インドの消費者の商品の選び方、日本製品への信頼の理由について、『マーケティング力より技術力のインパクトが大きいインド市場』の記事の中で以前説明をしました。その中でインドは「特に技術力を誇る日本企業にとっては親和性の高い市場の一つでもあり、もっと進出が検討されてもいいのではないか」と提案しましたが、インドへの進出を検討しても、コミュニケーションの問題から難しいと考える方も少なくありません。
そこで今回は、前半でインドへ進出・展開する上で押さえておきたいインド企業とのコミュニケーションの現実について、後半ではコミュニケーションに影響を与える文化的な側面について、デリー大学で行われた日本語スピーチ大会の参加者から聞いた話をもとにお伝えします。
価値観は似ていても噛み合わないコミュニケーション
「ブランド戦略や口コミなどのマーケティングよりも、製品そのものの技術やスペックを重視している」インドは、良いものを作りたいという思考が強く、日本企業との相性は良いはずです。それなのに物事を進める上で噛み合わないところが出てきてしまうのは、何が原因なのでしょうか。
”阿吽の呼吸”や”空気を読む”ことを求めがちな日本は、言葉に頼らないコミュニケーションが発達したハイコンテクスト文化と言われています。一方、欧米は言葉で伝え切るハイコンテンツ文化と言われ、インドのコミュニケーション文化は日本と比較する上で欧米に近いと感じています。この違いも、近しい価値観を持ちながらもコミュニケーションが噛み合わない原因のひとつと思われます。
また組織の機能も日本とインドでは異なります。たとえばインドでは、ビジネスの決定には、いきなりトップが出てきます。そのため意思決定スピードが日本より圧倒的に早いのです。日本の場合は職位順に縦のラインを乱さないように、課長、部長、事業部長などの順に話が通り、トップが判断するまでに何人もの承認が必要となります。丁寧に検討する分、インドの組織に比べて意思決定に時間がかかります。
こういったコミュニケーション文化や組織の文化の違いから、インド企業と日本企業は、今までうまくいかないことがありました。
アニメや漫画をきっかけに日本に興味を持った学生たち
文化が違う者同士が意思疎通を図ることは、たとえ価値観が同じだとしても簡単なことではありません。ここに、異文化を持つ海外進出の難しさがあります。しかしビジネスで生じる文化的な側面からの問題を解決するのはビジネスだけではないと、インドを視察中に気付かされる経験をしました。
デリー大学へ行ったときのことです。そこでは偶然にも、日本語のスピーチ大会が開催されていました。英語さえできればビジネスでは困らないインドの大学で、スピーチ大会が開催されるほど日本語を学んでいる学生がいることに驚きました。
学生たちに日本語を学ぶ理由を尋ねたところ、日本のアニメや漫画をきっかけに、日本語や日本の文化を理解したいと思ったと彼らは話してくれました。名門と言われるデリー大学では、当時日本人講師がちょうど退職した直後で、日本語ネイティブの講師は在籍していませんでした。日本の経済成長が停滞しつつあるとは言えどまだまだ日本語が一つのビジネススキルとして認められ、日本語教育に力を入れる東南アジアとは差があると感じました。
それでも日本語を学びたい学生がいるということは、将来ビジネスに役立てるというよりも、純粋に日本の文化に惹かれている証拠でしょう。日本のコンテンツであるアニメや漫画の影響力の凄さを感じたとともに、こういった文化的側面が持つ影響はスマートフォンなどで簡単にアクセスできることと合わせてもっと拡がっていくことが想定できます。
文化への興味や理解がビジネスにも影響を与える
直接ビジネスには関係がないアニメや漫画の”楽しさ”や”面白さ”、アートなどの”美しさ”は数値で測れるものではありません。しかしどこにでもある訳ではない唯一無二の文化は、その価値を認められたときにビジネスに大きなインパクトを与えるのではないでしょうか。
たとえばLINEがエンジニアの新しい拠点として、2018年春に開設した京都オフィスには約1,000人の応募がありました。そのうちの8割は、海外からの応募だったそうです。京都にオフィスを構えたのも、国内外を問わず優秀なエンジニアを採用したいというLINE側の狙いがあり、海外からの応募が殺到したことで京都文化にブランド力があることを示した結果になりました。
出典:
産経デジタル『京都で働ける…LINEの開発拠点に海外から応募殺到』
type『LINEが京都に新オフィスを開設! エンジニアファーストな“場”作りへのこだわりとは?』
このように一見ビジネスとは関係ないと思えるところに、ビジネスに影響するファクターが潜んでいることがあります。
また、これからも文化的な側面を共有することでビジネスへと発展することが増えてくる可能性は大いにありえます。プルーヴ社としてもビジネスとは直接関係がない領域に、次のチャンスや可能性につながるものがあるという観点を持ち、今後もそのファクターを見出し、お伝えしていきたいと考えています。
グローバルYOU(海外調査レポート)『マーケティング力より技術力のインパクトが大きいインド市場』