アーチャー・ダニエルズ・ミッドランド(ADM)は4大穀物メジャーの1つで、120年以上の歴史を持つ世界最大級の農産物加工・食品原料メーカーです。今回は世界で活躍する企業の現状として、同社の会社概要や業績、成長戦略について紹介します。
アーチャー・ダニエルズ・ミッドランドとはどんな会社?
出典:ADM「What Does ADM Do?」
アーチャー・ダニエルズ・ミッドランドはアメリカに本社を置く穀物メジャーです。大豆やトウモロコシ、油糧種子加工などに強みを持ちます。ここでは、同社の会社概要・歴史・事業内容を紹介します。
会社概要
アーチャー・ダニエルズ・ミッドランドの会社概要は以下のとおりです。
会社名 | Archer-Daniels-Midland Company |
本社 | アメリカ |
設立 | 1902年 |
従業員数 | 41,802人(2023年12月末時点) |
進出地域 | 200カ国以上 |
拠点 | 農作物調達拠点:450拠点以上 加工工場:300拠点以上 イノベーションセンター:50拠点以上 |
売上高 | 939億ドル(2023年) |
同社はReinforz Insightの「2023年最新版:世界の製油会社ランキング時価総額TOP100」において、世界1位を獲得しています。このことからも分かるように、世界で活躍する大手企業の1つです。なお、2024年7月時点で時価総額は319億ドル(4兆7,850億円)でした。※1ドル=150円換算
歴史
創業者のジョージ・A・アーチャー氏とジョン・W・ダニエルズ氏は、1902年に前身企業のDaniels Linseed Co.を設立しました。1923年にMidland Linseed Products Companyを買収して、現在のアーチャー・ダニエルズ・ミッドランドとなります。
1963年にメキシコ湾に輸出ターミナルを建設し、1974年にヨーロッパと南米で初の大豆加工工場を買収して海外進出を加速させます。
1997年に食用豆事業に参入し、2014年に中国に食品原料工場を建設しました。2017年にCrosswind Industries, Inc.とChamtorを買収し、以降は関連企業を積極的に買収して事業を拡大します。
事業内容
アーチャー・ダニエルズ・ミッドランドの主力製品は、小麦粉・油・甘味料といった食品です。その他にも、以下のような産業に携わっています。
- 植物由来の肉や乳製品などの代替品の開発
- ペットの健康を考慮した栄養食品
- バイオディーゼルの開発
- エタノールや工業用オイルの製造
- 肥料の生産 等
アーチャー・ダニエルズ・ミッドランドの経営状況
同社の経営状況として、直近6年間の売上高・粗利益の推移を紹介します。
参考:ADM「Quarterly Results」
2023年の売上高は939億ドル(14兆850億円)で、2022年の1,016億ドル(15兆2,400億円)から77億ドル(1兆1,550億円)減少しました。売上高が大きく減少した要因は、商品の販売価格の低下です。販売量は増加したものの、販売価格の低下による影響をカバーするには至りませんでした。
また2023年の粗利益は75億ドル(1兆1,250億円)で、2022年の76億ドル(1兆1,400億円)と1億ドル(150億円)の減少でした。売上高が大幅に減少したものの、為替レートの影響により粗利益は前年と同水準を維持しています。
同社の地域別売上高の構成割合は以下のとおりです。
参考:ADM「Quarterly Results」
※ケイマン諸島は、西インド諸島にあるイギリス領土の3島のこと。
本社を置くアメリカの構成割合が41.3%と最も高く、次いでスイスとケイマン諸島となっています。このことから、同社の海外売上比率は58.7%です。
アーチャー・ダニエルズ・ミッドランドの事業別売上高の推移
さらに経営状況について深掘りするために、同社の各事業の売上高に注目します。
事業別売上高の構成割合は以下のとおりです。
参考:ADM「Quarterly Results」
グラフから同社の主要事業は、農産物&油糧種子であることが分かります。次に、各事業の売上高の推移を紹介します。
Ag Services and Oilseeds:農業サービス&油糧種子
農業サービス&油糧種子は大豆・ひまわり・アマニといった油糧種子の植物油、タンパク質食品への粉砕・加工、バイオディーゼルの精製を担う事業です。農産物&油糧種子の売上高の推移は以下のとおりです。
参考:ADM「Quarterly Results」
2023年の売上高は760億ドル(11兆4,000億円)で、2022年の821億ドル(12兆3,150億円)から減少しました。大きな要因は、ブラジルの大豆生産量の記録的な増加、アルゼンチンの干ばつによる市場の混乱、販売価格の低下が挙げられます。
Carbohydrate Solutions:炭水化物ソリューション
炭水化物ソリューションは、トウモロコシと小麦の製粉に関する製品を担う事業です。甘味料、デンプン、シロップ、グルコース、小麦粉などの食品を製造しています。また食品以外にも、アルコールやエチルアルコール、動物飼料の原料を製造しています。
炭水化物ソリューションの売上高の推移は以下のとおりです。
参考:ADM「Quarterly Results」
2023年の売上高は145億ドル(2兆1,750億円)で、2022年の159億ドル(2兆3,850億円)から減少しました。販売価格の低下や販売量の減少が影響しました。しかし、直近6年間で見ると高い水準を維持しています。
Nutrition:栄養
栄養は、食品・飲料・栄養補助食品・ペットフード・家畜用飼料など、エンドユーザーに向けた製品の製造・販売・流通を担う事業です。栄養の売上高の推移は以下のとおりです。
参考:ADM「Quarterly Results」
2023年の売上高は73億ドル(1兆950億円)で、2022年の78億ドル(1兆1,700億円)から減少しました。原因は、インフレの影響による食品・飲料・栄養補助食品の需要低下、ヨーロッパや中国における動物飼料の低迷です。
アーチャー・ダニエルズ・ミッドランドの成長戦略
アーチャー・ダニエルズ・ミッドランドは、2021年に成長戦略として5カ年計画を発表しました。5カ年計画での目標は以下のとおりです。
- 生産性とイノベーションで3事業全体の成長を牽引する
- 2025年までに栄養事業の収益を12億5,000万ドル~15億ドルにする
- 2025年までにEVA10億ドルを目標とし、株主への価値創造を推進する
- 計画期間中に50億ドルの自社株買いを含む、バランスのとれた資本配分戦略をする
- 2035年までにスコープ3の温室効果ガス排出量を25%削減する
※EVAは経済付加価値のことで、投下資本に対して発生した付加価値のこと。
※スコープ3は、サプライチェーンの上流・下流のこと。
まとめ
アーチャー・ダニエルズ・ミッドランドは世界200カ国以上に進出している穀物メジャーです。食品やペットフード、バイオディーゼルの開発・販売をしており、同分野において大きな影響力を持っています。食品を輸入に頼る日本経済にも影響するので、同社の動向は今後も注目しましょう。