産業において高付加価値の製品を生み出すことで事業を拡大してきました。その経営戦略を支えているのは、優れたイノベーション力です。同社が革新的なイノベーションを続けられる要因の1つとして、「15%カルチャー」が挙げられます。

15%カルチャーとは、従業員が勤務時間の15%程度を自分が興味を持つ分野の研究に使える文化です。

同社に15%カルチャーが生まれたきっかけは、1925年のマスキングテープの開発でした。
当時は自動車を塗装する際、色を塗りたくない部分を医療用テープで保護していましたが、医療用テープの粘着力が強力で、塗装が剥げてしまう問題がありました。

その話を聞きつけた研磨剤担当の技術者が「問題を解決する商品を開発したい」と上司に相談したところ、「専門分野と違う商品の開発は成功しない」と考えた上司から開発をやめるように指示されたとのことです。しかし、その技術者は本業をしながら開発を続け、マスキングテープの開発に成功して大ヒットとなりました。その後、同社では15%カルチャーが根付き、糊付き付箋などのヒット商品の開発につながっています。

15%カルチャーは、イノベーションを促進するための手法として、グーグルなどの他の企業にも取り入れられています。

3Mを参考にイノベーションを促進しよう

3Mは120年以上の歴史を持つ、化学製品や電気素材メーカーです。その長い歴史の中で、マスキングテープや糊付き付箋などのように、革新的な製品を多く生み出してきました。その優れたイノベーション力の秘密は「15%カルチャー」にあります。海外進出を検討している経営者様は、革新的な製品を生み出すために「15%カルチャー」を取り入れてみてはいかがでしょうか。

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