
インフィニオン・テクノロジーズ(以降は、「インフィニオン」と言います。)は、ドイツに本社を置く半導体メーカーです。車載向け半導体に強みがあり、同分野において世界シェア1位を獲得しています。本記事では、インフィニオンの会社概要や経営状況、成長戦略を解説します。
参考:EE Times Japan「23年の車載半導体売上高ランキング、首位はInfineon」
インフィニオンとはどんな会社

出典:インフィニオン「About Infineon」
インフィニオンは、車載向け半導体の分野だけではなく、パワー半導体の分野においても世界トップクラスの市場シェアを誇る企業です。パワー半導体とは、大きな電流の制御や電力変換ができる半導体のことです。ここでは、同社の会社概要や歴史、経営理念を紹介します。
会社概要
インフィニオンの会社概要は以下のとおりです。
会社名 | Infineon Technologies AG |
本社 | ドイツ |
設立 | 1999年 |
拠点 | 研究開発拠点:71拠点 製造拠点:15拠点 |
従業員数 | 58,000人(2024年9月30日時点) |
売上高 | 150億ユーロ(2024年度) |
歴史
インフィニオンの歴史は、1999年にドイツの総合電機メーカーのシーメンスから独立したことに始まります。
同社は自動車用や産業用の半導体製品の設計・開発・製造で事業を拡大しました。2014年にはインターナショナル・レクティファイアーを買収し、パワー半導体市場での影響力を強化。さらには、2020年にアメリカのサイプレス・セミコンダクターを買収しました。
このように、同業企業の買収を進めたことで、パワー半導体分野において最大手の企業に成長しています。
経営理念
インフィニオンは、経営理念として以下のミッション・ビジョン・バリューを掲げています。
- ミッション(達成したいこと):より便利で安全、緑豊かな生活を創造します
- ビジョン(進んでいく道):リアルとデジタルの世界を半導体でひとつにします
- バリュー(大切にしている価値観):新たな価値創造による革新を起こしビジネスを成功に導きます
引用:インフィニオン テクノロジーズ ジャパン株式会社「会社概要」
インフィニオンの経営状況
インフィニオンの経営状況として、直近6年間の売上高と営業利益の推移を紹介します。

参考:インフィニオン「Reports and Presentations」
2024年度の売上高は150億ユーロ(2兆4,000億円)で、2023年度の163億ユーロ(2兆6,080億円)と比較して、13億ユーロ(2,080億円)減少しました。また、2024年度の営業利益は22億ユーロ(3,520億円)で、2023年度の39億ユーロ(6,240億円)と比較して、17億ユーロ(2,720億円)減少しました。売上高と営業利益が減少した要因は、通信・コンピューティング・IoT市場の低迷、電気自動車分野の成長の鈍化、さらに販売価格の低下が挙げられます。
※1ユーロ=160円換算
また、同社の地域別売上高の構成割合は以下のとおりです。

参考:インフィニオン「Reports and Presentations」
上記のグラフから、インフィニオンは世界の主要市場で売上を確保していることがわかります。特に、中華圏や日本を含むアジア太平洋地域の割合が大きく、全体の60.9%を占めています。
インフィニオンの事業別売上高の推移
インフィニオンの経営状況について、事業別売上高に焦点を当てて解説します。同社の事業別売上高の構成割合は以下のとおりです。

参考:インフィニオン「Reports and Presentations」
インフィニオンは4事業で構成され、その中でも中核事業のオートモーティブ事業が売上高の55.8%を占めています。ここでは、各事業の内容に加えて、売上高の推移を紹介します。
オートモーティブ事業
オートモーティブ事業は、自動車向けの半導体を開発する事業です。主な製品には、特定用途向けセンサー、パワー半導体、車両接続コンポーネントなどがあります。同事業の売上高の推移は以下のとおりです。

