
2023年、カンボジアと日本が外交関係を樹立してから70周年を迎え、両国の関係は「包括的戦略的パートナーシップ」に格上げされました。
これを受けて、カンボジアへの進出を検討している経営者もいるでしょう。そこで今回は、進出する前に押さえておきたい情報として、カンボジア財閥のロイヤルグループ(The Royal Group)の概要や事業内容を紹介します。
参考:外務省「日・カンボジア首脳会談」
ロイヤルグループ(The Royal Group)とは

ロイヤルグループは1991年に設立し、カンボジアで多角的に事業を展開するコングロマリットです。グループ概要は以下のとおりです。
会社名 | Royal Group of Companies(非上場企業) |
本社 | カンボジア |
設立 | 1991年 |
創業者 | ニャックオクニャ・キット・メン氏 |
売上高 | 非公開 |
グループ関連企業数 | 40社 |
従業員数 | 6,386人 |
ロイヤルグループは主に、銀行や投資などの金融事業、メディア事業などを行っており、ケンタッキーフライドチキンやモトローラ、サムスン電子などの多くの海外企業と提携関係を構築しています。
歴史
創業者のニャックオクニャ・キット・メン氏は、クメール・ルージュと呼ばれるポル・ポト政権から逃れ、青年時代のほとんどをオーストラリアで過ごしました。
ポル・ポト政権とは、1970年代後半に共産主義社会の実現を目指した独裁政権です。ポル・ポト政権崩壊後もカンボジアでは、内戦が続きました。その内戦は1991年に終結し、1993年には国連カンボジア暫定機構(UNTAC)による国民議会選挙が行われました。
このような情勢を受けて、ニャックオクニャ・キット・メン氏はカンボジアに戻り、1991年にRoyal Group of Companiesを設立したのです。
ロイヤルグループは設立当初、UNTACを支援したことで、信頼できる企業として評判を確立しました。1997年にはモバイル事業に進出し、2003年にはメディア事業を開始します。2007年にはケンタッキーフライドチキンと提携し、カンボジア初の国際的ファーストフードチェーンを誕生させます。
2012年には大手モバイル決済サービスのWingを買収しました。このように設立以来、積極的に事業の多角化を行っています。
事業内容
ロイヤルグループは紹介してきたように事業の多角化を推進し、カンボジア財閥と呼ばれるほどに成長したコングロマリットです。そこで、ここでは数ある事業の中から、6つの事業と関連会社について紹介します。
通信
通信事業は、ロイヤルグループの主要事業の1つです。主な関連会社にCellcardやEZECOM Co., Ltd.があります。
- Cellcard
Cellcardは1997年に設立され、カンボジアで最も長い歴史を持っている通信事業者です。モバイル通信や光回線などのサービスを展開しており、400万人以上のユーザーを獲得しています。
- EZECOM Co., Ltd.
カンボジアで急速に拡大するインターネット市場に対応するために、2007年に設立したプロバイダー企業です。現在では、カンボジアを代表する大手プロバイダーとなっています。
メディア
ロイヤルグループは2003年にメディア事業に進出し、20年以上にわたりカンボジアのテレビ業界を支えてきました。主な関連企業はCBSとDigital Sky Multimedia Co., Ltd.です。
- CBS
CBSはカンボジアのテレビ業界の市場シェアが40%で、カンボジア最大の放送サービスを運営している企業です。近年では若者向けの音楽チャンネルを創設したり、当社のデジタルプラットフォームを活用した広告事業を開始したりしています。
- Digital Sky Multimedia Co., Ltd.
Digital Sky Multimedia Co., Ltd.は、2012年に設立されたカンボジア初のデジタルテレビのRoyal Media Entertainment Corporationを買収しました。買収後、同社はカンボジア最大の大手デジタルテレビとなり、地上波・衛星放送・モバイル向けに様々なコンテンツを配信しています。
保険
カンボジア初の生命保険会社は、2012年に設立したCamlife(Cambodia Life Micro Insurance Plc.)です。そのCamlifeは2015年、ロイヤルグループに全株式を売却し、グループの傘下に入りました。
保険の主力製品は、マイクロインシュアランスと呼ばれる低所得者層向けの低価格な保険プランです。例えば、事故や病気における障がいや死亡のリスクをカバーする1年間の生命保険や、入院費用をカバーする1年間の入院保険などです。
低価格で利便性が高いとして、マイクロインシュアランスはカンボジアで人気があります。
リゾート
ロイヤルグループは、リゾートやホテルの開発・運営も行っており、代表的な施設にHOTEL CAMBODIANAがあります。HOTEL CAMBODIANAは、ノロドム・シハヌーク王子の命により1969年にオープンした高級ホテルです。
ただし、オープン後わずか1年で軍の兵舎に改造され、さらにポル・ポト時代には放棄されてしまいました。その後、シンガポールに本拠地を置く企業が修復し再オープンします。そして、2005年にロイヤルグループが買収し、グループの傘下に入りました。
このように、由緒ある高級ホテルを運営していることからも、カンボジアにおけるロイヤルグループの影響力の大きさが見て取れます。
金融
ロイヤルグループは金融事業も行っており、代表的な関連企業はWing Bank (Cambodia) Plc.です。
Wing Bank (Cambodia) Plc.は、21の支店と11,000以上の代理店による広大なネットワークを構築しており、カンボジア全土でサービスを展開しています。
個人・法人向けにローンや預金、送金、公共料金や保険の支払、給与計算サービス、決済サービスなどを提供しています。さらには、ECプラットフォームの「WingMall」の運営を行っているのが特徴です。
教育
ロイヤルグループは教育分野にも進出しており、インターナショナルスクールを運営しています。インターナショナルスクールでは、50以上の国から940人の生徒を受け入れており、国際的な視点を持つ人材の育成を目指しています。
日本企業の協業事例
ロイヤルグループは、多くの海外企業と提携関係を築いているのが特徴です。日本企業も例外ではなく、ロイヤルグループと提携している企業は多数あります。その中からキヤノン株式会社とSBI ホールディングス株式会社の協業事例を紹介します。
キヤノン株式会社

出典:キヤノン株式会社
ロイヤルグループとキヤノン株式会社の関係は、ロイヤルグループが設立した1991年にまで遡ります。
設立当初のロイヤルグループは、キヤノン株式会社と独占契約販売を結び、カンボジアで国連軍相手にコピー機を販売していました。つまり、キヤノン製品の販売で成功したことで、コングロマリットに成長したのです。
現在もロイヤルグループはキヤノンのフランチャイズ事業を展開しており、その関係は30年以上続いています。
参考:カンボジアビジネスパートナーズ「キット・メン」
SBIホールディングス株式会社
SBIホールディングス株式会社は、金融業を中心に証券や保険、不動産などの幅広いビジネスを展開している金融コングロマリットです。SBIホールディングス株式会社はカンボジアでの証券事業拡大のために、2011年にロイヤルグループと提携しています。
参考:SBIホールディングス株式会社「カンボジア最大手財閥ロイヤルグループとの事業提携及びSBIプノンペン証券の合併に関するお知らせ」
カンボジアへ進出するならロイヤルグループを押さえておこう
日本とカンボジアの関係が「包括的戦略的パートナーシップ」に格上げされ、ビジネスにおいても両国の関係が深まると予想されます。そのため、カンボジアへ進出したい経営者も多いでしょう。
進出するなら基礎知識として、ロイヤルグループについて押さえておくことが大切です。ロイヤルグループは、カンボジアで多岐にわたり事業を展開しているコングロマリットであるためです。また、進出方法の1つとして同グループとの提携も検討してみてください。