
テキサス・インスツルメンツ(以降は、「TI」と言います。)は、アメリカに本社を置く半導体メーカーです。主にアナログ半導体の設計・製造・販売を行っています。本記事では、TIの会社概要と経営状況について解説します。
※アナログ半導体とは、音量や光量、湿度などのようなアナログ信号を
処理するための半導体のこと。
TIとはどんな会社

出典:TI
TIは、アナログ半導体の分野においてトップシェアを獲得している半導体メーカーです。IC Insightsの「Texas Instruments Keeps A Firm Grip As World’s Top Analog IC Supplier」によると、2021年のアナログ半導体の売上高が141億ドルで、世界シェア1位を獲得しました。この章では、TIの会社概要と歴史、経営理念について紹介します。
会社概要
TIの会社概要は以下のとおりです。
会社名 | Texas Instruments Inc. |
本社 | アメリカ |
設立 | 1930年 |
生産拠点 | 15拠点 |
製品数 | 80,000製品 |
従業員数 | 34,000人 |
売上高 | 175億ドル(2023年度) |
歴史
TIの歴史は、1930年にアメリカのテキサス州に石油探査会社ジオフィジカルサービスを設立したのが始まりです。ジオフィジカルサービスは、反射地震波を利用した石油探査事業で成功を収めました。そして、1951年に現在の社名に変更し、1954年に民生品として世界初のトランジスタラジオを開発しました。
1958年にはTIの社員であったジャック・キルビー氏が集積回路の発明に成功。同氏は、この発明により2000年にノーベル物理学賞を受賞しました。その後、TIは1957年に世界初のポケット電卓、1971年にマイクロコンピュータの開発に成功。1997年には、半導体プロセス研究開発の拠点をアメリカに開設し、半導体プロセスの研究に注力しました。
このように、集積回路を始め、いくつもの世界初の製品を開発しているのがTIの特徴です。
経営理念
TIは経営理念として「Living our values(価値と共に生きる)」を掲げ、その実現のために「Our ambitions(私たちの大きな目標)」と「Our values(私たちの価値)」を定めています。
・Our ambitions
同社は半導体を通じて電子機器をより手頃な価格にすることで、より良い世界を作り出すという信念をもって事業を展開してきました。そして、TIは長年にわたり以下の3つの目標を重要視してきました。
- 私たちは、長い間会社を所有するオーナーのように行動します。
- 私たちは、絶えず変化を続ける世界に適応し、成功を収めます。
- 私たちは、社員であることを誇りに思える会社、地域の隣人として望ましい会社であることを目指します。
3つの目標を達成できれば、TIの従業員だけでなく、顧客や地域社会、ステークホルダーがいずれも勝者になれると定義しています。
・Our Values
同社の重要視する価値観は以下の5つです。
- 信頼:常に誠実に行動し、正しいことを行う
- 包括的:お互いを尊重し、全員の能力を最大限に引き出す環境を作る
- 革新的:魅力的な製品を生み出し、新しい市場を開拓する
- 競争力:常にベストを尽くせるように、自らに課題を課す
- 結果重視:顧客と市場を第一に考える
TIの経営状況
TIの経営状況について、直近6年間の売上高と営業利益の推移を紹介します。

参考:TI「Earnings & annual reports」
2023年度の売上高は175億ドル(2兆6,250億円)で、2022年度の200億ドル(3兆円)と比較して、25億ドル(3,750億円)減少しました。また、2023年度の営業利益は73億ドル(1兆950億円)で、2022年度の101億ドル(1兆5,150億円)と比較して、28億ドル(4,200億円)減少しました。売上高と営業利益が減少した主な要因は、アナログ事業の低迷と製造コストの増加が挙げられます。※1ドル=150円換算
また、同社の地域別売上高の構成割合は以下のとおりです。

参考:TI「Earnings & annual reports」
グラフから世界各地で売上を確保していることがわかります。また、アメリカ国内の売上高の割合が33%であることから、同社の海外売上比率は67%です。
TIの事業別売上高の推移
TIの経営状況について、事業別売上高に焦点を当てて解説します。同社の事業別売上高の構成割合は以下のとおりです。

参考:TI「Earnings & annual reports」
TIは「アナログ事業」と「組み込みプロセッシング事業」の2つの事業で構成され、中核事業は売上高全体の74.4%を占めるアナログ事業です。ここでは、2事業の内容に加えて、売上高と営業利益の推移を紹介します。
アナログ事業
アナログ事業は、バッテリー管理ソリューションやスイッチング、パワースイッチ、照明製品などに用いるアナログ半導体の設計・製造・販売を担う事業です。同事業の売上高と営業利益の推移は以下のとおりです。

参考:TI「Earnings & annual reports」
2023年度の売上高は130億ドル(1兆9,500億円)で、2022年度の154億ドル(2兆3,100億円)と比較して、24億ドル(3,600億円)減少しました。また、2023年度の営業利益は58億ドル(8,700億円)で、2022年度の84億ドル(1兆2,600億円)と比較して、26億ドル(3,900億円)減少しました。2023年度の売上高と営業利益が減少した要因は、主に販売量の減少と製造コストの増加が挙げられます。
一方、2021年度・2022年度では急激に売上高と営業利益が拡大しました。これは2020年以降、コロナウイルスの感染拡大やアメリカと中国の貿易摩擦によって半導体のサプライチェーンが混乱し、世界的な半導体不足により需要が急速に高まったためと考えられます。
組み込みプロセッシング事業
組み込みプロセッシング事業は、車載用や産業用などのマイコンやアプリケーションプロセッサといった製品の開発・製造を担う事業です。同事業の売上高と営業利益の推移は以下のとおりです。
※マイコンとは、電気機器を制御するための半導体チップのこと。
※アプリケーションプロセッサとは、スマートフォンやタブレットにおいて、
様々なアプリケーションを処理するためのパーツのこと。

参考:TI「Earnings & annual reports」
2023年度の売上高は34億ドル(5,100億円)で、2022年度の33億ドル(4,950億円)と比較して、1億ドル(150億円)増加しました。一方、2023年度の営業利益は10億ドル(1,500億円)で、2022年度の13億ドル(1,950億円)と比較して、3億ドル(450億円)減少しました。売上高が増加したにも関わらず、営業利益が減少した要因は、製造コストの上昇が挙げられます。
TIのGaNパワー半導体の生産能力が4倍に
TIは、アナログ半導体市場で世界シェア1位を獲得している半導体メーカーです。そのTIは、2024年10月に日本の会津工場でGaN(窒化ガリウム)パワー半導体の生産を開始しました。これにより、GaNパワー半導体の製造能力が従来の4倍になり、顧客のニーズに柔軟に対応できるようになります。
GaNパワー半導体の特性は、導通損失が少なく、高速スイッチング性能に優れている点です。このため、電力変換効率の向上や小型化の市場要求に応えられると期待されています。世界の半導体産業を取り巻く変化に対応するために、同社の今後の動向にも注目しましょう。