
IBMは、アメリカに本社を置くグローバル企業です。ソフトウェアやコンサルティング、インフラストラクチャー事業を展開しています。本記事ではIBMの会社概要や経営状況、成長戦略を紹介します。
IBMとはどんな会社

出典:IBM
IBMは100年以上の歴史を持ち、175カ国以上で事業を展開しているグローバル企業です。この章では、同社の会社概要や歴史、経営理念を紹介します。
会社概要
IBMの会社概要は以下のとおりです。
会社名 | International Business Machines Corporation |
本社 | アメリカ |
設立 | 1911年 |
進出地域 | 175カ国以上 |
従業員数 | 28万2,000人 |
売上高 | 619億ドル(2023年度) |
歴史
1911年に、チャールズ・R・フリント氏がC-T-R社を設立したのがIBMの歴史の始まりです。C-T-R社はタイムカード機や計量器、パンチカード機器などを製造・販売し、1924年に現在のIBMに社名を変更しました。
チャールズ・R・フリント氏はアメリカの著名な財政家で、当時すでにゴムやウールなどのビジネスで成功していました。そして、IBMを含む数々の成功により、後に「トラストの父」と呼ばれるようになります。
1914年に、トーマス・J・ワトソン・シニア氏をC-T-R社のゼネラルマネージャーとして雇いました。トーマス・J・ワトソン・シニア氏は、その後社長に昇進し、IBMの初代CEO(最高経営責任者)となります。
IBMは1948年に、パンチカードシステムを発売し、10年間で5,600台を販売しました。※パンチカードシステムとは、パンチカードを使ったデータ処理を行う装置のことです。1952年には、磁気テープを使用したデジタルストレージを開発し、パンチカードシステムからコンピューターの開発に移行していきます。
1969年には、人類史上初めて月面着陸に成功したアポロ11号計画を、コンピューターやソフトウェアの提供により支援しました。そして、2005年にPC事業を中国のレノボに売却し、現在はソフトウェア・コンサルティング・インフラストラクチャー事業が柱です。
経営理念
IBMはパーパスに「世界をより良く変えていく”カタリスト(触媒)”になること」を掲げ、以下の3つの価値観を重要視しています。
- お客様の成功に全力を尽くす。
- 私たち、そして世界に価値あるイノベーション。
- あらゆる関係における信頼と一人ひとりの責任。
引用:IBM「IBMでキャリアを見いだす」
また、初代CEOのトーマス・J・ワトソン・シニア氏は、学びによる成長を信じ「教育に飽和点はない」との言葉を残しています。この言葉は、常に学び続けることの重要性を現在の社員に伝えています。
IBMの経営状況
IBMの経営状況として、直近6年間の売上高と純利益の推移を紹介します。

参考:IBM「Financial reporting」
2023年度の売上高は619億ドル(9兆2,850億円)で、2022年度の605億ドル(9兆750億円)と比較して、14億ドル(2,100億円)増加しました。また、2023年度の純利益は75億ドル(1兆1,250億円)で、2022年度の16億ドル(2,400億円)と比較して、59億ドル(8,850億円)増加しました。売上高と純利益が増加した要因として、ソフトウェア事業とコンサルティング事業の好調が挙げられます。※1ドル=150円換算
地域別売上高の構成割合は以下のとおりです。

参考:IBM「Financial reporting」
南北アメリカ地域の売上高は全体の51.2%を占めており、本社のあるアメリカ単体での売上高は253億ドル(3兆7,950億円)で全体の40.9%を占めています。よって、海外売上比率は59.1%です。
IBMの事業別売上高の推移
IBMの経営状況について、事業別売上高に焦点を当てて解説します。まずは、事業別売上高の構成割合は以下のとおりです。

参考:IBM「Financial reporting」
グラフから、ソフトウェア事業・コンサルティング事業・インフラストラクチャー事業が同社の主要事業です。さらに、3事業の内容と売上高の推移を紹介します。
ソフトウェア
ソフトウェア事業は、ハイブリッドクラウド・プラットフォームや自動化、AIなどを実現するためのソフトウェアを提供する事業です。ハイブリッドクラウドは、オンプレミスのクラウドサーバー(自社専用サーバー)とパブリッククラウドサーバー(共有サーバー)を組み合わせて運用する環境を指します。同事業の売上高の推移は以下のとおりです。

参考:IBM「Financial reporting」
※事業再編により2018年度の売上高は不明です。
2023年度の売上高は263億ドル(3兆9,450億円)で、2022年度の250億ドル(3兆7,500億円)と比較して、13億ドル(1,950億円)増加しました。売上高が増加した要因として、ハイブリッドクラウド・プラットフォームや自動化、AIの関連サービスの成長が挙げられます。
コンサルティング
コンサルティング事業は、ハイブリッドクラウドとAI技術により、顧客企業のDX(デジタルトランスフォーメーション)の推進やテクノロジーの実装を支援する事業です。DXとは、デジタル技術を活用してビジネスを変革することを指します。同事業の売上高の推移は以下のとおりです。

参考:IBM「Financial reporting」
2023年度の売上高は200億ドル(3兆円)で、2022年度の191億ドル(2兆8,650億円)と比較して9億ドル(1,350億円)増加しました。売上高が増加した要因として、AIと分析に重点を置いたサービスの成長が挙げられます。
インフラストラクチャー
インフラストラクチャー事業は、ハイブリッドクラウドの基盤を構築するストレージやサーバー、メインフレームシステムを提供する事業です。同事業の売上高は以下のとおりです。

参考:IBM「Financial reporting」
2023年度の売上高は146億ドル(2兆1,900億円)で、2022年度の153億ドル(2兆2,950億円)と比較して7億ドル(1,050億円)減少しました。売上高が減少した要因として、製品ライフサイクルの影響による需要の減少が挙げられます。
IBMの成長戦略
2024年5月21日、IBMの年次イベント「THINK」において、CEOのアービンド・クリシュナ氏は戦略の中核として、オープンソースAIコミュニティへの投資・構築・貢献を発表しました。そして、実際に同社の生成AIモデル「Granite」をオープンソース化したことで話題になりました。※オープンソースとは、プログラミングのソースコードを無償で公開・再使用・改変・再配布できるソフトウェアの総称です。
このようにIBMが生成AIモデルを公開したのは、生成AIのビジネス価値を広げ、顧客企業が自社専用モデルを構築できるようにするためです。この取り組みは、同社のパーパスである「世界をより良く変えていく”カタリスト(触媒)”になること」と合致していると言えるでしょう。
そして、同社はオープンなAIエコシステムの構築を先導することで、ハイブリッドクラウド及びAI市場における地位の確立を目指していると考えられます。
IBMの次の成長領域はAI
IBMは175カ国以上に事業を展開しているグローバル企業です。主にハイブリッドクラウドとAI関連の製品・サービスにより事業を拡大しています。
同社は次の成長領域としてAIに注力し、先に紹介したように生成AIモデル「Granite」をオープンソース化しました。また、ビジネスに特化したAIサービス「watsonx」も運営しており、顧客企業の事業をサポートしています。ただし、AIのオープンソース化は複数の企業が取り組んでいるため、シェアを拡大できるかに注目が集まっています。