
ユニバーサル ミュージック グループ(以降は、「UMG」と言います。)は、オランダに本社を置くグローバル企業です。ソニー・ミュージックエンタテインメント、ワーナー・ミュージック・グループ と並ぶ三大レコード会社の一つです。本記事ではUMGの会社概要や経営状況、成長戦略について解説します。
UMGとはどんな会社
UMGは、インタースコープやモータウン・レコードなどのレーベルを抱えるレコード企業です。60カ国以上で楽曲の製作や出版、物販などの事業を展開しています。deallabの「音楽レーベル・音楽出版の市場シェアの分析」によると、2022年の音楽レーベルのシェア率が39.64%で、世界2位を獲得しました。この章ではUMGの会社概要や歴史、経営戦略を紹介します。
会社概要
UMGの会社概要は以下のとおりです。
会社名 | Universal Music Group N.V. |
本社 | オランダ |
設立 | 1934年 |
進出地域 | 60カ国以上 |
楽曲レパートリー | 300万曲以上 |
従業員数 | 10,290人 |
売上高 | 111億ユーロ(2023年度) |
歴史
UMGの歴史は、1934年にイギリスのデッカ・レコードがアメリカ支社を設立したのが始まりです。1939年に、アメリカ支社はイギリスのデッカ・レコードと分離して独立し、1962年にアメリカのMCAと合併しました。
1990年に、日本の松下電器産業(現:パナソニック)がMCAを買収し、1995年にカナダのシーグラムがその松下電器産業からMCAを買収しました。そして、シーグラムは1996年にMCAをユニバーサル・スタジオ、MCAの音楽部門をユニバーサル ミュージック グループに改名します。さらに、フランスのヴィヴェンディが2000年にユニバーサル ミュージックを買収し、2004年にユニバーサル スタジオとユニバーサル ミュージック グループを分離しました。
2021年に、UMGはオランダのユーロネクスト・アムステルダムに上場して現在に至ります。このような歴史からUMGの本社の所在地はオランダですが、事業の本部はアメリカにあります。
経営理念
UMGはミッションに「より多くの音楽をより多くの人に」を掲げ、以下の価値観を重視しています。
- 原動力(DRIVE)
常に次のレベルを目指して突き進む。
- 洞察力(INSIGHT)
他の人が見ていないものを見る。
- 信頼性(AUTHENTICITY)
自分が本当は何者で、何を信じているかを表現する。
- 関係性(CONNECTION)
多様な関係性から力を引き出す。
- 勇気(BOLDNESS)
主体性と信念をもって毅然と行動する。
- 創造性(CREATIVITY)
思いがけないような新しい方法で課題に対応する。
UMGの経営状況
UMGの経営状況として、売上高と営業利益の推移を紹介します。
※なお、2019年以前の財務情報は非公開です。

参考:UMG「Investor Relations」
2023年度の売上高は111億ユーロ(1兆6,650億円)で、2022年度の103億ユーロ(1兆5,450億円)と比較して、8億ユーロ(1,200億円)増加しました。一方、2023年度の営業利益は14億ユーロ(2,100億円)で、2022年度の16億ユーロ(2,400億円)と比較して、2億ユーロ(300億円)減少しました。売上高が増加した要因は、全ての事業が好調を維持したことが挙げられます。ただし、営業利益は現金支出をともなわない株式報酬費用の増加により減少しています。
※1ユーロ=150円換算
地域別売上高の構成割合は以下のとおりです。

参考:UMG「Investor Relations」
最も売上高の割合が高いのはアメリカの50%で、イギリスの9%と日本の7%が続きます。
UMGの事業別売上高の推移
UMGの経営状況について、事業別売上高に焦点を当てて解説します。まずは、事業別売上高の構成割合は以下のとおりです。

参考:UMG「Investor Relations」
グラフより、楽曲制作が同社の主な事業であると言えます。ここではさらに、3事業の内容に加えて、売上高と営業利益の推移を紹介します。
楽曲制作
楽曲制作事業は、アーティストの発掘と育成、及び楽曲のマーケティング、プロモーション、配布、販売、ライセンス供与を行う事業です。主な収益は、音楽ストリーミングサービスやサブスクリプションサービスでの楽曲の配信で上げています。同事業の売上高と営業利益の推移は以下のとおりです。