参考:インフィニオン「Reports and Presentations」
2024年度の売上高は84億ユーロ(1兆3,440億円)で、2023年度の82億ユーロ(1兆3,120億円)と比較して、2億ユーロ(320億円)増加しました。売上高が増加した要因は、多くの車両メーカーが運転支援システムの拡張や電気自動車に注力したことで、マイコン製品が好調を維持したことが挙げられます。マイコンとは、電気機器を制御するための半導体チップのことです。
ただし、2024年度の業績は、2023年度や2022年度と比較して成長率が鈍化しました。その要因は、中国以外の電気自動車市場が2023年度ほどの力強さがなかったことが挙げられます。
パワー&センサー・システムズ事業
パワー&センサー・システムズ事業は、データセンター、充電用デバイス、スマートホーム、ソーラーシステムなどに向けて、小型で軽量な電源やセンサーシステム技術を開発している事業です。同事業の売上高の推移は以下のとおりです。

参考:インフィニオン「Reports and Presentations」
2024年度の売上高は31億ユーロ(4,960億円)で、2023年度の38億ユーロ(6,080億円)と比較して、7億ユーロ(1,120億円)減少しました。売上高が減少した要因は、通信インフラ向けの半導体需要が低迷し、産業用向けの半導体の需要が大幅に減少したことが挙げられます。対して、AI関連や携帯電話用部品の需要は大幅に需要が増加したものの、他の分野の減収を相殺するほどではありませんでした。
グリーン・インダストリアル・パワー事業
グリーン・インダストリアル・パワー事業は、再生可能エネルギー発電、電力インフラ、輸送、オートメーション、家電製品などに向けたパワー半導体を開発している事業です。同事業の売上高の推移は以下のとおりです。

参考:インフィニオン「Reports and Presentations」
2024年度の売上高は19億ユーロ(3,040億円)で、2023年度の22億ユーロ(3,520億円)と比較して、3億ユーロ(480億円)減少しました。売上高が減少した要因は、販売量と価格の低下が挙げられます。具体的には、風力発電用製品や太陽光発電用製品の売上減少、工場設備やオートメーション市場の需要減少、さらにはエアコンの需要減少などが総合的に影響しました。
コネクテッド・セキュア・システムズ事業
コネクテッド・セキュア・システムズ事業は、産業やスマートホーム、自動車、ヘルスケアなど幅広い用途向けに、マイコンやセキュリティソリューションを提供している事業です。同事業の売上高の推移は以下のとおりです。

参考:インフィニオン「Reports and Presentations」
2024年度の売上高は15億ユーロ(2,400億円)で、2023年度の20億ユーロ(3,200億円)と比較して、5億ユーロ(800億円)減少しました。売上高が減少した要因は、顧客の在庫が積みあがっていることに加えて、IoTやセキュリティソリューション市場の鈍化が挙げられます。経済環境の悪化により消費者が支出を控えるようになったことで、マイコンの需要が減少したことも要因の一つと考えられます。
インフィニオンの成長戦略
インフィニオンは長期的な成長戦略として、次の2つの課題に事業活動を集中させています。
- 脱炭素化
地球温暖化の抑制を目的として、再生可能エネルギーの効率的な生成・利用を支える半導体ソリューションを提供することです。これにより脱炭素化に貢献し、持続可能な社会の実現を目指しています。
- デジタル化
最先端のパワー半導体を活用し、電気自動車やデータセンター向けに高効率な電源供給ソリューションを提供することです。AIの発展に伴い、デジタル技術の可能性が高まる中、これらのソリューションにより成長を実現できるとしています。
また、具体的な成長目標として以下の3つの目標を掲げています。
①売上高成長率10%以上を達成する
②セグメント利益率25%を達成する
③フリーキャッシュフローを10〜15%の範囲にする
インフィニオンはパワー半導体に注力
インフィニオンはパワー半導体に強みを持つドイツの企業です。そのインフィニオンは、2024年8月にマレーシアのクリムにパワー半導体の新工場を開設しました。そして、最終的には最大70億ユーロの投資により、業界最大級の生産拠点にする予定です。これによりパワー半導体市場の競争力がより強化されると見込まれています。パワー半導体業界の動向は、様々な日本企業にも影響を与えることから、同社の今後の動向に注目しましょう。