
モデルナは、アメリカに本社を置く製薬会社です。コロナ禍ではmRNA技術を使いコロナワクチンを開発し、日本においても多くの方が接種しました。モデルナでは、コロナウイルスだけではなく、がんの治療にもmRNA技術を応用できるとして開発を進めています。本記事では、モデルナの会社概要や経営状況、成長戦略について紹介します。
モデルナとはどんな会社

出典:モデルナ
モデルナはmRNA技術により、ワクチンや治療薬などを開発している企業です。ここでは、モデルナの会社概要や歴史、経営理念について紹介します。
会社概要
モデルナの会社概要は以下のとおりです。
会社名 | Moderna, Inc. |
本社 | アメリカ |
設立 | 2010年 |
拠点数 | 18拠点 |
開発中の新薬 | 45 |
従業員数 | 5,600人以上 |
売上高 | 67億ドル(2023年度) |
モデルナを知るには、mRNAの理解を深めることが重要です。そこで、mRNAワクチンの仕組みについて簡単に解説します。
mRNAとは、人間が体内で細胞を作る際の設計図です。そしてmRNAワクチンは、ウイルスのスパイク部分のmRNAを人工的に製造したものです。これを接種すると、体内にウイルスのスパイク部分のみが生成されます。
スパイクは、ウイルスと細胞が結合する部分のことです。スパイクは人体にとって異物のため、ワクチンで体内に生成させることにより、人の免疫機能から抗体を獲得します。その上で、ウイルスが体内に侵入してもスパイクに対する免疫反応によって、感染や重症化を防ぐのがmRNAの仕組みです。
歴史
モデルナは、2010年に創業者のデリック・ロッシ氏により設立されました。デリック・ロッシ氏はカナダで移民の夫婦の間に生まれ、トロント大学・大学院を修了した後、スタンフォード大学の博士研究員を務めていた幹細胞生物学者です。
2011年には、mRNA医薬品の製造に関する研究を開始し、ステファン・バンセル氏をCEO(最高経営責任者)に任命しました。2014年には、マサチューセッツ州に新しい本社と研究所を設立しました。
2015年には、初めてmRNA技術を活用したインフルエンザワクチンを人に投与します。2017年には、複数の疾患を予防できる混合ワクチンの投与も開始します。2020年には、コロナウイルスのワクチンをいち早く開発し、アメリカで接種を開始しました。日本では、翌年の2021年にコロナウイルスワクチンとして承認されています。
2024年時点では、コロナウイルスのワクチン以外に、急性呼吸器感染症を引き起こすRSウイルスのワクチン開発に成功しています。
経営理念
モデルナはミッションに「mRNA医薬で人々に最大の可能性を」を掲げ、ミッション実現のために重視しているのが以下の4つの価値観です。
- 勇敢
- 好奇心
- 協力
- 粘り強さ
さらに、同社は企業文化として、以下の12個のマインドセットを掲げています。
- 私たちは、即座に行動します。
- 私たちは、さまざまな可能性を並行して探ります。
- 私たちは、リスクを受け入れます。
- 私たちは、貪欲に学びます。
- 私たちは、勇敢に方向転換します。
- 私たちは、しきたりや慣習にとらわれません。
- 私たちは、時には無理だと思うことにも、全力を尽くします。
- 私たちは、オーナーとして行動します。
- 私たちは、しなやかに行動します。
- 私たちは、あらゆる障壁を取り除きます。
- 私たちは、プラットフォームを優先します。
引用:モデルナ「モデルナのマインドセット」
モデルナの経営状況
モデルナの経営状況として、直近6年間の売上高と営業利益の推移を紹介します。

参考:モデルナ「Annual Reports」
2023年度の売上高は68億ドル(1兆200億円)で、2022年度の193億ドル(2兆8,950億円)と比較して125億ドル(1兆8,750億円)減少しました。また、2023年度の営業利益は42億ドル(6,300億円)の赤字で、2022年度の94億ドル(1兆4,100億円)と比較して136億ドル(2兆400億円)減少しました。※1ドル=150円換算
売上高が大幅に減少した要因として、コロナウイルスワクチンの接種率の低下による需要の減少が挙げられます。また、営業利益が大幅に減少した要因として、売上高の減少に加え売上高原価率の高騰が挙げられます。2022年度の売上高原価率は28.1%でしたが、2023年度は68.5%に急激に増加しました。このことから、2023年度のモデルナの業績は急激に収益性が悪化し、赤字に転落しています。
モデルナの地域別売上高の構成割合は以下のとおりです。

参考:モデルナ「Annual Reports」
モデルナのアメリカ国内の売上高が全体の27.9%なので、同社の海外売上比率は72.1%です。
モデルナの成長戦略と5つの重点分野
モデルナは成長戦略として、2024年9月に以下の目標を発表しました。
- 2027年までに10製品の承認を目指す。
- ポートフォリオの優先順位付けとコスト効率化により、研究開発費用を2024年の48億ドルから2027年には36~38億ドルに削減する。
そして、同社は医薬品の開発において、5つの重点分野に注力しています。5つの重点分野と開発中の医薬品について紹介します。
感染症
モデルナは感染症の予防と治療のために、mRNAワクチンを積極的に開発しています。具体的に開発中のワクチンは以下のとおりです。
- 次世代コロナウイルス
- RSウイルス
- インフルエンザ
- ノロウイルス
- サイトメガロウイルス
※サイトメガロウイルスとは、母子感染することで、胎児が先天性欠損・小頭症・網脈絡膜炎・認知機能障害・脳性まひなどのリスクが高まる感染症です。
これらの感染症に対するワクチンに加えて、複数の感染症に対応できる混合ワクチンの開発も進めています。
腫瘍免疫学
モデルナはがん治療において、mRNA技術を応用した免疫療法の確立を目指しています。開発が進められているがん治療ポートフォリオは以下のとおりです。
- 胃がん
- 膀胱がん
- 皮膚がん
これらのがん治療ポートフォリオは、新たな治療方法の選択肢として期待されています。
希少疾患
モデルナは希少疾患の治療薬の開発にも積極的に取り組んでいます。現在開発を進めているのは、代謝酵素の欠乏によって引き起こされる2つの有酸素血症(メチルマロン酸血症・プロピオン酸血症)です。
心血管疾患
モデルナはアストラゼネカと協働で、心血管疾患の治療に役立つmRNA医薬品の開発を進めています。※アストラゼネカはイギリスに本社を置く製薬会社です。
自己免疫疾患
自己免疫疾患は、免疫反応が異常に低い、又は高いことで発生する疾患です。代表的な疾患に関節リウマチや慢性甲状腺炎、重症筋無力症などがあります。同社のmRNA技術を活用することで免疫反応を正常に回復できる可能性があるとして、治療薬の開発が進められています。
まとめ
モデルナはmRNA技術により、いち早くコロナウイルスワクチンを完成させたアメリカの製薬会社です。そのワクチンにより、2021年度に売上高と営業利益が増加しました。しかし、アフターコロナとなった現在はワクチンの接種率が低下しており、同社の業績も低迷しています。今後は、mRNAが他の疾患にも展開できるかに注目が集まっています。