参考:UMG「Investor Relations」
2023年度の売上高は85億ユーロ(1兆2,750億円)で、2022年度の79億ユーロ(1兆1,850億円)と比較して、6億ユーロ(900億円)増加しました。一方、2023年度の営業利益は14億ユーロ(2,100億円)で、2022年度の16億ユーロ(2,400億円)から2億ユーロ(300億円)減少しました。売上高が増加した要因としてストリーミングサービスの好調が挙げられます。ただし、営業利益は現金支出をともなわない株式報酬費用の増加により減少しています。
楽曲出版
楽曲出版事業は、楽曲の契約や権利取得、及び複数のフォーマットにおける使用許諾を担う事業です。同事業の売上高と営業利益の推移は以下のとおりです。

参考:UMG「Investor Relations」
2023年度の売上高は19億6,000万ユーロ(2,940億円)で、2022年度の18億ユーロ(2,700億円)と比較して、1億6,000万ユーロ(240億円)増加しました。また、2023年度の営業利益は2億7,000万ユーロ(405億円)で、2022年度の2億2,000万ユーロ(330億円)と比較して、5,000万ユーロ(75億円)増加しました。売上高と営業利益が増加した要因として、ストリーミングサービスやサブスクリプションサービスの成長に加えて、利用許諾による収入の増加が挙げられます。
物販・その他
物販・その他事業は、アーティスト公認グッズの製造や販売、及び小売店向け卸販売を行っている「Bravado」を運営している事業です。同事業の売上高と営業利益の推移は以下のとおりです。

参考:UMG「Investor Relations」
2023年度の売上高は7億1,000万ユーロ(1,065億円)で、2022年度の6億2,000万ユーロ(930億円)と比較して、9,000万ユーロ(135億円)増加しました。また、2023年度の営業利益は4,000万ユーロ(60億円)で、2022年度の3,000万ユーロ(45億円)と比較して、1,000万ユーロ(15億円)増加しました。売上高と営業利益が増加した要因として、メーカー直販(DtoC)の成長が挙げられます。
UMGの成長戦略
UMGは2024年9月17日に開催したキャピタルマーケットデーにおいて、「2028年度までの新たな財務目標」を発表しました。目標は以下のとおりです。
- 収益年平均成長率:7%以上
- サブスクリプション収益年平均成長率:8~10%
- 調整後EBITDA年平均成長率:10%以上
- フリーキャッシュフロー変換率(投資活動前):60~70%
※EBITDAは利払い前・税引き前・減価償却前利益のこと。
この財務目標を達成するために、3つの取り組みの強化を予定しています。
- サブスクリプションサービスの継続的な成長
- スーパーファン収益化の加速(メーカー直販の強化)
- パートナーエコシステムの拡大
※パートナーエコシステムとは、様々な企業が協力し、資源や技術を補完することでビジネスを強化する枠組みです。
UMGのAIの取り組みにも注目しよう
UMGは世界三大レコード会社の一つです。本社の所在地はオランダですが、事業本部はアメリカにあります。同社は音楽制作におけるAIの方向性を明確にすることを目的として、2024年にローランドと合同で「AIによる音楽創造のための原則」を発表しました。
「AIによる音楽創造のための原則」
- 私たちは、音楽が人間性の中核を成すものであると信じています。
- 私たちは、人類と音楽は切っても切り離せないものだと信じています。
- 私たちは、テクノロジーが長い間、人間の芸術表現を支え、そして持続可能な形で応用されてゆく中で、AIが人間の創造性をさらに広げることを信じています。
- 私たちは、人間が創造した作品は尊重され、保護されなければならないと信じています。
- 私たちは、責任ある、信頼できるAIには透明性が不可欠であると信じています。
- 私たちは、音楽アーティストやソングライター、その他のクリエイターの視点が尊重されなければならないと信じています。
- 私たちは、音楽に命を吹き込むことへの手助けができることを誇りに思います。
引用:UMG「Press Release」
発表後、UMGはAI音楽生成企業KLAYと戦略的パートナーシップを提携し、「倫理的なAI音楽生成基盤モデル」の開発を進めています。このAI音楽生成技術は音楽業界に大きな変革をもたらす可能性があります。そのため、今後はUMGのAIに関する取り組みに注目しましょう。
参考:innovaTopia「UMG×KLAY|世界最大の音楽企業が挑む”倫理的なAI音楽生成”の新時代」